第141話 秘剣『鉈落とし』、それってまたの名を◯◯だよね
パペットオーク、ウッドゴーレムを倒した俺達は通路を先に進んだ。すると先程と同様にパペットオークの集団とウッドゴーレム一体が待ち受けていた。
「パペットオークは俺にやらせてくれ」
リーン達を制し俺が前に出た。敵方はウッドゴーレムは最後方、パペットオーク達が前に出てくる。このあたりはゴブリンとそのリーダーの関係に似ている。まず尖兵を押し立て、リーダーが後詰めをしてくる。
俺はプルチン達から巻き上げた鉈を取り出して両手で構え押し出してきたパペットオーク達と対峙する。ゴブリンと同じ程度の強さなら後ろを取られるなどしなければ遅れをとることもないだろう、囲まれないことを意識して立ち回る。
先頭のパペットオークが腕部を振り回す、その腕のリーチは俺より短い。俺は軽くバックステップ、余裕をもって攻撃をかわすとパペットオークは前方に体勢が流れバランスを崩した。その隙に俺はパペットオークに肉薄する。
かつんっ!
パペットオークの頭頂部に振り下ろした鉈が軽い音を立てた。ダメージはほとんどない、せいぜい1センチくらい鉈の刃が食い込んだだけだ。
「キノク〜、それじゃ攻撃が軽すぎるのニャ」
リーンが声をかけてくる。
確かにその通り。ゴブリンならともかくパペットオークは硬い樫の木でできている。軽く鉈の刃を当てたくらいでは刃が軽く食い込むだけだ。
「分かってるさ。だからこうしてみる!」
俺はバランスを崩しているパペットオークの足を払った。するとストンとパペットオーク胴体部分が地面に落ちた。その衝撃で頭頂部に食い込んだ鉈がより深く食い込む。
左手を鉈から離しパペットオークを掴む、敵は木製バットほどの太さでその胴体を持ち上げる。あまり重くはない、容易にその胴体が宙に浮く。
「よっと!!」
持ち上げたパペットオークから左手を離す、当然パペットオークは浮いていられる訳は無く十数センチほどを落下。石の床に落下する。
こぉ〜んっ!!
木材を打つ独特な音が遺跡内の壁を反響した。
「ち、力をあまり入れたようには見えませんでしたわ!」
スフィアが驚きの声をあげた。無理もない、俺が手にした鉈はパペットオークの頭部から真下へ…胴体の半分ほどまでを割くようにして食い込んでいる。当のパペットオークは動きを既に止めていた。
こぉ〜ん!!
もう一度、先程と同じようにしてパペットオークだったものを石の床に叩きつけるとその胴体は完全に左右に真っ二つになり床に転がった。
「秘剣『鉈落とし』。大したパペットオーク共だ、俺にこの技を使わせるとは…」
あまりに上手く行きすぎて俺は自分に酔ってしまった。
「ひ、秘剣『鉈落とし』…?キノク、いつの間にそんな技を覚えたのニャ…?全然力を入れてニャいのに真っ二つなのニャ」
リーンが戦慄した声で呟く。
「…またの名をただの薪割り。ごめん、本当は秘剣でもなんでもない」
俺は正直に告白した。それと言うのも実は薪割りは力任せにやらなくても良いのだ。薪割りしようとする木材に鉈の刃を当てがって食い込ませたら後は簡単、そのまま軽く振り下ろせば良い。すると思いの外たやすく切り分けられるのだ。
「木には木目ってのがあるからな。それに逆らわず縦方向から衝撃を与えればパカッと割れる」
「た、確かに。宿屋なんかでも下働きの子供が薪割りをしていたりするのニャ!」
「そういう事。最低限の力さえあれば出来る事なんだよ。まあ鉈とか斧が木に対して相性が良いってのもあるが…。さて、次いくか」
そうして俺はパペットオーク達を相手に立ち回りを続けた。あまり力を入れてないのだが、この遺跡の特徴である体力を三倍必要とするのは非常にきつかった。
「これはスタミナの消費が激しい」
「そうなのニャ。だからスタミナ配分は大切な事ニャ、いくら強い戦士でもヘトヘトになってたら本来の力を発揮できないのニャ」
「ああ、良い経験になったよ」
「こちらも終わりましたわ」
スフィアが戻ってくる。
今回はスフィアがウッドゴーレムと相対していた。スフィアは何回かの失敗はあったものの見事にウッドゴーレムの核である魔導制御板の位置を見抜き槍の石突きで打ち抜いていた。
さらに通路を進むと再び十体のパペットオークと一体のウッドゴーレムが現れた。ただ、今までと違うのは通路の奥に大きな扉が見えたことだ。
「私が…」
アンフルーが前に出た。敵は突出したアンフルーに向かってくる。
「ウォール(壁)」
アンフルーは目に見えない魔法の壁を前方に作った。敵はそこからは進む事が出来ない。そうしているうちに後続が、そしてウッドゴーレムも近づいてきた。敵の集団が一塊になる。
「ファイアストーム(炎の嵐)」
アンフルーは冷静に魔法を発動させた。渦を巻く炎が密集するパペットオークやウッドゴーレムを包み、たちまちその体を焼き始めた。
「すごい。一回の魔法で…」
パペットオークはおろかウッドゴーレムも完全に炎の餌食になっている。
「この環境が…、そして敵の配置が私に味方した」
「どういうことだ?アンフルー」
「キノクが鉈でパペットオークを倒したのを見て確信した。このパペットオークにせよゴーレムにせよ完全に水分が抜け切っている。言わばよく燃える薪と同じ」
「確かに…」
俺はパペットオークを鉈で倒した時の事を思い出していた。掴み上げた時、思いの外軽かったのだ。つまりそれだけ水分が抜け切っていたのだろう。
「本来ならいくら燃えやすいと言えどもウッドゴーレムは大きい。一回の魔法では倒しきれるとは考えにくい」
「でも、魔法を一回使っただけでこうなってるのニャ。どうしてニャ?」
「パペットオークがいるから」
それを聞いてスフィアがあっと声を上げた。
「つまり、炎に焼かれているパペットオークの体が薪の代わりになっているのですわね。ウッドゴーレムは炎の魔法で焼かれ、さらには周りで燃えているパペットオークからウッドゴーレムに次々と燃え移って…」
「ん、そう。焚き火をしている中に太い薪を新たに加えたようなもの…。魔法の壁で行く手を阻み後続が追いつき密集した、私から見ればそれは積み上げられた薪も同じ。チェスで言えばチェックメイト(詰み)、既に敵は死地にいた」
淡々と語るアンフルー、そうこうしているうちに敵は燃え尽きていた。大小合わせて11個の魔石、そして真っ白な灰だけが残った。
「さて、問題はあの扉の向こうだが…」
魔石を拾い俺は呟いた。
「おそらく敵が潜んでいるニャ」
「だろうな。よし、万全を期そう。しっかり回復してあの扉の奥に向かう事にしよう」
いかがでしたでしょうか?
作者のモチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどを感想にお寄せいただけたら嬉しいです。レビューもお待ちしています。よろしくお願いします。
モチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
次回予告。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
ボスがいると思われる扉の前から自室へと戻ったキノク達一行。
ダメージを受けずパペットオーク達を全滅させたが疲労は大きくリーンやスフィアはもちろん、魔力を多く消費したアンフルーも深い眠りに落ちていた。
その時、キノクが感じたのはどうしようもない無力感であった。
次回、142話。
『力を求めて』
お楽しみに。