第29話 アンフルーの独自魔法(オリジナル)。
亡者群体…。
死体や悪霊などこの世ならざるものが集まって一つの群体となっているモンスターの総称である。形状は歪で大きな球体というのがほとんどで人間や動物、果てはモンスターなど種族の垣根なくその死体が雪だるまのように一緒くたになっている。さらにそこに悪霊など実体のないモンスターがまとわりつくような感じでおどろおどろしい、腐肉と骨と悪霊が構成する混沌そのものといったアンデッドモンスターだ。
ただその行動は風任せとでも言おうか、明確な意思を持っている訳ではない。自ら進んで街を滅ぼそうとかいうような行動はとる事はなく、せいぜい近くに命あるものがいた場合に襲いかかるという程度である。そうして新たに死体を生み出し取り込むのである。こうして亡者群体がまた少し大きくなる。
その結果、千にも万にもなったまさにアンデッドの軍団とも言うべき存在となる。本来レギオンとは軍団を語源とするが、見た目の恐ろしさなどからレギオンとはこの亡者の集合体の事を指す言葉となった…。
……………。
………。
…。
「リーン、他に亡者群体がいないか…。それと」
「分かってるニャ!他にゴブリンとか近付いてくるのがいないか警戒するニャ!」
早速二人が動いた。リーンは俺の横に位置取り、軽く姿勢を低くして周囲に視線をやる。同時に耳の動きも忙しい、俺を守りながらいつ新手の敵が出現しても良いようにしているのだろう。
代わりにアンフルーが俺達の数歩前に出た。
「リーン、他には?」
「近くにはいないみたいニャ。火の魔法を使うのかニャ?」
「火は使えない。ここは森、燃え広がったらいけない」
「ニャ?でも、アンデッドには火が一番手っ取り早いのニャ…」
「代わりに光の魔法で戦う。続けて警戒を、この魔法は発動までにやたらと時間を要する」
そう言うとアンフルーは人差し指と中指、二本の指の腹を額に当て何やら集中し始めた。
「敵は大きな球体、一匹二匹潰したところで意味はない。だから中まで通すような攻撃を要する…」
「あっ、亡者群体がこちらに近付いてきてる気がする」
「多分、ボク達の生命エネルギーに気づいたのニャ。だから寄ってくるのニャ」
それってヤバくないか?逃げるか、そう思った時にアンフルーが口を開いた。
「距離120ヤード、風向きはやや逆風…、遮蔽物なし!絶好位置、仕掛けるッ!!」
アンフルーの二本の指が輝き始めた。薄暗い森の中が真夏の太陽光を浴びているが如く明るくなる。
「オ、独自魔法ニャ!」
何やら変わった呪文のようなものを唱え始めたアンフルー、そしてそれに驚くリーン。
「独自魔法?」
「ニャ!アンフルーだけが出来る従来の魔法の法式に従わず自由に威力や属性を持たせる事が出来る魔法の編集能力ニャ!」
「何それ凄い!」
という事は大きさや威力を増幅させたり、弱点になる属性を自由に選べるって事じゃないか!
「アンフルーには出来ているんニャ!火を使わずに亡者群体を確実に倒す術式が…」
距離、風向き、属性、様々な要素を考慮し亡者群体を倒す為にアンフルーは各要素を織り込みながら詠唱を続けた。
「魔力放出形式…貫通型、光属性…。確実ッ…、そう徹夜を続けたらいつかアクビが出るくらい確実に殺る法式…魔法名確定!!それぞれの頭文字を取って…、独自魔法ッ!!魔貫光殺ぽ…」
「わっ、わああああ〜ッ!ちょっと待ったあ!!色々ヤバい気がするッ!ほっ、他の名前でッ!」
俺は止めた、必死になって止めた。
「むう。じゃあ閃光、えい」
適当な感じでアンフルーは魔法を放つ、しかしその威力は凄まじい。敵を指差したと同時にその指先から白く輝く極太の光線が放たれた。それは狙い過たず亡者群体の中心を貫いていく。
「亡者群体それ自体は沢山の死体や悪霊の集合体。だから外側から一体一体引きはがすようにして潰していかないといけない…」
「な、なるほど。亡者群体としては一体、でも分解したら不死モンスターが何百、何千だもんな。くっついてなかったら不死モンスターをその数だけ倒さなきゃいけない」
「でも、例外はある」
「お?」
「レギオンの中心には死者を引き寄せる核のようなものがある」
「じゃ、じゃあそれを!?」
「ん…、それを正確に射抜く事が出来れば…」
「全てのアンデッドを…一網打尽にッ!?」
森に浮かんだ巨大な球状モンスター、亡者群体に風穴が空いていた。それはまるで団子に通した串のような感じだ。そしてその中心部からレギオンの表面にいくつも亀裂が走ったかのように光が漏れ出す。
「終わりね」
アンフルーはポツリと呟いた。
「光属性は闇の住民たるアンデッドにとって苦痛以外の何物でもない。耐え切れず…ただ、消えゆくのみ」
そして、音も無くレギオンが砕け散った。
□
「うわあ、凄い!これ全部が魔石なのか!」
レギオンがいた真下の地面には数多くの魔石が転がっていた。全て小指の爪くらいの大きさだがとにかく数がある。拾い集めて風呂敷のようにした麻布で包むとしゃらりと音を立てた。重さもなかなかのものだ。
「これだけで一稼ぎニャね」
俺の声に水場のそばで魚を捌いているリーンが応じた。
「百を軽く超える死体で出来た亡者群体だった。悪霊とかも含んだら当然その数はさらに増える」
「その死体の数だけ魔石になったって事か…」
「お魚、捌き終わったニャー!」
「こっちも拾い終わった。アンフルー、疲れただろう。少し休憩にしよう」
「…ご休憩?」
「…いや、違う」
アンフルーの言葉に俺は力無く応じるのだった。
……………。
………。
…。
「コクコク…。美味しい、砂糖水サイコー」
飲める温泉水に砂糖を溶かしたもので喉を潤しながらアンフルーがそんな感想を洩らした。
「うんうん、疲れた体に染み込むニャ!」
亡者群体を倒し、休憩することにした俺達は拠点と称している俺の部屋にいた。
「この水、魔法の水?」
「いや、湧水だが」
「私の独自魔法は自由に属性や規模を変えられるけど、その代わりに消費魔力が多い。しかも今回は大きいのを撃った、かなりの魔力消費。それがジワジワ回復しているのを感じる。凄い」
「そりゃあ良かった」
俺はアンフルーの言葉に応じながら、集めた魔石を眺めた。
「それにしても小額な魔石がたくさんなんだよなあ。せっかくレギオンを丸ごと一体倒したんだから大型モンスターを倒したって感じの魔石が欲しいな。同じ重さを納品しても小さいの百個よりデカい魔石一個の方が高値がつくからなあ」
「確かにそうニャね。でも実際、同じ重さの魔石を集めてもゴブリンたくさんよりドラゴン一匹の方が難敵ニャ」
「まあ、そうだな。いっその事、この魔石を一つの大きな魔石に出来たら良いのに」
俺は小さな魔石を手で弄りながらそんな事を呟いた。すると…。
『汝に天啓を与えん』
厳かな声が響いた。
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