第24話 『ざまあ回』不寝番(ねずのばん)と悪戯妖精(グレムリン)。
首都アブクソムの広場でキノクがリーンからの勧誘を受けていた頃…。
キノクを追放したパーティ『高貴なる血統』の四人は昼を過ぎた今頃になってようやくのそのそと起き出していた。
「クソが…」
リーダーの魔法剣士、プルチンは吐き捨てるように呟いた。それもそのはず腹痛と下痢に一晩中苦しんでいたのだ。ようやく収まってきたが、機嫌も体調も最悪であったからだ。
「う…。騒がないでよ、プルチン。明け方近くになってようやく眠れたんだからさぁ…」
大魔導士のウナが窘めるように言った。近くにいた至高修道士のハッサムと至聖女司祭のマリアントワもようやく起き出してきた。声にこそ出さないがウナ同様、非難めいた視線を向けている。
「チッ…。メシにすンぞ…」
散々下痢に苦しんだが、やっと症状は落ち着き空腹を覚えてきたプルチンはそう言った。
「うむ。食わねば身が保たぬ。拙僧も何か腹に入れる事を提案する」
そう言うのはハッサム。男性陣二人は腹を満たしたいようだ。
「アタシ、あんま食欲ない…」
「わ、私も…」
女性陣二人はあまり食欲が無さそうだ。
「それならよ、干し肉を鍋で煮て柔らかくして食おうじゃねえか。その湯で干しパンをふやけさせてやりゃ柔らかくなって喉も通るンじゃねえか」
「しょうがないわね…」
そう言ってウナは包まっていた毛布をめくって起床する。
「で?荷物どこ?保存食と鍋が無いと作れないんですけどー」
「おい、役立たず!メシだ。道具出せ、さっさとしろ!」
プルチンはいつものようにキノクに命令する。
「あの下賤の者はおりませんわよ?」
マリアントワが代わりに返事をした。
「チッ」
バツが悪そうにプルチンが舌打ちする。
「おい、荷物どこだ?あの中に食い物も道具も全部入ってンだからよ」
誰とはなしにプルチンが問いかけた。
「え?その辺に置いていたんじゃなくて?」
「うむ。我もここに置いておいたぞ」
マリアントワの指摘に、全員分の大きな荷物を背負っていたハッサムが焚き火近くの地面を指差した。
「何も無えじゃねえか?」
キョロキョロと周りを見渡しながらプルチンが呟く。
「はぁ?何それ、ワケわかんない!つーかさ、アタシの短杖が無いんですけどー?」
不機嫌そうにウナがまくし立てる。甲高いその声はプルチンを苛立たせた。
「うるせーな!そンなのどーでも良いンだよ!」
「よくないわよ!あれ高いんだし!魔力を増幅させる宝石を埋め込んだ特製なんですけど!?」
魔法を発動する際にその威力を倍加させるという貴重な紫水晶、それを先端に取り付けた短杖。高価な品だ、ウナが怒るのも無理はない。
「待て、これを見るのだ!何か引きずって行った跡がある」
ハッサムがパーティの荷物を置いてあった場所から続く地面に残った何かを引きずっていったような痕跡を指差した。
「茂みの方に続いてンな…」
プルチンが追跡を始める、他の三人もそれに続いた。しかしそこから先にしばらく行くと追跡出来なかった。草地に入ってしまったのである。
「もしかすると悪戯妖精か?」
……………。
………。
…。
グレムリン…。
悪戯好きな妖精として知られる。あまり力は強くなく、そこまで邪悪な存在ではない為に人の命を狙うという事は滅多に無い。しかし、一つだけ面倒な事があり攻撃はしてこないが物珍しいものを見ると盗もうとする傾向がある。
旅人などが眠りこけているとちょっとした…小さな物をこっそりと持って行ってしまうのだ。例えば干しパンとか干し肉、あるいは今回で言えばウナの全長30〜40センチ程の短杖あたりが狙われやすい。持ち運びしやすいからだ。
しかし、今回のように巨漢であるハッサムが背負うような荷物を丸ごとゴッソリといかれるのは珍しい。一匹、二匹ではなく集団で…。しかもズルズルと引きずって行ったのだ。いかに冒険者パーティ『高貴なる血統』の四人が熟睡していたかがよく分かる。隙だらけ…、そんな言葉が相応しい。殺意あるモンスターだったらそれこそ生きてはいない。今頃はその胃袋の中であっただろう。
……………。
………。
…。
「おいッ!見張りしてなかったのかよッ!」
プルチンが怒鳴った。
「それプルチン、アンタが言う〜?」
開口一番、ウナが不満をぶちまけた。
「アンタが一番元気じゃん!だったら見張りしててよね!アタシもハッサムもまだ怪我の治療もしていない、マリアントワは魔力がまだ回復してない。出来る訳ないじゃん!」
「ふざけんな!今までこんな事なかったろうが!」
「アイツにやらしてたからでしょーが!」
「偉そうに言うな!テメーも同類だろうが!」
「魔法職を物理職と一緒にしないでよ!魔力は繊細なのよ、キッチリ休めてこそ回復するのよ!」
プルチンとウナの言い争いはしばらく続いた。しかし何も得るものもなくむなしさと苛立ちだけがつのっていく。自分達が寝てる間に都合良く使っていた小間使いのようなものをなぜ追い出した、そんな文句が飛び出る。
「そのぐらいにしておけ、二人とも。おそらくここはアブクソム近くの森であろう。今から街へ戻るのだ、そこで立て直そう」
「クソッ!戻るぞ!」
そう吐き捨てプルチンは出発を促す。雑貨類は盗まれたが、幸い身に付けていた物は無事だ。その中には所持金の入った袋もあった。痛い出費だがやり直しはきく。
「つーかさー、荷物持ちとか雑用やる奴入れてよねー」
ウナがプルチンに要求した。
「ああ」
プルチンはそれに振り向きもせずに応じたが、確かに雑用をやる奴くらいは来させても良いかと考えていた。
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