第19話 混浴!!キノクとリーン。そして下痢に苦しむ古巣の連中。
「ねえねえ、キノク〜」
「なんだ、リーン」
再び温泉に入り直したリーンが無邪気に話しかけてくる。
「キノクはおんせんに入らニャいの?」
「ああ、入るよ。リーンの後に」
「それなら、一緒に入ろうニャ!」
「何?」
「だってこんなに広いんニャよ?ボク、もう少しのんびり入っていたいし…。キノクが一緒ニャらおしゃべりしながら入れるし良い事ずくめニャ!」
確かにこの浴槽、とある理由があって和室で言えば六畳ほどの広さがある。
「あのなあ、一緒に入るとか…」
「ボクは構わニャいよ」
「なにィ!!?」
俺は某サッカー漫画で相手にしてやられた登場人物が思わず口にするようなセリフを洩らしていた。その後、俺はお言葉に甘え二人でお風呂に入る事にした。
ついでと言ってはなんだが、激しい戦いを演じた事もあり今日一日ゆっくりと休む事にした。お金が稼げたというのは本当にありがたい事だ。もし稼げていなかったら今頃必死になって食べられる物や、お金になる物を探していた事だろう。
お金の余裕が心の余裕を生む。だからこうしていられるんだ…。
「キノク〜、ボクが背中を流してやるニャ!」
なぜだか張り切っているリーン、とりあえず断る理由もないので好きにさせた。その後、冷蔵庫に入れていた昨日の魚の残った部分を焼いて食べた。寝る時はまた悲しそうな顔をするので一緒の布団に入る事になった。
異世界に来てから辛い事しか無かったが、俺は初めて人の温もりを感じたような気がしていた…。
□
一方、こちらは冒険者パーティ高貴なる血統の四人…。
「ぬ、ぬう…。いつもと何が違うというのだ…。同じように水を飲んだだけでこうも違うとは…」
茂みに身を隠しながらハッサムが用を足していた。水気を帯びたゆるい便が忌々(いまいま)しい。
「ちょっとー!ハッサム、アンタなんで風上でやってんのよ!ニオイがこっちに漂ってくるじゃないのよー!!」
「す、すまぬ!他に手頃な茂みがなくて…。ぬおおおうッ!!」
「こらー!!さらにやってんじゃないわよー!!…し、しまった!ア、アタシも…。だ、誰か見張りしてなさいよね!!」
散々文句を言っていた大魔導士のウナもどこかに駆けていく。
「そ、それならお前がサンクチュアリ(魔物除け聖域)の魔法ってヤツを使えば良いじゃねーか!」
すでにどこかの茂みでしゃがんでいるプルチンがウナに大声で怒鳴った。
「馬鹿ね!そんな低級な雑用魔法、下位魔術士が使うものじゃない!わざわざ大魔導士サマがそんなの覚えるワケないじゃないのよ!」
ウナもまた大声で怒鳴り返す。派手な攻撃魔法を習得したウナであったが、同時にそれ一辺倒でもあった。マリアントワと同様に最上位の攻撃魔法を修めていたが、場面によってはそれ以上に役立つ他の魔法を何も修めてはいなかった。まだ遭遇した事はないがモンスターの中には完全に魔法を弾き返してしまうものもいる。そんな場面でのウナは完全に手詰まりと言える。それゆえ本来ならいくつかは攻撃魔法以外の魔法を覚えておくべきなのだ。しかし、自分は選ばれた人間であると自負するウナはその事に思い至らない。
一方、ひっそりとやっているのは至聖女司祭のマリアントワ。本来なら魔力回復の為に寝ていた方が良いのだが、他の三人と同様に苦しんでいる。うかつに寝たらお尻の方で大惨事が起こるであろう事は火を見るよりも明らかである。
「な、なんでだ…?」
プルチンは思わず声を洩らした。同時に違うものも漏れた。
「わ、湧いた水だろう?川の水だってもともとは…。父に従い従軍した初陣では川から水を得た。それこそ自宅の井戸水だってそのまま飲んだ事あるんだぞ!それこそあの役立たずが汲んだ水だって。…うぐうぅぅ!」
確かにキノクは飲める温泉水をプルチン達に渡していた。有用な成分が混ざっているのは確かだが、湧水である事は確かである。その点で言えばプルチンが指摘する通りである。だが、キノクの用意していた水は日本で飲用が可能であると役所の衛生管理の担当部署が水質調査したものであった。それゆえ飲んでも健康を害する事がなかったのである。
しかし、プルチン達が飲んだ水は川の水。湧水した瞬間は綺麗かも知れないがここまでは距離がある。それまでにモンスターや野生動物が触れていたかも知れない。また、野生動物などが流れに糞尿をしていたかも知れない。
有名な寄生虫エキノコックスもキタキツネそのものやその糞便を通じて沢の水などからヒトに入ってくると言われている。生水を飲むなと言うのはその為である。
また、プルチンの言う従軍した際に飲んだ川の水についてもそのまま飲んだ訳ではない。従卒などが汲んだ水を濾過し、煮沸した上で供したものである。考えてみれば当たり前の事であるが、下の者の苦労を見ようともせず想像力にも欠けるプルチンには思いもよらぬ事であった。それは他の三人についても同じ事が言え似た者同士と言えた。
貴族の生まれを鼻にかけ、希少な職にあぐらをかく。彼らにとって冒険者とは英雄譚そのものであり、脚色された派手なものであった。だからこそしっかり経験を積んできたリーンのような者が重視する戦闘以外の部分…、その事に思いが至らない。致命的な弱点と言えた。
「クソッ!これじゃ動くに動けねえ…。おい、お前ら!今夜はここで夜営すんぞ!」
プルチンがメンバーに声をかけた。確かに健康状態が良くない今、無理に動くべきではない。プルチンのその判断は決して間違ったものではなかった。
しかし、それが仇になろうとは…。この時の四人には思いもよらなかった。
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