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第17話 (ざまあ回)敗因は…水?(後編)


「キノクのくれたお水はおいしいニャ。(かわ)いた(ノド)がスーッと(うるお)う」


「え?何そのスポーツドリンクのCMみたいな言い回し…」


 ミミックロックを倒した俺達は緊張の糸を解き、水筒の水を飲む。蒸し暑い中、あれだけ激しく動いたのだ。きっとリーンは喉がとても渇いているだろうと思い、休憩も兼ねて水を乗せて飲ませた。


 リーン(いわ)く、俺が渡した湧水…飲める温泉はただの水ではないとの事。体に染み込むように喉を潤し、体に活力が湧いてくるという。


「まあ、そう言ってくれて嬉しいよ。俺が幼い頃から親しんでいる湧水だ。飲める温泉って言われててな、俺はそれを飲んでたからかな、腹をこわしたことが無いんだ。前のパーティじゃ水を渡すのは当たり前、言われる前に渡せと逆に文句を言われる始末だったから…」


「ニャ!ソイツらは感謝が足りないニャ!いつかバチが当たるニャ!」


「もうアイツらとは関わりないからな、どうなろうと知った事じゃない。それよりリーン、疲れてるだろ?ゆっくりしてな」


「ニャ。良いのかニャ?」.


「ああ。それとミミックロックから回収出来るものはあるか?回収してくるよ、何が取れるか教えてくれ」



 キノクとリーンがそんな話をしている頃…。


「ぬうう、まだ回復魔法は使えそうにないでござるか?」

「つーかさー、アンタ回復魔法使うのを勿体(もったい)ぶってんじゃないでしょーね?」


 パーティ高貴なる血統の四人はいまだに小川のほとりにいた。回復魔法を受けるのを今か今かと待つハッサムとウナの怪我はそれなりに重く、移動するとなると苦痛を伴う。


 それゆえ回復魔法の使い手マリアントワの魔力の回復を待ち、手当てをしてから動くことにしたのだ。しかし、当のマリアントワの魔力の回復が遅い。いつもならとうに全回復していても良いくらいだ。


「とりあえず一回ならなんとか…」


「すまぬが拙僧(せっそう)を…」

「仕方ないわねー、そん代わり一つ貸しだからね」


 回復魔法を使うのはマリアントワに他ならないのだが、なぜかその順番を巡ってウナがハッサムに恩を着せている。


「キュア・フェイタルウーンズ(致命傷治癒)!」


 単純な怪我の治療ならこれ一発でどんなものでもたちどころに回復するという超高度回復魔法である。柔らかく清らかな光がハッサムを包んだ。魔力をあらかた使い果たしたかマリアントワが青い顔をして地面に横たわる。


「じゃ、次の回復はアタシだからねー。マリアントワ、アンタそのまま寝てて良いわよ。その方が早く魔力も回復するだろーし」


「あいや、(しばら)く(ちょっと待ってくれ、の意味)!!」


「何よ、ハッサム?」


「それが…、言いにくいのだが全快(ぜんかい)には程遠(ほどとお)く…」


 見ればハッサムの体は確かに回復している。しかしそれはほんのわずかだ…。キュア・ライトウーンズ(軽傷治癒)程度の効果…、いやそれ以下かも知れない。下手すればかすり傷ぐらいしか癒せてないのかも知れない。それなのにマリアントワは魔力を使い果たしぐったりとしている。


「ア、アンタねえ!ふざけてんじゃないわよ!最初にあの岩石もどきにやられた時は回復してたじゃないのよ!」


 ウナはマリアントワの胸元を掴み、ガクガクと前後に揺らす。


「わ、(わたくし)は確かにキュア・フェイタルウーンズ(致命傷治癒)の魔法を…。それしか知りませんし…」


「じゃあ、どうしてこんなカスみたいな効果なのよ!これじゃ、魔法の能力が低くて(した)()の聖職者見習いにすらなれない信徒(しんと)が使うキュア・スライトウーンズ(微傷治癒)くらいの効果じゃない!しかもそれで魔力のほとんどを消費してさあ!」


 キュア・スライトウーンズ…。


 魔法の才能がなく最下級の聖職者である神官見習いにもなれない信徒止まりの(やから)がなんとか使えるようにもなるかも知れないというのがキュア・スライトウーンズ(微傷治癒)の魔法である。


 この魔法は正式な回復魔法には含まれておらず、効果も転んだ子供が膝を擦りむいた程度の傷を治すというものである。少なくともその程度の事を神の奇跡とさえ称することもある回復魔法に含める事はないというのが正教会の…そして世間一般の認識である。


「あー、もしかしてコレはよォ…」


 一人だけ危機感も緊張感もなく発言する者がいた。パーティのリーダー、魔法剣士(ソーサリーソードマン)のプルチンである。


「マリアントワの魔力が回復しきってなかったンじゃねーの?だから中途半端な効果になってよォ…」


 しかし、それは大きな誤りである。


 というのも、魔法の発動に必要な魔力が足りなければそもそも魔法は発動しない。いわゆる『MPが足りない』というやつである。しかし、魔法は発動だけはした。つまり魔力不足ではないのだ。その事に四人はまだ誰も気がついていない。


 リーンはキノクに渡された湧水(わきみず)…飲める温泉水をのんで体から力が湧き上がってくるようだと評した。実はそれこそが大した修行も経験も積まずに最上級職に就き、そのスキルを使えていた理由だったのだ。キノクの脳に直接語りかけるナビゲーションシステムなるものが語った地球の物は異世界において凄まじい効果を発するといった言葉はまさにこれを意味していた。


 飲んだ者の素質や身体能力を向上させ、高度な技能すら使えるようになる。しかし、その力の源泉とも言える湧水を提供できるキノクを彼らは追放していた。今はまだ体に昨日までに飲んでいた飲める温泉水の成分が体内に残っていたのでそのスキルもかろうじて使えていた。しかしそれは徐々に体から抜けていく。


 しかも今日は蒸し暑く汗となって水分も、そして温泉水の成分もまた体外へと流れ出てしまっていた。時間と共に彼らの体から力は抜けていくのだ、キノクあってこその力を…。


 彼らはそれに気付いていない。


 しかし、確実にその力は抜けていくのだ。


 知らなかったではすまされない、破滅への時間が始まったのだった。



 いかがでしたでしょうか?


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[一言] 大体キノクのせい
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