第16話 (軽めのざまあ回)敗因は…水?(前編)
ミミックロックの群れに戦いを挑み、あえなく敗れたパーティ高貴なる血統の四人は投げ飛ばされ、殴りつけられ、そしてそれに巻き込まれ傾斜の急な山道から転げ落ちていった。
さらに悪い事には今来た道を逆戻りする形で転げ落とされたのではなく、いわゆる尾根のような道筋を外れ山裾まで落とされた形になっていた。いわゆる崖を逆落としされたような感じで、ほんの数分で何時間もの道のりが台無しになった。
「うぐぐ…。クソッ!クソッ!なんで勝てねえ!おい、マリアントワ!さっさと俺の怪我を治せ!」
苛立ちを隠そうともせずプルチンが怒鳴る。
「は、はい!」
怪我の具合で言えばハッサム、次いでウナの方が重いのだがプルチンとの関係を第一に考える至聖女司祭マリアントワは一番軽傷のプルチンに回復魔法をかけ始めた。
「キュア・フェイタルウーンズ(致命傷治癒)!!」
ハッキリ言ってプルチンの怪我は初歩の回復魔法であるキュア・ライトウーンズ(軽傷治癒)で十分なのだが、成人と同時に希少であり最上位職業である至聖女司祭に就いたマリアントワはむしろその下位職である神官の見習いが覚えるような魔法を知らない。だから唯一使える回復魔法。とんでもない高位なものを使った。
「つーかさー、なんでプルチンが最初なワケー?ウチらの方が重傷なんですけどー?アンタの着てた家宝の鎧だっけ?御先祖サマが魔界にまで乗り込んでった時に着てた鎧っしょ、アレ?一回攻撃くらうと弾け飛んじゃうけど着てる人は無傷…、それこそ魔王の一撃でも耐えちゃうってさー」
ウナが文句を言っている。巨大なミミックロックにやられたプルチンだが、鎧が弾け飛ぶ事で敵の攻撃の威力を相殺しほとんどダメージはなかった。
「次は拙僧を…頼む」
ダメージが大きいハッサムが声をかけた。
「キュア・フェイタ…」
回復魔法をかけようとしたマリアントワだがガクンと膝から崩れ落ちる。
「ちょっとー!何やってんのよー。アタシも回復魔法を待ってんですけどー」
ウナが悪態をつく。
「う…。魔力が…。それと、喉がカラカラで….」
苦しそうにマリアントワが呻く。
「魔力は休めば回復すンだろーけどよー、水はなー」
一人元気になったプルチンは呑気な事を言っている。
「つーかさー、アンタ一人だけ元気なんだから飲み水どうにかしてよ」
「はぁ?なんで俺が!?」
「アンタが一番怪我が軽いのに回復魔法使って一人だけ元気なんだし、リーダーなんでしょ?パーティの事を考えてよねー」
ウナがプルチンを追及する。ハッサムは何も言わないが、その視線はウナに同意しプルチンを同じく責めている。普段ならプルチンの味方をしてくれそうなマリアントワは苦しげにしているだけで援護をしてくれそうにない。
「ちっ!おい、役立たず!水だ、水を出せ!」
プルチンがいつものように荷物持ちから水筒を出させようとする。そのいつもの様子にウナもついつい乗っかった。
「さっさとしてよねー!」
そんな二人の口ぶりにハッサムとマリアントワも何の違和感もなく口を開く。
「うむ、早う持ってまいれ!」
「私にもですわ!待たせるとあっては万死に値しますわ」
しかし、水は供されず返事をする者もいない。
「…おい、どうした!早く持ってこい!さっさとしねえと…」
ぶっ殺すぞ…そう言いかけたところでプルチンの動きが止まった。荷物持ちがいない…。
「あ…」
プルチンは間の抜けた声を上げた。
「ちっ!いなくなったらなったで使えねーな!!」
その場にいないのだから何も出来ないのは当たり前だが、居心地の悪さにプルチンは自ら追放したキノクの存在を言葉に出して誤魔化そうとする。しかし、一人だけ元気なプルチンは回復すらしていない三人とは違い身動きもとれる。
仕方なく水を探しに出たプルチンは川のせせらぎの音を耳にした。プルチンはそれを頼りにたまたま近くを流れる小川を見つけ、思わず水面に頭を突っ込むようにして飲んだ。それから得意顔をして小川の発見を三人に伝えに戻った。どうせ休憩するならと四人はその小川に向かった。渇きに渇いた上で見つけた念願の水、後から来た三人も目が釘付けになった。
「これ、飲める水?」
ウナがそんな疑問を口にする。
「平気だろ、あの役立たずだって俺達に渡してた水は湧水って言ってたし。川なんて湧水が集まって流れてるようなモンだろ?それにこの川の水、別に濁ってるワケでもないしな」
もうすでにたっぷりと水を飲んだプルチンは余裕そうな表情で呟く。確かに言うとおり、他の地域は知らないが川とは本来濁った水が流れるものだ。しかし、この小川の水はとても綺麗に澄んでいる。
「まっ、あのキノクが出来る事なんてフツーに水を汲んでくる事ぐらいよね。確かに考え過ぎたかなー、やっぱアタシも気にしないで飲む」
そう言ってウナが川の水を手ですくって飲み始めると、ハッサムとマリアントワも先を争うように飲み始めた。とうに渇きは限界だったのだ。その様子を見てプルチンは自分がいかに有能なのかと痛感する。
「お前ら、感謝しろよ。俺様が見つけた貴重な…貴重な水なんだからな!!」
恩に着せるようにプルチンが声高に言った。
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