第142話 力を求めて(1) 中位職業(ミドルジョブ)
三度のパペットオークとウッドゴーレムとの戦闘を制した俺達は自室で休む事にした。なにせ先に続く扉はどう見てもボス部屋にしか見えない。二つの布団を並べて全員で寝るのだが…。
「なあ、RGN。お前も寝て良いんだぞ」
俺は畳の上で正座しているRGNに声をかけた。
「大丈夫ですよっ!わたしはマスターの従者ですからっ!」
「そう言っちゃったらそれまでなんだけどな。でも、休む事も必要だろう。食事をエネルギーに変換できるってことは消費もするってことだ。眠ることはできるんだろう?」
「は、はいっ!睡眠というよりは低出力状態と言いますか…」
スリーブモードみたいなもんか…。
「まあ、でも横になりなよ」
「そうですか?ではお言葉に甘えて…」
そう言ってRGNは一番端に陣取った。
「よーし、じゃあみんなもゆっくり休んでくれ。あの扉の向こうでは激しい戦いになりそうだし」
「ニャ!…スヤァ」
俺に抱きついたと思ったらすぐさまリーンは寝息を立て始めた。スフィアも、そしてアンフルーもすぐに眠った。二連戦はケガこそ無かったが意外と消耗はしていたらしい。そんな三人の様子を確認すると俺もすぐに眠りの世界に落ちていった。
時間にして四、五時間くらいか、俺は眠りから覚めた。リーン達と比べれば俺が倒したのはパペットオークだけ。ゴブリンより少し手強い程度の相手だ、確かに負担は少ない。
あの扉の向こうがボス部屋だとして、俺が戦力になれるのかという疑問が浮かんでくる。少なくともウッドゴーレムを倒すだけの決め手を俺は持っていない。ボス部屋ともなればさらに強大な敵が出てくる公算が高いだろう。そう考えた俺は布団を抜け出しちゃぶ台にノートパソコンを置いた。何か戦力になれるような技能でもあれば…。そんな事を考えてのことだ。
プルチン達から得た金のおかげでかなりのレベルアップをしていたのでパラメーター自体は伸びている。しかし、大木そのものといえるウッドゴーレムとやり合うには心許ない能力だった。
「斥候か…、レベル5までしか買えないけど敏捷とかが上がるのか。買って損は無いな、よし買おう…レベル5まで一気に購入っと。他に魔法系の職は…無いのか、まあそうか。何かの神様を信じてる訳じゃないし、地球は魔法とは無縁だし。魔力があるだけ…おや?」
購入可能な職業がいくつか追加されていた。
「弓士?…こんな職業なかったよな…」
パソコンの画面には新たな職業の表示がある。
「それは上位職業ですねっ」
「RGN!?お前、起きたのか」
「はい。マスターが起き出したので。サポートをするのがわたしの役割ですから」
「そ、そうか。…それで、さっきの上位職業って言うのはなんだ?」
「ある二つの職業の経験を積んだことによって就ける職業ですね。代表的なのは戦士と魔法使いの職の経験を積んでなる魔法戦士でしょうか。物理戦闘も魔法攻撃もこなす攻撃重視の戦闘職ですね。でも、魔法は細かい魔力のコントロールが必要ですからあまり重い鎧とかを身につけられません。ですから普通の戦士の方と比べると軽武装になりやすく防御面にやや不安が残ります」
「なるほどな。良いことばかりじゃないんだな」
「はいっ!ですから敵と離れて戦う魔法使いの立ち回り方に慣れ、かつ物理攻撃が有効と感じたら一気に接近して斬り伏せる…。技を磨くのもそうですが、その判断にはやはり経験がモノを言うようです」
「ふうん…、経験か…」
「以前、マスターを追放したという人達は最初から最上位職だったとか…。普通はそんなことはできませんし、仮に何かの手段でなったとしても経験が絶対的に不足しています。普通なら何もかも中途半端になってしまうはずです」
「ああ、確かにプルチン達…あいつら力押しだけだった。でも、それでもなんとかなってたのは飲む温泉水によるパラメーター増強効果だったんだろう。再会した後は下位職業の以下の動きだったし…」
「マスターは下位職業の経験も実力もしっかりありますから下位職業の上の…いわゆる中位職業の技能を得るのはオススメです。弓士は弓が最も得意になるジョブです。反面、弓以外が不得意になるデメリットがあります」
「そりゃ困るな、弓を使えなければ途端に戦力にならなくなる。プルチンは魔法剣士だったが鉈を使ったら途端に弱々しくなったからな」.
「お忘れですか?マスターは戦士の職業も修めています。戦士は全ての武器を使いこなす戦闘の専門家。その効果は上位の…、今回の弓士が弓以外の武器を使う時に発生するようなデメリットを打ち消すことができます」
「ん、つまりどういうことだ?」
「良いトコ取りということですっ!元から戦士の職業を持つマスターが弓士の職業を得たら『全ての武器を上手に扱えるが、特に弓の扱いが上手い』ってことになるんです」
「それって凄え!!」
「はいっ!マスターは凄いんですっ!」
RGNが笑顔で応じた。
「…あれ?でも…」
「どうしました?」
「弓士の使う弓ってこういう弓だよな?」
そう言って俺は弓道やアーチェリーで使う弓を引くような仕草を見せた。
「そうですねっ」
満面の笑みで応じるRGN。
「俺、確かに飛び道具使うけどさ…。使ってるのはこういうのなんだ」.
そう言って俺は土間にある物を置く台の上から愛用の武器を取ってきた、クロスボウである。
「あ…」
RGNは小さな呟きを洩らして動きを止めた。
「コレ…、多分だけど弓士の弓が得意になるっていう特性の対象外だよな…。使い方、こうだし…」
俺はクロスボウを構えて引き金に指をかけて見せた。
「そう…なりますね…」
先程までの喜びの表情から一転、がっかりした様子でRGNは応じた。
「ま、まあ気にするな。下位職業…ってのは言い方が悪いな、基本職業の斥候を上限まで買ったら弓士が現れた訳だが…」
「おそらく斥候と野伏のレベル上限まで成長させたから解放されたのかと…」
「そうか、だけどなあ…」
「マスターの使う武器は弓とは違うタイプに分類されますね…。同じ飛び道具ではありますが」
「そうだな、ボウガンと言ったりもするから弓というよりは銃みたいな感じなのかな。でも…、まあ弓士も買ってみるよ。レベルアップのボーナスはレベルアップごとに器用のパラメーターが1上がる…か。なるほどね、確かにより上位の職業になるとパラメーターの伸びが鈍化するんだな。代わりに強力な特性を持ったりする訳か…。レベル上限は5か…、よし買うことにしよう。どちらにせよ能力は上がる」
俺は斥候に続いて弓士の職業も一気に上限の5まで購入した。斥候はレベル5まで上げるのに5500万ゼニーを要した。
一方で中位職業である弓士は基本額が二百万ゼニー、レベル1になるのに200万、レベル2で800万、レベル3で1800万、レベル4で3200万、上限のレベル5で5000万ゼニー。合計で1億1千万ゼニーだ。
「あっ、マスター!画面に新たな職業が追加されましたよ」
RGNが言った通り画面には購入可能な職業が追加されていた。
「なになに…。弩士(new)…?」