第32話 投資の真価、キノクの急成長。
右にリーン、左にアンフルー。
俺の両側にそれぞれ陣取って二人が眠っている。可愛い系と美人系、二人を両脇にして寝るというのは一部の方々から爆発しろと言われるようなシチュエーションであろう。また、リーンは元々だがエルフのアンフルーも布団を気に入ったらしい。現在、二人ともグッスリと眠っている。
「アンフルーは一日でも二日でも眠り続けてしまう事があるのニャ。だから起こす時はしっかり起こさないと駄目ニャよ」
三人で布団に入る時にリーンがそんな事を言ってたっけ…。俺はうつぶせ寝の状態で首を右左して二人の様子を見る事にした。
まずはリーン。
「スヤァ…」
リーンは本物の猫が安心して寝ている時のような表情をして眠っている。そこに野生は完全に感じられない。…別に猫の獣人って言っても野生ではないか。リーン、なんかごめん。続いて俺は左の方を見た。
「…あと五日」
「長えよ」
アンフルーの寝言に思わずツッコミを入れた。そういやエルフって寿命が千年くらいあるんだっけ。やはり時間の感覚が俺達とは違う。
まあ、とにかく二人ともすぐには起きそうもない。他にする事もないので俺はなんの気無しにノートパソコンを起動した。
……………。
………。
…。
「宅配ボックスだけじゃなかったのか」
俺は画面を見ながら呟いた。俺の投資の能力は宅配ボックスのように何かの施設のようなものを新たに得るだけでなく、その効果は俺自身にも反映されるらしい。
「具体的には筋力が強化されたり、新たな能力を得たり…。そうか、冒険者は経験を重ねてレベルが上がる。しかし俺は商人、金を稼ぐ事でレベルが成長する」
さらにその稼いだ金を投資して様々な能力を得る事が出来る事が分かった。昨日はパソコンをのんびり眺めていられなかったからな、今日はじっくり見てどんな能力を得るか考えてみよう。幸い、所持金は五百万ゼニー以上残っている。
「まずは基礎パラメータから…」
基礎パラメータである筋力、敏捷…。果ては生命力や魔力まで成長させる事が出来るらしい。残念ながら知力という項目がない。これは学習しろという事だろうか。
試しに筋力パラメータを1上げてみようとする。すると1万ゼニーが消費予定金額として画面に表示された。
「能力値1ポイントが1万ゼニー?それならパラメータをオール200とか楽勝じゃないか!」
そう思ってもう1ポイント上げてみようとする。すると今度は2万ゼニーが消費され、計3万ゼニーが消費予定となった。
「1万ゼニーずつ必要額が増えていくのか?」
どうやら俺の予想通り基礎パラメータは1ポイント成長させるごとに1万ゼニーずつ必要額が増えていった。
「じゃあ思い切って10ポイントずつ上げてみよう」
これなら1項目あたり55万ゼニー。パラメータ項目は筋力、敏捷、体力、器用、生命力、魔力の6項目あるから合計で330万ゼニーを必要となる。今の所持金の半分以上を失ってしまうがまた稼げば良い。
「よし、決定!」
魔石と共に枕元に置いていた卑金貨を入れていた袋のふくらみが一気に減った。引き落とされたのだろう。
「うーん、体に力が溢れている…とかはないな。でも、宅配ボックスとか使えるようになったんだし何か金を稼ぐ手段を見つけるか。商人らしく物を売ったり、何かの商売をして…」
そうなると今出来る事で…。
「うニャ…。キノク、おはようだニャ…」
もぞもぞ…。リーンが布団の中で俺の背中によじ登り始める。
「お前、それはやめられないのか?」
「やめられないニャ、止まらないニャ。ネコの本能だニャ、温かい所はガッチリ確保ニャ。んで?何してるニャ」
「ああ、俺に何か商売出来ないかなって。稼げは稼ぐほどレベル上がるみたいだし」
「ニャ!お店やるのかニャ!?」
「それは無理だ。俺は商人ギルドの会員じゃないからな。せいぜい広場で露店をやるのが関の山さ」
店舗を構えるには商人ギルドに加盟しなくてはならない。だがそれには加盟金、さらには身元保証人が必要だ。
しかもこの身元保証人、誰でも良いという訳ではない。既に商人ギルドに加入しているそれなりの立場のある人とか、あるいは貴族とか…そういう人になってもらわなくてはならない。
だが、着の身着のままで異世界召喚された俺にはそんな金も知り合いもいないのだ。まあ、召喚された瞬間にいるにはいたが…思い出したくもない。
「ニャ?どうしたニャ、キノク。怖い顔してるニャ」
「ん、ああ…」
どうやら俺は思っていた事が顔に出ていたらしい。
まあ、恨みってやつは強い感情だ。無理に隠す気も無いし。
「悪気が…、漂っている」
むくり…。
アンフルーが起き上がる。
「…魔力が…前より強く…。一晩で何があった、キノク?」
昨日の時点で俺の魔力は10だった。パラメータを10買ったんだから今は20という事になる。倍増だ、アンフルーはそれに気づいたんだろう。
「商人の能力のようだ。それで魔力が強くなったみたいだ」
「そう」
「ニャッ!そんな事が!」
「では、さっきの悪気は…?」
「俺、かな?」
「もしかして…、とは思っていた」
アンフルーは察していたようだ。魔力のように俺の感情みたいなものも分かるのかも知れない。
「朝メシにしよう。食いながら話をしようか、俺がここにいる訳を」
そう言って俺は起き上がった。
これにて二章は終了です。
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