第34話 完成!!種族限定即死アイテム。
「あれをどうするつもりなんニャ?」
歩きながらリーンがそんな声をかけてくる。
「ん、ああ。ちょっと思いついた事があってな」
「思いついた?金鶏菊では気休めの冒険者製応急薬にもならない。食べられない事はないと思うけど好き好んで食べるものでもない。集める理由が分からない」
首を捻りながらアンフルーが言った。
「まあ、そこはあんまり気にしないでくれよ。俺だって確信があっての事じゃないからさ」
「そうニャの?」
「ああ。試しにやってみよう…ぐらいのもんだ。ところで二人に聞きたいんだが…」
「ニャ?」
「何?」
「あの日、リーンとアンフルーはなんで別行動をしてたんだ?」
「ニャ!あの日、アンフルーは人に会う用があったのニャ」
「街に着いたのは昼過ぎ、二人して面会をしたらその日は潰れてしまう」
「だから別行動にして、ボクはお魚や木の実でもないかなって森に来たのニャ。難しい話はアンフルーに任せるに限るニャ!」
「難しい話?」
「具体的には依頼の話」
「へえ、どんな?」
「採取依頼」
「採取依頼で難しい話か?」
「採ってくるのがなかなかに厄介」
「ああ、なるほどね。だから二人に依頼が…」
採取依頼は初心者向けの依頼が多い。もちろん強大なモンスターの巣から卵を取ってこいというような難しい物もある。リーンにせよアンフルーにせよ相当な腕前だと感じる。そんな二人に依頼するくらいだから確かに厄介なものなんだろう。
「んで?その依頼、受けたのか?」
「まだ返事をしていない。リーンと相談して決めようと思った」
「…それ、何日か前の話だよな?」
「ん」
「おい、結構待たせてないか?それ」
「そう?まだ数日…」
「ああ、エルフの時間の感覚はそうなのね…」
人生千年の種族だからなあ。
「心配ない。簡単には採れない素材、それに多い分には越した事がない物。買い手はいくらでもつく」
そのくらい需要があるのか、どんな素材なんだろう。そう思っていた時、リーンが声をかけてきた。
「森を抜けるニャ、もうすぐ街だニャ」
「おう。じゃあ話し合い通り…」
「うん、宿を引き払ってくるニャ」
「ハッキリ言ってキノクの拠点は高級宿より快適。そこに寝泊り出来るのは望むところ…」
「ああ…、そうすりゃ常に一緒にいられるからな。そういや宿場街に行く前に雑貨を扱う店が集まる界隈を通るな…。少し立ち寄らせてくれ」
「分かったニャ」
「ん」
こうして俺は二人の仲間との共同生活を始める事にした。
□
ごりごりごり…。
俺は部屋の中で小さな乳鉢で金鶏菊をすり潰している。何回かに分けて手の平に乗る程の量をペースト状にした。それを三つに分ける。
一つはそのまま、二つ目には薬草の効果を上げる触媒茸を混ぜた。三つ目には触媒茸を混ぜた物に飲める温泉水を少し混ぜた。
「ねえねえキノク〜、霊薬でも作ってるのかニャ?でも、金鶏菊は薬草じゃないニャよ?」
俺の作業を覗き込みながらリーンが声をかけてきた。
「ああ、確かに怪我を治すような薬にはならないだろうな」
「じゃあ、なぜ触媒茸を?」
今度はアンフルーが声をかけてきた。薬草でもないのに効果を増幅させる触媒茸を使うのはなぜだというのだろう。
「俺の故郷は夏は湿気が多くてな、とにかく蒸し暑いんだ。だからよく虫が出るんだ。蚊っていう人の血を吸う虫なんだけどな。それを落とす品物があるんだよ。それができたらなって思ってな」
「虫を…落とす?」
「ああ。その材料になるのがとあるキク科の…菊の仲間の植物なんだよ。んで、さっきこの金鶏菊をよけるように蝶が飛んでいるように感じたんだ。だから、もしかするとこの金鶏菊には虫が嫌がる成分があるんじゃないかと思ったんだよ。よし…アンフルー、この三つを乾燥させてくれないか?」
「ん、分かった」
アンフルーが魔法を調整して乾燥にかかる。
「ねえねえ、キノク〜?」
「なんだ?」
「これ、何ていう品物ニャの?」
俺の膝の上に上半身を乗せながらリーンが尋ねてくる。
「これは蚊取り線香だ」
□
アンフルーが乾燥させてくれた蚊取り線香を持って街中に出かけた。そこかしこに馬糞が落ちていたり、汚水の流れるドブ川みたいなものもある。それに集る虫はいくらでもいる。実験場所には事欠かなかった。
「まずは金鶏菊だけの物を…」
ドブ川の近くで小さめの松ぼっくりくらいの大きさのそれに火をつけた、煙が漂い始める。
「あっ、小バエが逃げていくニャ!」
「思った通りだ。やっぱり金鶏菊には虫が嫌がる成分があるんだ」
「これは知らなかった」
物知りのアンフルーが知らないってのはなかなかにレアな知識だったのかも知れない。そして、次に触媒茸を混ぜたものを試した。
「あっ、凄い勢いで逃げて行くニャ。それに…」
「ん、逃げ遅れた小バエが何匹か落ちた。痙攣してる」
「よし、じゃあ最後はさらに温泉水を加えたものを…」
「けっ、煙が触れた瞬間に落ちたニャ!」
「痙攣すらしてない、即死、ご臨終」
「バ…バル◯ンより凄えんじゃないか、コレ?」
凄い効果だ、さしずめ対昆虫用即死アイテムといったところか…。
がしっ!
アンフルーが俺の手を力強く握ってきた。
「蚊取り線香キタ、これで勝つる!」
「え、何?」
「行こう、キノク!リーンと共に!」
何やらアンフルーがやる気に満ちた目をしてる。そして俺の手を引いて歩き始めた、それは細身の女性とは思えない力だった。
「手、手を引っ張るなあ!」
抗議の声もむなしく、俺はアンフルーによって連れ去られるのだった。
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