第146話 アンフルーの秘策
「勝利への道筋、既に見えている…」
静かに、そして抑揚なくアンフルーか言った。
「ア、アンフルーには…、見えているんだ。あのゴーレムを倒す方法が…」
「ふふ…、当然。…あ!」
アンフルーが小さく声を上げた。
「ど、どうした?」
まさか、アンフルーの秘策に手落ちがあったのか?
「私、このストーンゴーレムを倒したらキノクと子作りするんだ…」
「いや、そんな変なフラグになりそうなセリフとかいいから…」
「ふふ、子作りへの否定はなかった。ヤる気出てきた」
そう言ってアンフルー手をかざした。
「リーン、いける?」
「いつでも、だニャ!!」
「呼吸を整えて、一撃で良い。合図をしたら行って」
「分かったニャ、久々の連携ニャね」
リーンが腰を落とし、すうっと大きく息を吸い込んだ。
「無駄だ、絶対に勝てばせん。特殊なスキルこそ持たぬが頑丈さなら伝説級のストーンゴーレムぞ」
敵の親玉の声が聞こえた。
□
「独自魔法…、核熱!!」
アンフルーが魔法を放った。ストーンゴーレムの全身が鍛治師が打つ赤熱した鉄のように真っ赤になった。
「ふ、ふくくくくっ!!何かと思えば…」
敵の親玉が笑いを堪え切れずといった笑いを洩らした。
「ずいぶんと高温のようだが…、それが何になる?爆発系の魔法と言うのなら分かるぞ!それこそ核熱融合の魔法のような…、物質系の敵には定石とも言える魔法だからな。だが、それをただ熱を生むだけの魔法とは…。女、よもや焼き石を作りたかったと言うのではなかろうな!?」
「そう、私は焼き石を作りたかった」
「…なんだと?ふざけているのか、それでは熱くなるだけではないか!そんなものではダメージにはならんのだぞ!」
「爆発はいらない。そしてこれは半分…」
「なに?」
「炎の魔法では外から熱くするだけ、だから私は核熱の魔法でストーンゴーレムを中から余す所無く赤熱させた」
「何の為に…」
「こうするため…。独自魔法…永久凍土!!」
「なっ!!こ、これは…」
赤熱したストーンゴーレムが一瞬にして巨大な氷に包まれた。
「世界の果てには決して融けず永久に凍りついたままの大地があるという…。それは千年の時を経ても…、真夏の太陽にも融けることのない凍りついた土…」
「ふ、ふははははっ!!それがどうしたというのだ!?岩石にはそんなものなんでもない!よもや貴様、雪や氷の下に埋もれた岩がひとりでに割れるとでも言うつもりか!!」
「ひとりでに…とは言わない」
ぱちんっ!
アンフルーが指を鳴らした、ストーンゴーレムを包んでいた氷がたちどころに消えた。
「リーン、今…。あなたの全力なら砕けるはず…」
リーンが一瞬でストーンゴーレムに体ごとぶつかるように飛び込む。地上スレスレを飛ぶ一筋の流れ星、そんな光景だった。それがやけにゆっくりに見える、まっすぐに…力強くリーンが右拳を突き出す。
「ぶ、ぶち抜いたァッ!!」
俺は叫んでいた。ストーンゴーレムの胴体ど真ん中を右拳が…そしてリーンの体が丸ごと突き抜ける。その姿勢のままストーンゴーレムは動きを停止した。
「な、なん…だと?」
敵の親玉が驚愕の声を洩らした。
「そ、そうか…、温度差…」
「なにィッ?」
俺の呟きに敵の親玉が反応した。
「そう…。ストーンゴーレムを赤熱するほどに熱し、それを急激に冷やした…。そうすることで物質は非常に脆くなる。もはやそのストーンゴーレムは全体にヒビが入った陶器の皿も同じ。衝撃を与えれば…、それこそテーブルから床に落とす程度の衝撃でも容易く崩れ去る」
くるくるッ…すたっ!!
リーンが綺麗な着地を決めた。
ぴしっ…、ぴしぴしっ…。
穴の空いた胴体の中央から全身にヒビが走っていき…その後ガラガラと音を立てストーンゴーレムが崩れ落ちた。
「こんな風に…。小柄なリーンの着地のような小さな衝撃でも崩れ去る…」
「バカな…、不壊のゴーレムが…」
「頑丈すぎて壊せないなら脆くすれば良い…、それだけのこと…」
アンフルーがこちらを向いた。
「キノク、これでこづくr…」
「アンフルー、そういうこと言わなきゃ良いのに…。ちょっと残念」
思わず俺はため息をついた。