第18話 魔晶石と霊薬(ポーション)爆誕!
リーンを森の木立に寄りかからせ休ませる。
「あったぞ、魔石があった」
俺はリーンが倒したミミックロックの残骸の中からテニスボールほどの魔石を見つけた。紫がかった黒曜石のようなそれは中々お目にかかれないサイズ、きっと高値がつくだろう。リーンの元に戻り布袋に入れた魔石を手渡す。
「キノク〜、あのデカいミミックロックも〜」
「ああ、分かってるよ」
俺は落ちていた長めの木の枝を使って悪戦苦闘しながら水面に浮かぶ巨大ミミックロックを引き寄せる。なんとか池の淵近くまで寄せる事が出来た。丸々とした胴体の割にひょろっとした足を掴んで岸に引っ張り上げた。
「これを使うと良いニャ」
俺はリーンが持っていた大ぶりなククリナイフを借りてミミックロックに刃を当てた。すると大した抵抗もなく刃がその肉体に沈んだ。
「あれだけ硬そうな…、それこそ岩みたいな表面だったのに」
俺は正直驚いていた。まるで何の苦もなくナイフが入る上質な牛肉みたいな柔らかさだ。
「言ったニャ。ホントの岩石みたいに硬く重くなるのがこのモンスターだと。だけど、岩石じゃない。あくまで岩石のモノマネしてる別の生き物ニャ」
そんなやりとりをしながらミミックロックを解体していく。中身は乾燥させたヘチマのような繊維質だ。
「ホントだ。中身は石なんかじゃない。むしろ植物みたいだ」
「あ、その部分も持ち帰るニャんよ」
「何かに使えるのか?」
「ニャ。それを紡いで糸にするニャ。とても丈夫な布が出来るらしいニャ」
「よく知ってるな」
「魔法で倒したミミックロックの燃え残りを集めた事があるニャ。でも今日みたいに丸ごと手に入ったなんて話、聞いた事がないニャ」
「なるほど。でも、納得だ。こういう風に中空な所が多ければ水に浮かぶほど軽いのも道理だな。おっ、魔石だ。…あれ、なんか変だぞ?」
俺はメロンの実ほどの大きさの魔石を取り出した。これは黒っぽさは全くなく透明感のある青色をしている。
「魔晶石だニャ!」
「魔晶石?へえ〜、これが…」
魔晶石…。
一般的にモンスターを倒すとその体内から魔石と呼ばれる石のようなものが手に入る。魔石は魔素や瘴気と呼ばれるものを吸収して成長していくモンスターの体内で形成されるという。それゆえ長い間生きる間に体内で成長したり、あるいは強い力を持つモンスターは沢山吸収する傾向があるのでより溜め込まれたりして大きくなっていく。言わば魔石とは目に見えない魔力といったものが形になったものだ。異世界ではその魔石を使って様々な魔導具を動かす、言わば電池やバッテリーのような存在だ。
そしてその魔石はモンスターの体内である程度の大きさになると今度は量(大きさ)から質を変化させていくと言われる。
具体的には元来黒色の魔石が透明感を持つようになるのだ。それは元々魔力の塊とも言える魔石がさらに高純度化され濃密な魔力を湛える。それにより大規模かつ大出力の魔導具を稼働させる事が出来るのだ。
初めてみた魔晶石は青みがかった透明感のある色をしていた。アクアマリンみたいだ、ふとそんな事を思った。
「待たせた、リーン。全部回収出来た」
「ニャ」
そして俺はリーンと共に自分の部屋に転移する、一度では持ち帰れない巨大ミミックロックの繊維状のものは運ぶのに何回も往復することになった。
□
部屋の片隅にミミックロックから得た物をまとめて置き、リーンをすぐに風呂場に連れて行った。
「リーン、怪我は無いんだよな?」
「ニャ、多少のすり傷と打撲くらいで外傷自体はそんなに無いと思うニャ。力を使い果たしたのと、ミミックロックを叩きつけた時の衝撃が…」
「とりあえず温泉にゆっくり入っておきな。俺は冒険者製応急薬を作るから…」
「ニャ?ボク、外傷は無いんニャけど…」
「ああ、塗り薬じゃない。飲み薬さ」
「飲み薬?」
「この温泉は打撲にも効く。だけどミミックロックをやっつけた時の衝撃は体の中に行ってそうだからね。だから飲める温泉水に混ぜてみるんだ。そうすれば体の中も早く元気になれるんじゃないかと思ってね」
「う〜、ボク苦いの嫌ニャ」
「大丈夫だ、飲みやすいのを作るから」
そう言ってリーンを風呂場に送り出した。
……………。
………。
…。
「おーい、まだ風呂から上がらないのか?」
冒険者製応急薬を作った俺は浴室の扉の前からリーンに声をかけた。
「ふにゃあ…、温かくて気持ちいいのニャ…。だけど、体の中がなんだかだるいのニャ。これはキノクが言ってたみたいに体の中にダメージがある感じなのかニャ」
そんな返事が返ってくる。
「薬出来たぞ」
「う〜、やっぱり飲まなきゃ駄目ニャ?」
「当たり前だ、せっかく作ったんだから。大丈夫だ、飲みやすくしてある」
「う〜……」
リーンは薬を飲むのを渋っている。
「ここだけの話、少し甘く味付けしてある」
「のっ、飲むッ!!ボク、お薬飲むニャ!」
「分かりやすい奴だな、オイ!」
「さあさあ、中に来て早くちょうだいニャ!」
「お前、風呂入ってるだろ。真っ裸だろ!」
「大丈夫ニャ!おんせんのお湯は白く濁ってるし、湯けむりがモクモクしてるニャ!だから見えニャい、安心して入って来るニャんよ!」
何が大丈夫か分からないが、とにかく入ってこいと言うのでマグカップに入れた飲み薬を持って行ってやった。使った薬草はペパーミントに似たメントール成分と筋肉痛や打撲に効くのが特徴だ。それを触媒茸を刻んだものと混ぜて練り薬にすると少し水分を加え布に包んで絞った。それを温泉水に混ぜ部屋に残っていた砂糖を加えた。効能と共に風呂上りに飲むには丁度良い風味かなと思って作ったそれをマグカップに入れてリーンに渡した。
受け取ったリーンはクンクンと匂いを嗅いだ後、それを口に運んだ。一口飲んだ後、リーンはピタリと動きを止めた。完全にフリーズしている。
「お、おい?リーン…」
俺が声をかけるとリーンは我に返ったのか、ハッとした表情になる。そして一気に飲み干した。
「ふニャああああアアアアァァッ!!!」
ざばあッ!!
リーンが雄叫びを上げ浴槽から立ち上がった。何も隠そうとしない仁王立ちである。
「オイ、全裸だぞッ!?」
ビリビリビリッ!!
「なっ!?リ、リーンの気が膨れ上がっていくッ!!?」
どんどん増していくリーンの存在感。
「これは霊薬ニャ…」
「えっ?それは俺が作った冒険者製応急薬だぞ」
「いや、これこそが伝説のポーションニャ。一瞬で元気にニャった」
「ホントかよ!?」
「冒険者製応急薬なんてせいぜい化膿止めくらい、所詮気休めに過ぎないニャ。だけどコレ飲んだら一瞬でボクの体力は満タンニャ!こんな事出来るのは伝説の霊薬、ポーションしかないニャ!」
「そ、そうなの?」
「それにちゃんと効いた証拠がもう一個あるニャ」
「そ、それは…?」
「ボクらの体の特徴ニャ。深いダメージから回復すると一気にパワーが強くなるのニャ」
「ええ!?なんだよ、その戦闘好きな野菜民族みたいな設定は!」
「生き物は様々な危機や競争を経て生き残ってきたニャ…。キリンの首が長いのも他の個体より少しでも高い所の葉っぱを食べてより生き残る可能性を増やす為ニャ。野鳥が暗い色の個体が多いのは、白っぽいのは目立って敵から狙われやすくなってその数を減らしていくからニャ」
「た、確かに…」
地球でもそうだったもんな。
「ボクは獣人、だから人と獣の特性を合わせて持っているニャ。だから傷つき生命の危機を経験すると、回復した時に一気に力が増すのニャ。乗り越えたその危機を今度は跳ね退けられるように…」
拳を握りしめてリーンが呟くように言った。その姿、相変わらず全裸で仁王立ちである。
「まあ、分かったから…。とりあえず湯に入れ、リーン。全裸仁王立ちだから」
俺は力なくそう言った。
……………。
………。
…。
その頃…。プルチン達、高貴なる血統の面々は…?
「う、うぐぐ…。ハ、ハラが…」
「き、貴族に生まれたこの私がお腹を下すなんて…」
ガブ飲みした川の水が悪かったのか全員腹痛と下痢に悩まされていた…。
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