第33話 蝶を追って。
「あっ!!蝶々(ちょうちょう)ニャ!」
首都アブクソムに戻る為、森を歩いていると数匹の蝶がいた。色といい大きさといいまるでモンシロチョウのようだ。
実際の猫が動くものが気になるように、リーンもまた気になるようだ。そろりそろりと近づいていく。興味津々(きょうみしんしん)、腰に帯のように巻いている尻尾がいつの間にかピンと立っている。
近づいてくるリーンの気配に気付いたか、蝶はリーンから逃げるように離れていく。
「いじめたりしないのニャ!!」
逃げていった蝶に対してリーンが不満を洩らしている。
「まあ、そう言うなよ。自分よりはるかに体の大きいものが近づいてきてるんだ。蝶だって逃げたくなるさ」
「ニャ!?う〜…」
リーンは理解はしてくれたみたいだが、それでも不満はある…そんなところだろうか。ひらひらと舞い踊るように森の奥へと離れていく数匹の蝶を悔しそうに目で追っている。
「おや?」
まっすぐ森の奥へと進んでいた蝶であったが、急に横に進路を変えた。軟投派の投手が投げるよく曲がるカーブのような動き方だ。そして曲がったかと思ったらまた森の奥へと進んでいく。まるで障害物があるのをよけて進んだかのようだ。日本人的な感覚で言えば道の端を歩いていたら電信柱があり、それをよけて進んだような感じだ。
(何か天敵みたいなものでもいるのか?)
気になったので蝶が進路を変えたあたりを眺めてみる。うーん、特におかしな事はない。
「リーン、あのあたりに動物やモンスターとかの気配はするか?」
俺は蝶が進路を変えたあたりを指差して尋ねた。昆虫を餌とするような存在がいるのかと思ったのだ。
「しないニャ。動物もモンスターも…他の虫の気配すらしないニャね」
うーん、じゃあ天敵みたいな存在がいる訳じゃないんだ。
「アンフルー、魔力とか魔素とか瘴気みたいなものを感じるか?」
「特にそのような物は感じられない」
「そうか…」
なら危険は無いよな。でも、なんで蝶はあんな動きをした?リーンから逃げるような動きをしていた蝶。本来なら少しでも距離を取りたい筈だ。一目散に逃げるじゃないが、寄り道してる余裕は無い筈だ。
何か…あるのか?
よく森を観察してみる。確かに何か変わったところはない。
「キノク〜、どうしたニャ?」
「ああ、さっき蝶が逃げていったろ?」
「ニャ!」
「だけど、あのあたりで急に進路を変えた。進路を変えたくなるような何かがあるのかと思ってな」
そよそよと風が吹くのどかな森。その時、小さな黄色い物が揺れたような気がした。
「あれは…」
俺は下草のようなものが群生しているそこに近づいていった。
□
「これは金鶏菊」
アンフルーがその植物の名前を教えてくれた。
「へえ、コレはそんな名前なのか」
「金鶏という金色の卵を生む鶏がいる。その卵に花が似ているからこの名前になった」
「小さい卵を産むんだな。鶉みたいだな」
見た目はヨモギみたいな感じなんだけどな。ああ、ヨモギはキク科の植物だっけ。濃い緑色をした葉を茂らせた葉を手で弄りながら呟く。
「森でも野原でも真冬以外はどこにでも生えている。珍しい物ではない」
「そうなんだ、蝶が進路を変えたのはこの辺り…」
「ニャ!強い匂いニャんね」
指で金鶏菊をいじっていて少し葉の表面をすり潰していたのだろう。自分の鼻先に指を近づけると微かに独特な匂いがする。
「確かに独特の匂いはするけどさ、そんなに強い匂いか?」
「ニャ!?ボクは鼻が良いんニャよ」
「ああ、なるほど」
だから離れていてもリーンは独特の匂いに気付いたのか。だけどあの蝶も凄いな。きっと指ですり潰す前から分かっていたのだろう。
「あれ?待てよ…」
俺は少し考える。
「なあ、ちょっとコレを集めても良いか?」
俺は二人にそう声をかけていた。
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