第151話 削り合う限界
危機が迫っている事を告げるリーン達の叫び、視線を上げてみればリーテンが宙を舞っていた。
「とどめだ!!」
自らの足で俺を踏み潰すようにリーテンが迫る。
「くうっ!!」
俺はかろうじてそれをかわした、リーテンが俺の間近に着地する。
「駄目ニャ!!キノク〜、その踏み潰しは囮の攻撃ニャ〜ッ!!」
「なにィ!?」
俺は視線を上にやる。
「もらった!!」
そこには拳を振り上げているリーテンの姿が…、これが狙いだったのか!?この距離じゃ、かわせ…ない!?いや、かわすんじゃない、逆だ!!むしろ近づけと本能が俺に叫ぶ。
「どすこいッ!」
俺は地を蹴りリーテンに頭から飛び込んでいく。
がちいィィんッ!!!!
「ニャッ!?」
「ず、頭突きですわっ!」
「むうおおォォッ!!」
俺の額に確かな手応えが伝わってきた。初めて打撃らしい打撃を与えられたようだ。リーテンはのけぞっただけでなく数歩後ずさっていた。
「ば、馬鹿なァッ!?我の拳打でもあるまいにこのような強い一撃など…」
「拳打の重さは力の強さと拳の重さ、そして腕の長さで決まる。同じ勢いでも長い柄のハンマーで殴った方が威力がデカいように…」
俺は種明かしをしていく。
「人間の体で一番重い部分は頭だ。そして俺は頭を拳に、そして全身を腕に見立てて攻撃した。いかにお前が大きくとも俺の身長の方がその腕より長い。さらにはお前の攻撃を迎え撃つ形での攻撃、言わばカウンターだ。その威力は倍加される」
「ならば、これならどうだァァッ!!」
リーテンが再び跳んだ、今度は胸板で押しつぶすように俺に迫る。
「フライングボディプレスか…」
「これならば頭突きで迎え撃てたとしてもその後はどうするゥゥッ!?そのまま我の下敷きになるかァァッ!?」
確かにその通りだ。打撃を与えても下敷きになってしまうだろう。ならば、かわすか?いや、逃げられない。リーテンは両腕も広げその面積をめいいっぱいにして攻撃してくる。俺とリーテンは数歩の間合いしかさ離れていなかった、もはやかわしている時間は無い。
俺は左半身を前に踏み込み、そして左腕一本で上段からの攻撃を受けるようにする。
「馬鹿なァッ!我の超重量の体当たりを片腕で支えるつもりかァァ!?」
ガッ!!
リーテンの体と俺の腕が触れた。
「見せてやる、これぞ古武術の奥義!」
左腕一本、リーテンの体重を受け止める。当然ながら支え切れる訳はない。しかし、左腕で受け止めた事で一瞬だけリーテンの体が空中で静止する形になる。その一瞬に全てを賭けた。
「攻撃は最大の防御なりィィッ!!」
俺は前に踏み込んだ左足を軸に右半身を半時計回りにくるりと円を描くように前に出す。するとその瞬間の俺の位置関係は…。
「わ、我の飛び込みをかわし、側面ッ!!い、いや、後方気味に回り込んで…。き、貴様、この絶対絶命の中、攻撃の機を狙っていたのかッ!?」
後は流れの延長、空いている右手をリーテンの足にあてがう。そのままリーテンの体を石の床に目掛けて叩きつける。
「ぬゥゥオオッッッッッ!!」
リーテンが仰向けに床に叩きつけられる激しい音と共に、リーテンがたまらずといった感じで呻き声を上げた。だが、苦痛の声を上げたのはリーテンだけではなかった。
「ぐうゥゥッッ!!」
俺が繰り出したのは敵の攻撃の勢いを利用し投げる返し技である。それはリーテンのような超重量の相手に対しても有効であった。しかし、この技はあくまでこれは自分と同程度の体格や重量の相手を想定したもの…。自分よりはるかに重い相手を左足を軸に全て受け止めてしまった事で負担が全てそこにかかってしまった。ぶちり…という嫌な感覚が走り、俺は左足のアキレス腱が切れたのを瞬間的に察した。そのまま俺はリーテンの真上にもつれるように落下していく。
その時、チラリと俺の目に映るものがあった。倒れたリーテンの体である?
「こ、ここだッ!」
大の字で倒れているリーテン、その左胸にはリーンが…スフィアが…そして俺がつけたわずかな傷があった。左胸からわずかに広がるヒビであった。
それが今、俺の真下…右手の下ろすならその先にある。
「ビブラートォォッッッッッッッッッ!!」
俺は振動をこの手に宿らせる。
「まだ足りぬわァッ!たとえその右手を振り下ろしても…、一撃では我を屠るにはまだ足りぬゥゥ!」
「誰が一つだけだって?俺には二本の腕があるッ!」
「なにィ!?ぐふぅッワアアァァッッッ!!」
俺は右手だけでなく左手にも振動を生み出し、落下する勢いを利用してリーテンの左右両方の胸に張り手のように突き出した。右手と左手から離れた振動がリーテンの体を駆け巡っているのが分かる。
いや、それだけではない。体の前面、そこから伝わった振動がリーテンの背中に当たりそれが跳ね返っくる。まっすぐにだけではない、その体内全てを乱反射しあちこちをあらゆる角度を通して駆け巡る。
「お、俺の…二重攻撃…だぜ」
アキレス腱が切れた今、もう俺は満足に動けない。だからこそ、これを最後のチャンスと全力で両掌で打ち込んだ一撃だった。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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力を振り絞っての一撃、だがリーテンは立ち上がってきて…?
次回、『決着』。
お楽しみに。




