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第148話 ここにいるぞ


 敵の馬型アイアンゴーレムは砕け散り、ボスである鉄騎の将とやらは馬から投げ出され宙を舞っている。あの勢い、そして高さから石の床に叩きつけられれば無事では済むまい。


「リーン、スフィア、地面に叩きつけられたところに攻撃を加えるんだ!」


「ニャ!!」

「はい!」


 いける、俺はそう思っていたのだが…。


「ぬゥンッッ!!」


 吹っ飛んで宙を舞っていた体を捻り右手に持った馬上槍(ランス)を石の床に突き刺した。そこは俺達が待ち受ける数メートルほど先の場所だった。


「なにィ!?」


 驚く俺をよそに敵は突き刺したランスに左手も添えた、そして吹っ飛んだ勢いを利用し床から垂直に突き立てた馬上槍を軸にその体をぐるりと独楽(こま)のように回転させた。


「ふニャあッ!?」

「くうっ!」


 敵が叩きつけられたところに攻撃を加えようと待ち構えていたリーンとスフィア、しかしそこに思わぬ反撃。敵は馬上槍を地面に突き立て体勢を立て直しただけでなく、回転する勢いをも利用して前衛のリーンとスフィアになぎ払うような蹴りを喰らわせた。身軽さを売りとするリーンのお株を奪うような動きである。


 蹴りをまともにくらいリーンとスフィアがこちらに吹っ飛んできて俺とアンフルーを巻き込む。リーンとスフィアにぶつかられ俺は床に投げ出されたが、かろうじてアンフルーを抱き締め彼女が床に叩きつけられるのだけは阻止した。


 だが、状況は良くない。馬上槍(ランス)にやられた訳ではなく蹴りを食らっただけなのだが俺達四人とも立ち上がれずにいる。


「は、はわわわわ〜!!」


 慌てふためきながらもRGNが手持ちの冒険者製応急薬(アドベンチャラーズメディスン)を俺達に振りかけた。そのおかげで立ち上がる事ができた。


「まさかこんな風に自分の薬の効果を知ることになるなんてな」


 立てなかった自分の体が今はこうして両の足で立てている。


「ほう…、良いポーションだ…。立ち上がる様子が見られず、ひと蹴りで終わりかと思っていたが…」


「キノクのポーションは凄いんだニャ!」

「勝負はここからですわ」


「ふふふ。その言葉が見当違いでないと良いがな」


 石の床に突き刺した馬上槍(ランス)を引き抜きながらリーンとスフィアの言葉に応じる敵。


「…はあ、…はあ」


 アンフルーは立ち上がれたものの震えながら荒い息をついている。


「魔力切れか…。RGN、アンフルーを頼む。魔力回復の薬を」


「は、はい」


 RGNがアンフルーに駆け寄りその体を支えた。


「キノク…」


 アンフルーが手をかざす、次の瞬間俺の手にクロスボウが現れた。


「ありがとう」


「ん…」


 そう言ってアンフルーは目を閉じその体から力が抜けた。


「はわわわっ」


 RGNがあわててぐったりとしたアンフルーをゆっくりと床に寝かせた。呼吸のため胸が上下しているから気を失っただけであろうか。


「ビブラート」


 俺は愛用の武器にスキルを発動させた。さらにリーンの手、スフィアの槍にも…。アンフルーを任せたRGNを後ろに下がらせ俺は口を開いた。


「待たせたな、続きをやろうか」



 魔力を消費しないスキル陣形を中心に俺は戦った。なにしろアンフルーに取り寄せてもらったクロスボウは弾倉は四発。つまり四回矢を放ったら俺の手持ちの武器はサバイバルベストに差したナイフ一本しかない。相手は金属の塊、矢が当たったところで倒せるはずもない。せいぜい牽制だ。

 

「鶴翼の陣」


 まずリーンが仕掛けスフィアが続く。身の軽いリーンが敵を引きつける。


「最も単純にして効果の大きな…、横槍(よこやり)!!」


 敵側面に回りスフィアが攻撃した。馬上槍は基本的に片手で扱う、それゆえ武器を持つ反対側に回り込みスフィアが攻撃を加えていく。


小癪(こしゃく)な」


 そんなスフィアの槍を敵は武器を持たぬ左腕でいなし始めた。そこにリーンが飛びつく、一気に近づき敵が武器を持つ右腕を人工宝石の爪で引っかく。


「この切れ味、ダイヤモンドか!?ぬうんッ!」


 敵はランスを手放しリーンを振り払おうとする、すぐにリーンが敵の体から離れながら床に落ちた馬上槍(ランス)をこちらに蹴った。俺はリーンを援護すべく矢を放った、命中。予想通りダメージは無さそうだがその隙にリーンは安全に敵から離れた。俺は転がってきたランスに駆け寄り、それを触りながら自宅に転移した。目論見(もくろみ)通りランスを自宅に持ち帰ると俺は再び戦場へと戻った。


「これで武器は使えないニャ!」

「ええ」


 敵が徒手空拳になった事でリーンとスフィアが勢いづく。


「甘いわッ!」


 両の手でリーンの、そしてスフィアの攻撃をいなす。


「コ、コイツ、武器を離した方が動きが良いニャ!少なくとも馬を降りてからの動きはッ!」


 無造作に振るわれる敵の腕をリーンが必死になってかわしながら叫んだ。


「ふ、ふはははっ!」


 敵がさも愉快そうに笑った。


「あくまでランスは鉄騎に乗る者としての(たしな)みに修めているに過ぎん。騎士が剣だけでなく馬上での戦いに備え馬上槍試合(トーナメント)を行い腕を競い、そして磨くようにな。そもそも戦場では武器が折れる事もある、武器ぐ無くては戦えぬと泣き言を言っているようでは話にならぬ。その時は己の体を使い戦うのだ、この拳で敵を打ち伏せてな」


 日本でも組み討ちなんて言葉がある、刀折れ矢尽きた時に敵を殺す技。それが後に素手での格闘技術として後の世に伝わるものもある。それが現代では武道として伝わるが、元々は戦場に出る武士が修めていた様々な技術なのだ。


「ふニャあああッ!!」


 リーンが蹴りにいく、なんと敵はかわそうともしない。胸でまともに受けるがダメージはない、逆に敵はリーンに掴みかかる。リーンは離れ際にダイヤの爪で敵の胸元を引っかいてから蹴り足を伸ばすようにして飛び退る。


「リーンさん!」


 すかさずスフィアがリーンのカバーに動き牽制の攻撃を繰り出した。


 敵はそのスフィアの動きを見切ったのか、繰り出された槍を見事に掴む。そしてその際に敵の金属質(メタリック)な体が一瞬だけ輝きを増した。


「こ、これは魔力っ!?きゃああああ!!」


 敵は片手で掴んだスフィアの槍を力任せに引っ張る。力の差がありすぎる綱引きのように簡単にスフィアの体が宙に浮いた。


 そのままスフィアは槍と共に無造作に放り投げる。その光景は子供が遊び飽きた槍を持った人形を投げ捨てるかのごとく、受け身を取れそうにないと判断したリーンはスフィアが床に打ち付けられないようになんとか受け止めたが勢いを殺し切れず二人共床に転がった。


「くっ!連射!!」


 たまらず俺は弩士(ガンナー)の得意技でもある一ヶ所に集中的に連射する射撃を行う。スフィアを槍ごと投げ捨てがら空きになった胸部にクロスボウの太い矢が命中、そして二発目、三発目の矢が既に刺さっている矢を後押しするように次々と一本目の矢尻に当たり敵の体内へと矢を進ませる。


 だが、敵は倒れない。ゴブリンキングはこれでいけたのにな…、俺は心の中で舌打ちをした。


「うう…。コイツ、強いニャ…」

「あの輝きを増した時…急激に力強くなった気がしましたわ」


 リーンとスフィアが互いを支え合いながらなんとか立ち上がる。


「面白い、面白いぞ」


 こぉん、こぉん、こぉんと独特な音を立てる拍手をしながら無表情な鉄仮面そのものの敵が愉快そうな声を上げた。


「我がアダマンタイトの体に三人が三人とも傷をつけようとはな…。これほど愉快な事があろうか!」


 左の胸元にできたほんのわずかな損傷を眺めながら敵の言葉が続いた。リーン


「アダマンタイト?」


 聞き慣れない言葉に俺が反応した。


「て、鉄や鋼よりずっと硬い金属ニャ。その分、すごく重いんニャけど」

「ただ魔力を流すと軽くなり、強度も増すと言われていますわ…」


 ファンタジーRPGでおなじみの魔力を帯びた金属ミスリルみたいなものだろうか。いずれにせよウッドゴーレムやストーンゴーレムよりはるかに手強いのだろう。


「貴様らはよく戦った。…だが、もはや貴様らに手は残ってはおるまい?魔法を操るエルフは気を失い、前衛の二人は強がって見せても相当に疲弊しておる。最早立ち上がるのもやっとであろう?緑髪の女子(おなご)は戦う術を持たずぬ。残るは男…、貴様ひとり…」


 俺達をひとりひとり見回すようにしながら悠然と敵は語る、強者の余裕…そんなものを感じる。


「男…、貴様の手にしている(いしゆみ)にはもう矢が残っておらぬと見える。残っておるならさらに撃つであろうからな」


「………」


 図星だった。


「逃げると言うなら追いはせん、好きにするが良い。だが、まだ戦いを続けると言うのならよく考えるのだな…。残るはお前ひとりだけなのだからな」


 リーンが…、スフィアが…あっさり吹っ飛ばされるような相手だ。俺に勝てる見込みなんて…。考えれば考えるほど不利なことしか思い浮かばない。諦めようか、そう思った時だった。


「我を倒せる者があるか!?」


 敵が唐突に言った、俺をまっすぐに見つめて…無表情な鉄仮面がこちらを向いている。


「重ねて問う、我を倒せる者があるか?」


 俺に言っているのか、コイツは?商人の俺に?多分だが、レベルだけなら俺は一番高いだろう、だが戦う術はリーン達の方が…。


「我が三度(みたび)問う間に腹を決めるが良い。戦うも逃げるも…男、貴様が決めるのだ」


 決めろって…アンフルーもリーンもスフィアも戦える状況にはない、RGNは非戦闘員だ。俺は商人、そんなの引く一手だろうに。そう思って俺は引き上げる事を考えた。


「じゃあ、今日のところは…」


「戦いとはいついかなる時にも起こりうる」


「!?」


 なんだよ、コイツ。引き上げようとしたら急に話しかけてきやがって…。


「そしてそれに巻き込まれることも…貴様が望む、望まぬに関わりなくな。そこの女達が戦えなくなった際に貴様は背中を見せるのか?」


「!?」


 リーンが、アンフルーが…。スフィアが…RGNが…、戦えなくなった時って…。怪我してるのか、魔力が尽きたのか、いずれにせよ何か悪い事があった時だ。敵が…って事なら殺されたり酷い目に遭わされるかもしれない。


「最後だ、我を倒せる者はあるかッ!?前に出よ!」


 一段と強い声で敵が俺に問うた。いざという時、お前は戦うのか…それとも逃げるのか…。そんな事を問われているんじゃないか、そんな考えが頭を()ぎる。


「こ…」


 絞り出すように俺は声を発した、かすれたような声だった。だが俺は構わずに続けた。


「ここにいるぞ」


 そう言って俺は一歩前に踏み出した。

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