第2話 森へ…。
ギルドを叩き出された俺はその足で森に向かった。今日のわずかな収入さえ支払われず、あまつさえ追放されたのだ。金が無い、そんな現実に対応しないと待っているのは飢え死にだ。
「くそっ!…だけどあいつらと戦ったら間違いなく殺されてしまうだろうし…」
なんとか稼ぎの分け前だけでもふんだくりたかったが、こちらは戦う術を持たない身。しかし相手は現役の戦闘職、しかも最上級職で四人もいる。腕力に訴えたら返り討ちに遭うのは確実ッ、こういうのをなんて言うんだっけ…サイダーを飲んだらゲップくらい確実ッ…てヤツだ。
夕暮れ時だが真っ暗ではない。売れば金になる薬草か、食べられる野草か木の実でも採取できればそれを食べるなり売るなりして飢えはしのげる。なんにせよ命をつないでいかなくてはならないのだ、そのためには食う物かそれを買うための金になる物が必要だ。プルチンにやられて痛む顔面を手でおさえながら俺は森にたどり着いた。
「ああ、良かった。味はともかく食べられる物が…」
大人の胸の高さほどのクコの木を見つけた。ありがたいことに赤みがかった小指の先ほどの大きさの実がたくさんついている。しかもそれが群生している。とにかく食べられる物だ、金も食べる物もない今の俺にはまさにら救いの手だ。採集して手頃な大きさの麻袋に入れていく、それに食べ切れず余ったら干してやれば良い。そうすれば長期の保存もきく。
「少し時期が遅かったか…。クコの木の若芽なら目薬の材料になるんだけど…」
薬草と言うと地面から生える草のような物と考えがちだが、実は色々な動植物に薬効成分といううのは含まれている。しかし、この異世界は情報というものがとにかく不足している。だから薬草一つとっても代表的な物しかみんな知らない。日本の現代社会のようにインターネットのような情報ツールはない、学ぼうにも学べないのだ。
また、薬草類の知識がある薬品店を営む商人や薬師のような人達もその情報を広めようとはしない。なぜならその薬になる物の知識や加工技術こそが彼らにとっての飯のタネ、他人においそれと教えるものではないのだ。
「おや…」
しかし、不幸なことの後には良いこともあった。
クコの実を次から次へと採集していたら、だんだんと陽当たりの悪そうな所に行き当たった。すると今まで採取していた木より少し小ぶりなクコの木を見つけた。実はついておらず花すらまだ咲いていない。食べられる物が無いのは残念だが、その葉は黄緑色で柔らかい。いわゆる若芽とか新芽といわれる物だ、これなら薬草として扱われ目薬の材料になる。売れば金になるだろう。
「とりあえず今夜食べる物…、これは確保出来た。暗くなってきたし、そろそろやめとくか…」
真っ暗な中、森で探索するのは悪手だ。下手に転びでもして怪我をしてもつまらないし、何に出会すか分かったもんじゃない。そこで街に戻ろうと決めた時、冷たい何かが頬に触れた。
「雨…」
小粒の雨が降ってきた。見上げれば木々の切れ目から雲が垂れ込めているのが分かる。うかつ(うかつ)だった、先程風が冷たくなっていたのを感じていたのに…。あれは雨雲の接近によるものだったんだ。
「街まで走っても間に合いそうにないな…」
俺は雨を避けるための場所を探すことにした。幸いなことにすぐ大きく開いた木のうろを見つけた、大の大人が楽々入れるものだった。すぐさま中に入り込む。
「ふう…」
大して濡れなかった、思わず安堵のため息を洩らす。だけどしばらくは動けないな、そんなことを思う。木々の葉を打つ雨の音がする中、これからのことを考えた。
「一人になっちまったな」
パーティから、そして冒険者ギルドからも追い出された。
異世界、俺には頼るものも無くこの国には社会保障の類も無い。それに冒険者ギルドに在籍していた時に運良くモンスターを倒しても俺はなぜか成長をしなかった。
それなら天職は商人なんだから商売をすれば良いじゃないかとも思うものだがそうは問屋が卸さない。店を始めようと商業ギルドに所属しようと思ったが、加入するには後ろ盾というか身元保証人になってくれるような人が必要だ。そんな知り合いもおらず、また加入するために必要なまとまった金も無いから商人ギルドに登録ができない。
この国の法律では商業ギルドに所属していないと店を開くことができない決まり。これはどう考えても手詰まり、そんな考えが頭を過ぎる。
「これからどうするか…」
話し相手もいないのについつい声を出していたのは孤独感ゆえにだろうか、不安に押し潰されそうになる。そんな時だった。
たったったったっ。
森の中を駆けてくる足音、気付いた時にはその主が目前に迫っていた。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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近づいてくる足音の主。
キノクにとってそれは突然の出会いであった。
運命の歯車が回りだす、雨宿りが彼らを引き合わせた。
次回、第3話。
『雨宿りの出会い』
お楽しみに。