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閑話 俺は紀伊国文左(きのくにふみすけ)。その3


 絶体絶命、そんな言葉が思い浮かぶ。


 先程の宰相とやらを殺す命令をした皇帝、完全にオーバーキルなところまで槍で刺し殺した兵士達。その中でもう十分と刺さなかった兵士が粛正されたばかり。


 同僚すら平然と手にかけた連中だ。何の縁もゆかりも無い俺を殺すのに躊躇(ためらい)なんかは持つ筈がない。どう考えてもさっきより苛烈な殺害となるだろう。


「なんだよ、ちくしょう!!俺が何か悪い事したか!?召喚した奴の腕が悪いだけじゃないか!当たりの奴を召喚しなかったクセに!」


 俺は思わず叫んでいた。せめて(うら)(ごと)の一つでも…そんな気分だった。ああ、俺は家にいただけだぞ。何も悪い事をしてないじゃないか!家に戻りたい、そう思った時だった。その時、世界が揺らいだ気がした。もしかすると帰れるのか、そんな希望が湧いてくる。


「お待ち下さいませ、陛下」


 その時、一つの声が響いた。



「何事じゃ!?余の言う事に不服か、子爵!?」


 皇帝が怒りの表情を隠そうともせず吐き捨てるように行った。


「いえ…。さりながらお耳に入れとう事がございます」


「なんじゃ!早く申せ!」


「はっ。古今東西チキウという所より人を呼び寄せる事、これまでに何度かあったと聞き及びます。その話を聞く限り余程使えるか、使えぬかの両極端であったと」


「そうじゃ!今回はハズレを掴まされたと言っておるではないか!」


「その事にございまする。そのハズレの者どもがいたという事、なぜ今の世にも伝わっておるのでございましょう?」


「む…」


 皇帝の怒りの気配に少し思案の色が混ざったように感じた。


「私が思いますに…」


 子爵と呼ばれた男が言葉を続ける。


「殺すに殺せなかったのではありませぬか?例えば殺せば国に災いが及ぶとか…。それゆえ生かしたのではないかと…」


「ほう…」


「今回は無能だったやも知れませぬ。…が、次の機会もございましょう。その時にもし…、いや未来永劫望む結果が得られぬとあらば…」


「なるほど…。つまらぬ者を殺した挙句(あげく)、つまらぬ者しか呼べぬとあっては目も当てられぬという訳か」


「ははっ」


「よかろう、余の寛大なる心により放逐(ほうちく)するにとどめる。どこへなりとも行くが良い、即刻この皇城(しろ)より追い(はな)て!!」


「さすがは陛下!使えぬ者にも寛大な沙汰にございまする。民もその徳に敬服いたしましょう」


 そう言って子爵と呼ばれたおべっか使いにしか見えない奴は恭しく頭を下げた。なんだこの茶番、いきなり地球ですらないとこに呼び寄せて人を捨て犬みたいにしやがって。何の生活基盤もない所に放り出されて生きていける訳なかろうが!何が敬服だ、馬鹿にしやがって!


「歩け!!」


 俺が(いきどお)りを感じていると兵士の一人が俺の背中を突いてきた。おそらく槍の石突きでやられたのだろう。


(この野郎…)


 だが、どうにもならない。大人しく城から出るしか無いだろう。下手に逆らったら殺されてしまう、悔しいが我慢するしかない。


「陛下」


「子爵、何か?」


「このような下賤(げせん)の者、栄光あるこの城より一刻も早く叩き出すべきでござりまする。私が見届けますゆえ中座いたしましても…?」


「許す」


「はっ!では…」


 そう言って俺の前に立ち先導するように歩き始めた。再び兵士に槍で小突かれ歩けと言われる。


 仕方なく歩き始め広間のような場所を出ようとした時に俺の後ろで再び皇帝の声がした。


此度(こたび)の召喚に(たずさ)わった召喚士(もの)全てを…」


 広間の扉が閉まり始める音がする中で…。


「殺せ」


 …扉が閉じた。


……………。


………。


…。


 城門を出た所で兵士にどこへなりとて行けと言われ外に押し出された。すぐさま兵士達は城内に戻っていく。


 だが、どうしろって言うんだよ。一文無しだぞ、この世界の事なんて知らないんだぞ。どうやって暮らせと言うんだ!食って行けと言うんだ!


「お前を生かしてやる。喜べ」


 振り向くとおべっか使いの子爵がいた。まだ残っていたのか。


(何が喜べだ…)


「金も、行くあても無いであろう」


 それは事実だが…、クソッ。


「そのくらいは理解する頭はあるようだな。安心せい、後に英雄となる者の一党(いっとう)に加えてやろう。…召使いとしてな」


 その男…、子爵はプルチンの父親であった。


 




 次回より第三章です。



 いかがでしたでしょうか?


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