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第25話 ごはんをくれたらご主人なのニャ!


「ここで靴を脱いで…。まあ、上がってくれ」


 俺は二人に土間で靴を脱ぐように伝えた。上がり(がまち)に腰掛けてリーンが靴を脱ぎ、アンフルーにどのように部屋に上がるかを教えている。一方で俺はどういう構造なのかは分からないが、部屋の外部とつながっている宅配ボックスの室内側の扉を開けた。


「おお、入っている」


 そこにはスーパーの買い物カゴほどの容積があり、注文した物が入っていた。同時にもう一つの宅配ボックス(生鮮食品用)を確認してみると、こちらにもまた色々と入っていた。


「リーン、喜べ。魚があるぞ」


「ニャッ!!」


「お前、何やってんだ?」


 俺は部屋の片隅でなぜか布団を敷いているリーンに声をかけた。


「こ、このオフトゥンがいけないのニャ!ボクの理性がブッ飛んじゃうのニャ!」


 そう言っていそいそと布団を敷くと、リーンは例の超低空ヘッドスライディングを敢行する。


「オフトゥンッ!!」


 ずざああああっ!!


 このネコ娘、性懲りもなくまたやりやがった。


「いい加減にしておけ。ほら、メシにするぞ。腹が減ってたんじゃないのか?」


「ニャッ!お腹空いたニャ」


「それならそのちゃぶ台の所に来い。今日は俺が魚を準備してある」


「お(さかニャ)ッ!!」


 現金なヤツだ、すぐさまちゃぶ台の横に座った。しかも正座だ。やるな、リーン…。


「あれ?アンフルーは…?」


 俺がその姿を求め視線を左右させていると…。


「オフトゥン…」


 ぽて…。


 全く抑揚の無い声、そして頭から飛び込んでいくリーンとは違って布団に横倒しになるようにして倒れ込む。


「……………」


 言葉が出ない。


「………うん」


 何も言えない俺と、なんだか満足したような顔をして起き上がったアンフルー。そして今度は(おもむろ)に畳に寝そべった。


「野の…、草を編んで作った床材(ゆかざい)…。オフトゥンも良いけど、私は…」


 金髪美人エルフが片頬を畳につけ、その感触を堪能している。


「なあ、エルフって何食うんだ?」


 俺は力無くリーンに尋ねていた。



「生のお(さかニャ)がこんなに美味しいニャんて…」


 醤油をつけたマグロの刺身をフォークで食べながらリーンが感動している。


「いちごジャム…、最高」


 こちらは食パンにいちごジャムを塗ったものを食べているアンフルー。


「一昨日はリーンの魚を御相伴(ごしょうばん)にあずかったからな。そのお返しだ」


「ありがとうだニャ!」


 俺はマグロの刺身を一切れ食べた。美味い、やはり日本人としては嬉しい味だ。残りはリーンにやり、代わりに猪の肉を焼きパンに挟んで食べていた。


「ねーねー、キノク」


「ん?」


「ボクね、思ったんニャよ。キノクのこのお部屋って、冒険者からしたら夢の能力ニャって」


 刺身を食べながらリーンが切り出してきた。


「湧水もあるし、安心して眠れる。おんせんやキノクのお薬で怪我も治るし冒険の拠点がいつでも確保されてるニャ」


 RPGで例えれば『どこでも宿屋』みたいな感覚だろうか。


「それに荷物も保管しておけるし…」


 リーンは保管しているミミックロックの素材を指差した。


「アンフルーは魔法職だから安心して眠れるのは大切な事なんニャよ。そうじゃないと魔法力はしっかり回復しないのニャ。それに野外で寝るのは夜襲をかけられたり、物が盗まれたりする心配もあるのニャ…」


「その点、この部屋は外界とは隔絶されている。非常に安全」


 リーンの言葉をアンフルーが追認した。


「だからね、キノクに来て欲しいって思ったんニャよ。ボクは前衛、アンフルーは後衛。キノクにはボクらの命綱、補給と拠点の役割をお願いしたいのニャ」


「役割か…」


「そうニャ。それにボク達はその役割の大切さを分かってるつもりニャよ。だから絶対にキノクを馬鹿にしたりしないニャ、大切な仲間なのニャ!」


 仲間…。高貴なる血統では絶対ありえないだろう。小間使いか、奴隷か、召使いか…呼び方はどれであってもロクな扱いではなかった。


「それにね、キノク〜」


「なんだ?」


 本物の猫がそうするように胡座(あぐら)をかいて座る俺の足に擦り寄った。


「キノクはボクにこのお(さかニャ)をくれたのニャ」


 リーンはマグロの刺身を示した。


「ああ。それがどうしたんだ?」


「知ってるかニャ?ネコはごはんをくれる人がご主人なのニャ!だからキノクはボクをこれから養うニャ!」


「な、何?」


「大丈夫ニャ。なにもタカる訳じゃないニャ。ボクも働いて稼ぐから安心するニャ」


「マジかよ…」


 そう言えば日本にいた頃、そんな話を聞いた事があるような気がする。うかつに野良猫に(えさ)をあげてはいけないと…。そうする事で猫はその人間から餌がもらえるものだと認識するって…。


「まあまあ、そんなにかたく考えなくても良いニャ。ボクはボクの出来る事を、キノクはキノクの出来る事をするのニャ。あとは仲良くしていけば良いのニャ」


「むう…。そういうものか」


「そういうものニャ」


「仕方ないな。でも、俺は商人だからな。いつも冒険にくっついて行く訳じゃないぞ」


「分かってるニャ。出来る時に…だニャ」


 そういう訳で俺はリーン達と行動する事にしたのだが…。


「リーン」


「なんニャ?アンフルー」


「ごはんをもらったらその人がご主人…って初耳。そのルール、今考えた?」


「ニャッ!!」


「おい…、リーン…」


「し、知らニャい!知らないのニャ!」


 リーンは俺から離れると一目散に敷いてある布団の中へ。頭から布団をかぶって知らん振りを決め込んだ。


「やれやれ…」


 まあ、リーン達と一緒にいるのは嫌ではない。そう考えたら何も問題はなかったのだが…。


「ところでキノク」


「何だ?」


「実はエルフにもしきたりがある。古くから伝わる大事なしきたり…」


「それは…?」


「エルフにごはんを…、特にあのいちごジャムを与えた者をエルフはご主人と認めて…」


「君ら二人、キャラは違うけど根本的には似た者同士なんだな」


 力無く俺はそう言った。


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