第31話 事後?キノク、始まったニャ。
「う…」
俺は目を覚ました。布団をかけられている。どうやら寝かされているようだ?
「…合成して…。俺は…」
記憶を呼び起こす。たくさんあるが小さい魔石を俺は合成しようとして…。
《是(肯定するという意味)》
あ、ナビゲーションシステム。
《警告。その結果、魔力を使い果たしました》
使い果たした…。確かアンフルーが俺の能力を調べてくれた時は魔力が10と表記されていた。その魔力を使い果たしたという事は消費魔力は10という事か…。
『是』
うーん、という事は合成したら俺はその度に魔力を使い果たしてしまうという事か…。ボンヤリとした頭でそんな事を考える。
「…って事は極端な話、布団に入って寝る直前に合成の能力を使えば良いのかな…」
そうすれば意識を失っても問題はない。起きている状態から睡眠状態に移行するだけだ。
「…ううん」
声がした。眠っている者が洩らすような…、そんな声。
俺は天井をボーッと見ながら考え事をしていたので周りの様子を見ていなかった事に気付いた。腹や胸のあたりに重みを感じる。ああ、これはリーンだ。こいつ、また俺の上に乗っかって…。
だけど先程の声はリーンではない。
「アンフルー?」
俺はここにいる可能性があるもう一人の名を呼んだ。
「おはよ」
左腕に存在感。もぞもぞと布団の中で体を動かし俺の左肩にその顎を乗せるようにしてアンフルーが声をかけてくる。間違いない、先程の声はアンフルーだ。
「なあ、アンフルー?」
「なに?」
「お前、なんで服着てないの?」
「ふふ。事後」
「いや、『事後』じゃねえよ」
「キノクが意識を失って…。無防備で美味しそうだったから…つい」
「つい、じゃねえよ!何してくれてんだ!」
俺は目の前にいるエルフにそう声をかけた時の事だった。
「うニャ…。キノク、起きたのニャ?」
布団の中から声がした。
「お、おう、リーン」
「目が覚めたんニャね、良かったニャ!アンフルーが魔力を使い果たして倒れたんしゃないかって言ってたから心配したのニャ」
もぞもぞと布団の中を動く気配がしたかと思うと、俺の胸元からぴょこんとネコ耳頭が現れる。
「ニャ!」
「待てお前!なんでお前も裸やねん!」
思わず関西弁。
「キノクをオフトゥンに寝かせたら、急にアンフルーがキノクの服を下半身だけ脱がせたのニャ。呼吸がラクになるからって…」
「なんで下半身の服を脱がせたら呼吸がラクになるんだよ!普通上半身だろ!」
「それからアンフルー自身も服を脱ぎ出したからニャ!だからボクも…」
「意味が分からん」
「アンフルーは魔力枯渇で気絶した時は裸になって温め合う….って言ってたのニャ。さすがにアンフルーはこういう非常時の事もよく知っているのニャ」
「それは雪山とかで冷えた体を温める時の話だ。そもそもそれも間違いだが」
「ニャッ!そうなのかニャ!?でも、心配しニャくて良いよ!キノクのお股はボクがしっかりガードしておいたニャ!」
「むう。鉄壁のガードだった。残念」
コイツら…。
「あー、もう良い。とにかく離れろ」
「駄目ニャ!」
がしっ!リーンは俺のシャツの胸元を掴んだ。って言うかなぜ呼吸をラクにするのに下半身を脱がせたのだろう?
「少しは魔力が回復したから意識が戻ったみたいニャけど、まだまだ全快には程遠いニャんよ」
「そう言われるとそうか…」
確かにまだ頭はスッキリとしない。ボンヤリとしたままだ。
「じゃあ、キノク!起きるニャんよ!」
「えっ!?起きる?」
ゆっくり休むんじゃないの?こういう時。
「おんせんニャ!体も温まるし、癒されるのニャ!」
「おんせん?」
「そうなのニャ!アンフルー、ここにはおんせんというお湯を張ったお風呂があるニャ!体はポカポカ、怪我も治る凄いものなのニャ!」
そう言うとリーンはガバッと立ち上がった。そして俺を布団から起こした。
「さあさあ、キノクも一緒に来るニャ!アンフルーも!おんせんは広いお風呂だから三人でもラクに入れるニャ!」
グイグイと俺を引っ張りながらリーンが風呂場に先導する。
「お風呂…、ぬふふ。ハダカの付き合い…いや、突き合い」
「アンフルー、お前なんで言い直した」
「なんでもない。早いおと…、じゃなかった。細かい男は嫌われる」
「そーそー!今はおんせんで体を癒す時ニャ!」
「こ、こら!服を脱がすな!」
リーンが俺のシャツのボタンに手をかける。
「ニャ!暴れちゃ駄目ニャ!アンフルー、手を貸すのニャ!」
「分かった。潜在能力解放魔法、三倍…、いや四倍だぁーッ!!」
抑揚は相変わらず無いがアツいセリフを繰り出すアンフルー。
「ア、アンフルー本気ニャ!これでアンフルーのスピードもパワーも四倍になったニャ!」
シャシャシャシャッ!
目にも留まらぬ早業でアンフルーの手が動いた。その一瞬の出来事が終わるとアンフルーはクルリとこちらに背を向けた。うーん、痩身麗人。
「また…つまらぬ物を脱がせてしまった…。初めてだし、つまらなくはないけど…」
「えっ?」
アンフルーの訳の分からない発言に戸惑っていると、それは不意に訪れた。
パサッ、バサバサッ!!
「お、俺の服が…」
なんと一瞬にして俺の服が脱衣されていた。
「靴下は…」
首だけこちらを向けてアンフルーがチラリと俺を見る。
「残しておいた…」
そして俺の爪先から頭の先まで眺めると、
「良しッ!」
満足そうにそう言って拳をグッと握った。
「そこはパンツにしてくれよ…」
「まあまあ。さあ、おんせんニャ!」
こうして俺は入浴熱心な女二人によって温泉につかる事になった。白濁したお湯に最初は残念がっていたアンフルーだったが、
「見えぬのも…また良し」
などと宣っている。
こうして俺は入浴を楽しみ(楽しまれ?)、三人揃って布団で一晩ゆっくりと休んだ。その枕元には合成で作り出した大きな魔石が鈍い輝きを放っていた。
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