第137話 相性最高のダンジョン(2) 異変
「ん…、ちょっと待って」
アンフルーが声を発した。
「どうした?アンフルー」
「…なにか変な感覚。でも…」
アンフルーが小首を傾げながら言葉を続けた。
「灯りの魔法の効果が切れそう、かけ直す」
「ねぇねぇ、キノク〜?」
「今度はリーンか、どうした?」
「ボク、なんかお腹すいてきたニャ」
「申し訳ありません、キノクさま。わたくしも若干疲労感が…」
リーンは空腹を、俺達の中では鎧を着ているスフィアは疲労を訴える。
「そう言えばそうだな。あまり時間が経っていないような気もするが…、もしかすると気を張り詰め過ぎて時間の流れに気がついてないだけかもしれない。アンフルー、魔法のかけ直しはナシだ。部屋に戻ろう」
「分かった」
「よし、帰還だ」
そう言って俺達は部屋に戻った。
「あっ、お帰りなさいっ!」
戻ってきた俺達をRGNが笑顔で出迎えた。
「休憩ですかっ?」
「それもあるが、メシを食いにだな」
「えっ?先程の食事から二時間ちょっとくらいしか過ぎてないですよ?」
「なにっ?」
俺は驚いて壁掛け時計を見た。
「ホントだ…」
なんだ、まだそんなに経っていないのか…。だが、体はそれなりに疲れているし、喉の渇きや空腹感があるのも事実だ。
「…分かった」
アンフルーが呟きを洩らした。
「この遺跡はなんらかの魔法か罠が張り巡らされていると予想する」
「どういう意味だ?アンフルー」
俺達の視線がアンフルーに集まる。
「…ん、私の灯り(ライティング)の魔法はだいたい六、七時間は効果が持続する。それが二時間余りしか経たずに効果が切れそうになった。そして空腹感や疲労感も…」
「たしかに変ですわね。緊張感…というだけでは説明がつきませんもの」
スフィアが応じた。
「おそらくこの遺跡では三倍くらいの早さで体力や食料や水を消費していくと考えられる。そして持続時間がある魔法も…。疲れがある事からそう遠くないうちに眠くなる事も考えられる」
「そう言えばボク、少し眠くなってきた気もするニャ」
「わたくしも…」
「私はエルフだから数日眠らなくても…、反対に数日眠り続けても平気だからあまり眠気に関しては自覚が無いけど…。でも、おそらくこの遺跡はそういった生理的な事や持続時間が関係することに深く関与してくる場所なんだと思う」
「ふむ…」
「ねぇねぇ、キノク〜。つまりどういう事ニャ?」
リーンが胡座をかいて座る俺の足の上に身を乗せながら尋ねてきた。
「そうだな…」
俺は一拍おいてからリーンに返答した。
「一言で言ったら何もかもが三倍早いんだ、腹が減るのも喉が渇くのも。疲れて眠くなったり、魔法の効果が切れるのも…。こりゃ、やっかいだぞ。二時間ちょっとで食料が要る、当然ながら水だって。疲れるのも早いから数時間探索したら寝る事も必要だ。水や食料がすぐに底をついちまうし寝てる間にもどんどん飢えや渇きが発生する…」
「それでは探索を継続することは困難を極めますわ!常に兵糧攻めをされているようなものですもの」
「そうなるな」
「ふふ。だとしたらこの遺跡、攻略するのは私達が有力…」
アンフルーが俺に抱きつきながら言った。
「水も物資もここでなら確保出来る。それにここでは遺跡とは隔絶されている、その効果は及ばない…。キノクの能力があればこの遺跡の攻略難度はケタ違いに下がる」
「なるほど、俺にとっては相性が最高に良い場所って事か」
そう言う俺にアンフルーはかすかに微笑み頷いていた。