第140話 敵発見、これより攻撃に入ります
主要駅の出口を背にして見るまっすぐ伸びた大通り、そんな印象を受ける広い通路が音も無く開いた壁の向こうに続いていた。俺達の周りはアンフルーのライティング(灯り)の魔法によって照らされているが、それでも長く伸びる通路の先は暗く何があるのか分からない。
開いた壁は俺達が通り過ぎると音も無く閉まった。だが、開かない訳ではない。RGNが近づくと再び壁が開いたのだ。おそらくはRGNにだけ開閉可能な自動ドアのようなものなんだろう。
「閉じ込められた訳ではないから進んでみることにしよう」
俺はそう言って前進を促した。
「通路の両端に何かいるニャ」
夜目が利くリーンがまだ暗い通路の先を見て警戒するような声を上げた。
「ライティング・ボール(光の玉)」
アンフルーが光の玉を作り出し先行させるように前方へ飛ばした。二十メートルか、三十メートルか…、そのぐらい先に飛ばすと暗くて分からなかった通路の先の様子が見えてくる。
「なんだありゃ?木製の人形?」
通路の両端、壁を背にするようにして人間よりやや小さいくらいの人形が等間隔で並んでいた。ただ、あくまで人型をしているというだけで顔にあたる部分に輪郭が彫り込まれている訳ではない。ただののっぺらぼう、さらに注意して見れば腕部にあたる部分には指や手のひらのようなものは見受けられない。しいてこの人形に似ている形状を挙げるとすれば、道路標識や歩行者用信号のレンズに描かれているような人を指す絵のような形状…、まるでピクトグラムのようだ。
「まさかとは思うけど、ここが本当は城塞ではなく墓所だったりしないよな?古代有力者の墓って死後も仕えろと家来を殉死させたりしていたらしいからな」
時代が下るにつれ殉死させるのではなく、人を模した物を作り副葬品として一緒に埋葬するようになっていったと歴史の授業では聞いていたが…。
固定されている訳でもないのに人形は姿勢正しく整列するように屹立している。だが、俺達がある程度の距離まで近づくとゆっくりと動き始めた。まるで迎撃するように広い通路に立ちふさがる。
「こいつら、動くニャ!」
「さしずめこの城塞の守備兵というところですわね!」
リーンとアンフルーが前衛に立つ。
「これは…、いわゆるゴーレムってやつか?木でできているからウッドゴーレム…?」
「違う。あれはゴーレムよりもっと手軽で簡易的なものでパペットオーク(樫の指人形)という。少し太めの樫の木の枝があれば作れる。だいたいゴブリンと同じくらいの攻撃力、でも木でできているからゴブリンより硬くて丈夫。だからそのぶん少し手強い」
俺の呟きにアンフルーが応じた。
「じゃ、じゃあウッドゴーレムってのは…?」
「枝ではなく大きな木の幹そのものを使う」
「そうなのか」
「そう、だいたいあんな感じで…」
そう言ってアンフルーは通路の奥を指差した。そこには背の高さ3メートルほど、胴回りはドラム缶ほどはある大型のモンスターが現れた。
「へぇ〜、でっかいなあ…ってヤバいじゃねーか!?」
「大丈夫、リーンとスフィアなら」
「えっ?」
俺が問い返した時、リーンとスフィアは既に動いていた。
「ボク、奥のデカいのやるニャ」
「仕方ありませんわね、木を相手にするにはわたくしの武器ではやりにくいですから」
たたたたっ!!ぴょ〜んっ!!
リーンは走り高跳びと走り幅跳びを合わせたような大ジャンプ、立ち塞がっていたパペットオークをあっさりと跳び越えてウッドゴーレムに肉薄する。
「ふニャあアアアアッ!!」
リーンのドロップキック!ウッドゴーレムを派手に吹っ飛ばす。ウッドゴーレムは遺跡の石の床に低く重い音を立てて倒れた。そこにリーンが追撃にいく。
空手の試し割りのようにリーンが右手を振り上げそのままウッドゴーレムに叩き付けた。完全な破壊とはいかなかったがウッドゴーレムの胴体はほとんど圧し折れその活動を終えた。
一方、十数体のパペットオークを前にスフィアは手持ちの槍をくるりと半回転。石突きをパペットオークに向ける。
「あなた達はわたくしがお相手いたしますわよ」
その声に応じた訳ではないだろうがパペットオーク達はリーンを追わずスフィアへと向かう。
すう〜っ。
スフィアは槍を構え、大きく息を吸い込みピタリと止めた。同時にまるで彫像のように動きが静止する。瞬きすらしない、まるで時間が止まったかのようだ。
じりっ、じりっ。
動きがあまり早くないパペットオーク達がスフィアに迫る。そしてそのうちの数体がスフィアの槍の間合いに入った。
「ふッ!!」
短く、それでいて強く息を吐き槍を繰り出すスフィア。
とととととぉ〜ん!!
硬い物で木を突いた音が通路に反響する。長い一回の打突音が通路に響いた。
「凄い…。あまりに速い突きだから何回も突いたのに一回にしか聞こえない」
そしてスフィアは突き終わった槍を再び手元に戻した。
「…ど、どうした?スフィアの突きでパペットオークは動きを止めたけど…、倒れてはいない。とどめをささないのか?」
「その必要はありませんわ」
俺の問いかけにスフィアが応じた。
「ど、どうして?」
「それは…こういう事ですわ」
くるり、再びスフィアは槍を半回転させると石突きで床をトンと突いた。
こつーん、かつーん…、かつーん、ころころ…。
「なんの音だ?」
「は、はわわわ〜!マスター、床に魔石が転がっていますぅ!」
パペットオーク達の足元に小さな…、ゴブリンのものと同じくらいの大きさの魔石が転がっている。よく見れば動きを止めたパペットオーク達の胸元には槍の石突きで打突されて出来た凹みのようなものができていた。
「わたくしもいくつかの死戦をくぐり抜け、そしてキノクさまへの愛を胸に強くなれたのですわ。パペットオークの核…すなわち魔導制御板の位置を見切りまっすぐに突きましたの。同時にそこには魔石がありますわ。それを体外に弾き出しましたの。…つまり」
再びスフィアは石突きで床を突いた。
ごとおんっ!!がらんっ!ごろん!!
動きを止めていたパペットオーク達がたちまちバラバラになり石の床を転がった。
「あ、ああ…。パペットオークがバラバラにィーッ!?」
「いかなるモンスターも魔石が体外に出てしまっては無事では…、いえ体を維持する事さえできませんわ。ですからっ!!」
今度はスフィアがパペットオーク達に仕掛けた。
肉薄するスフィアにパペットオーク達が応戦しようとする。しかし、パペットオーク達は武器を持っていないので腕部を振り回すのみ。スフィアには槍がある、再び槍の石突きでパペットオーク達を突いていく。後には足元に魔石が抜け落ちたパペットオークだけが残った。
「だいたい思い描いた通りの動きができましたわ。待ち構えて狙い撃ちする時も、自ら動いて狙いがつけにくい時でもだいぶサマになってきましたわね」
「スフィア…。い、いつの間に…」
「わたくしはキノクさまの槍…、そしてゆくゆくは伴侶にと思っておりますの。技を磨き、できることを増やして隣に立つのに恥ずかしくない淑女になってみせます。そのためにはわたくし、日々の鍛錬を欠かしていませんの」
凛とした表情、それでいてなんとも優しい表情でスフィアは俺に語りかけていた。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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またも現れたパペットオーク&ウッドゴーレム。
次に立ち向かったのは…?
次回、第141話。
『秘剣鉈落とし…。いや、それって◯◯だよね?』
お楽しみに。




