第150話 遠距離戦
「さて…、反撃といこうか」
リーテンがこちらを見据えて言った。
俺はリーテンの接近に備えて身構える。やや重心を落とし、すぐに前後左右に動けるように…。少なくとも両腕でガードするような事はしないつもりだ、なんせ相手は金属の塊。そんな攻撃を防ぐなんて…、フルスイングされた金属バットを受け止めるようなものだろう。
「く、来る…」
俺がリーテンの動きに注視していると、奴はその場から一歩も動く事なく片腕を高々と振り上げた。
「むゥゥんッ」
リーテンは気合の声を上げながらブンッとその腕を振る、その腕の軌道はゴルフクラブのようなアッパースイング。
「何のつもりだッ!?距離が離れてるのに腕を振り回して…ヤ、ヤバい!!」
リーテンの振り回した腕は距離の離れた俺に当然当たる訳はない、そう考えた俺だが振り回した腕の下で石の床に積もった埃が舞っている事に気づいた。それが地を這うようにこちらに迫ってくる。よくは分からないが何か来る!そしてかわせない、そう感じた俺は両腕を体の前にして体を丸め同時に両足を踏ん張った。
ばああああんッ!!
「ぐうあああああッ!!!」
俺の体の正面で凄まじい破裂音、必死に防御したにも関わらず俺の口から呻きが洩れた。リーテンが振り回した腕によって生み出された空気の揺れ、それが旋風のように俺を襲ったのだ。
「ほう…、気づいたか…」
なんでもない事をしたかのようにリーテンは平然と言ってのけた。
「床に積もった埃のおかげでね…」
「なるほど、それが我が腕を振り回して生まれた風に気づいたか」
「ああ、本来なら風なんて目に見えない。埃が舞って風が近づいてくるのが目に見えたんだよ。まさに烈風だったよ、あんな凄い衝撃がくるなんて…」
正直、困った。接近戦だけかと思ったけどリーテンにも距離が開いていても攻撃する手段がある…。
「貴様が距離を開けての攻撃をしたからな、我もそれに応じたに過ぎん。…どう応じる、キノクとやら」
再びリーテンが腕を振り上げた。来るッ、また激しい風の攻撃が。
「ぬうあッ!!」
ごうっ、音を立てリーテンの腕が振るわれる。
「くっ!ビブラート、ウララアアア〜ッ!!」
俺は急いで息を吸い再び声に乗せて振動波を放った。
「ぬうっ!?」
軽い金属音、どうやら俺の放った振動波はリーテンの風を生む攻撃を打ち消し、その余波がリーテンに衝撃を与えたようだ。どうやら遠間における飛び道具の撃ち合いならこちらに分があるようだ。
「どうやら威力はそちらが少し上回るようだな。我がただ腕を振り回しているのに過ぎぬのに対して貴様は魔力を伴っての攻撃…、その事が奏功したようだな」
このまま押し切る、ビブラートの効果がまだ残っているうちに。俺は決意して再び息を大きく吸い込んだ。そして叫びに乗せて一気に解き放つ。
「ウララアアアア!!」
それに対してリーテンは再び右腕を振り上げた。
「ぬうううんッ!」
右手を振り回しリーテンは風を生み出した。
「あれならキノクの攻撃が上回るのニャ!」
「ええ!いけますわ!」
リーンとスフィアが勝利を確信したかのように叫んだ。
「生憎だったな、腕というのは二本あるのだ!!」
右腕を振り回した後、リーテンは続いてさらに一歩踏み込み左腕を同様に振り回した。
「ダ、二重の風がッ!!」
今度は俺が反撃を受ける番となった。確かに俺のビブラートをかけて放つ叫びはリーテンの片腕で起こした烈風に対して威力は確かに少しは上回る。だが、二つ分の威力にはとても及ばないのだ。
「わあああっ!!」
慌てて防御の姿勢をとるが勢いを完全に殺し切れない。俺は弾き飛ばされ床を転げた、不幸中の幸いは硬い石の床に叩きつけられず転がった事だろうか。叩きつけられていたらもっとひどいダメージを受けていただろう。俺は地面を転がった勢いを使ってなんとか立ち上がった。
「い、いないッ!?」
立ち上がりリーテンがいた場所に目を向けたがそこに姿はない。
「キノク〜!!上だニャ〜!!」
「追い打ちに来ていますわ!
リーン達の声に慌てて視線を上に上げるとそこには宙を舞うリーテンの姿があった。