第147話 将を射んとすれば…
ウッドゴーレムに続き、ストーンゴーレムも倒した。残るは敵の親玉だが…。
「ふ…。ふふふふふっ…」
ヤツは笑いながらこちらに歩いてくる。
こぉ〜ん、こぉ〜んと低いようで高いような独特な金属の音がする。どうやら足音のようだ。
「八百…、九百…。…いや」
何か数字を言いながら近づいてくる敵の親玉、アンフルーが飛ばしていたライティング(灯り)の魔法の効果範囲に入ってきた。
ツヤを消した黒系統色の輝き…金属質の靴先のようなものが見え、それが膝のあたりまで続いている。鉄靴のようなものを履いた爪先が見えた。さらにそこから一続きになっている金属質の脛当て…、敵は騎士だろうか?と考えたその時にヤツは完全にライティングの効果範囲内に入った。
「千…、そう…千年ぶりであろうか…。こうして我みずから敵と相見えようとはな」
「こ、これは…」
その姿を見て俺は驚く、確かに鎧は着ていた。しかし着ているというのは正確ではないのかも知れない。
「ゴーレム…ですの?」
スフィアの呟いた通り、現れたのは金属質のボディを持つ精巧な造りのゴーレムであった。
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日本でも有名なお寺の山門などに鎧兜に身を包んだ仏像などがあるが…、現れたのは西洋でいうスーツアーマー(全身を完全に覆う金属鎧)。
「まあ、持国天とか毘沙門天とは雰囲気違うけど…」
身につけているのが和風ではなく西洋式の鎧兜、ぞして手には槍を持っている、ただその槍はスフィアが使っているような長い柄の先に刃先が付いた物ではなく馬上槍というタイプのもの。日本人なら魔界に姫様を助けに行ってたまにパンツ一丁になる騎士が最初に持っている武器のヤリを想像すると分かりやすい。もっともあちらは投げて使用していたが…。
だが、なんでランスなんて持っているんだ?あれは本来なら馬で突撃して突いて使用する武器だ、少なくとも徒士(馬に乗らず徒歩で戦う者)の者が使う武器ではない。
そんなランスを使うなんて…。何を考えているのか、それが分からない。だが、そんな敵がどんな考えをしているのか…、それどころかどんな顔をしているのかさえも分からない、それと言うのも…。
「鉄仮面ニャ!」
兜の中の顔、それが某有名プロレス漫画の主要キャラクターのような鉄仮面をしている。当然、中でどんな顔をしているかは分からない。その騎士風のゴーレムがみずからの前方に手をかざすと全身が金属で出来た馬が現れた。騎士風のゴーレムとは表面の輝きとか色ツヤが違うから違う金属のゴーレムなんだろうが…。馬鎧(馬用の鎧)を身につけた…いわゆる軍馬というヤツだろう。騎士風のゴーレムが馬のゴーレムの背にひらりと飛び乗り槍を構えた。
「久方ぶりの戦場ぞ…、我も震えておるわ!喜びでな…」
「千年…千年待ったのだ。さあ…、楽しませよ、存分に!!我は鉄騎の将なるぞ!」」
敵の親玉、鉄器の将とやらが手綱を片手にグッと身を低くして乗馬の両脇腹を挟み込むように蹴った。あれは馬を走らせる合図だ!
「来るぞ!」
俺の声に反応しリーンとスフィアが前を固める。その後ろに俺とアンフルー、さらに後ろにRGN。スピードに拍車がかかり迫る馬と鉄騎の将とやら、手にした馬上槍が俺達を襲う!瞬間、かわせないと判断した。おそらく身の軽いリーンでもギリギリかわせすのが精一杯だろう。だが、こちらはそこまで素早くはない俺やアンフルー、非戦闘員のRGNもいる。
「安心せい!最後尾の女は見逃してやる」
鉄騎の将はランスを本来の使い方である突きではなく横薙ぎにして振るってきた。
「は、速いですわっ!?」
スフィアが驚愕の声を上げた。それは俺も同じ、一瞬で間合いを詰められていた。とても回避が間に合わない!
ぶんっ!!
敵のフルスイングしたような騎兵槍が俺達に迫る。
「き、帰還ッ!!」
「むうっ!?」
俺は叫んだ、敵の戸惑ったような声が聞こえた。危機一髪、敵のなぎ払いを食らうことなく俺達五人は遺跡を脱し自室に転移した。
「キノク、すぐに元の場所に戻して!」
アンフルーの声、俺は元いた場所…遺跡に戻る。
「キノク、ビブラートを私の魔法に」
合わせろってことか!?俺は吟遊詩人のスキルを再び発動させる。アンフルーは手をゆらゆらと動かし集中に入る。
「ぬうっ!?」
攻撃が空振りし、俺達のいた場所を素通りしていった敵がアンフルーの声に気づき馬首を巡らせこちらを向いた。
「ビブラート!!」
俺は右手の平を上に向け意識を集中する。西瓜ほどの大きさの白色の玉を生み出した。
「右手より強酸…」
「次は逃さんッ!!」
敵は再び馬のゴーレムの手綱を引きながらこちらに狙いを定めた。
「左手から水刃…。混ざれッ、独自魔法!」
アンフルーが両手を前に突き出す、そこには俺が生み出した振動を続けるスキルで生み出したビブラートの玉。
「強酸の水刃!!」
アンフルーの魔法が放たれた。
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水で出来た小さな無数のカミソリのような刃が勢いよく放たれた、それはまるでマシンガンのようであった。水というのはこんなにも力強く打ちつけるのかと思うほど敵に当たる度に激しい音を立てる。
「その程度の攻撃で鉄の騎馬が倒れると思うてか!?せいぜい表面に傷をつけるのがせいぜい、無駄な足掻きに他ならぬ!」
そんな激しい水の刃による攻撃だが、敵の言う通り鉄騎の将にはもちろん馬のゴーレムにもダメージらしいダメージを与えたようには見えない。だが、この作戦を実行したのはアンフルーだ。
(何か考えがあるはず…)
アンフルーの魔法と俺のビブラートの発動が終わった。
「終わりのようだな、次はより速く行くぞ。かわす暇なぞ与えぬ」
敵は馬のゴーレムの姿勢をグッと低く沈ませた、まるで陸上の短距離戦士を思わせる動作だった。
「別れを…、言うと良い。その鉄の騎馬に…」
「ハアッ!!」
アンフルーの言葉に応じることなく敵は馬を走らせた。
びしぃっ!
大きな音が響いた、おそらくは敵の馬のゴーレムから。
「鉄は錆に弱い…」
アンフルーが俺に抱きついてくる、トップスピードに達しようとしたところで鉄の馬の全身にヒビが走った。
「鉄はヒビが入ると脆い…」
「こ、これは…!?」
初めて敵から焦りのようなものを感じた。
「そして鉄は音にも弱い…、表面にしか見えない傷も振動が伴えば中まで響く…」
力強く石の床を蹴る馬の前足が粉々に砕けた。
「鉄の重さとスピードの衝撃にヒビの回った体では耐えられない…」
「う、うおおおおッッッッッッッッ!!?」
鉄の騎馬の前足が砕けた事で鉄騎の将が宙に投げ出され高々と舞った。
「終わりね…」
アンフルーの言葉通り、前足を失った馬型のアイアンゴーレムは体を床に叩きつけられ砕け散っていた。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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馬型のアイアンゴーレムを倒したキノク達。
いよいよ遺跡のボスとの戦いだがあまりにも敵は強大であった。
そんな中、敵の親玉の言葉にキノクは…?
次回、第148話。
『ここにいるぞ』
お楽しみに。