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第15話 キノクの意地。 VS 巨大ミミックロック。


 リーンが倒したミミックロック、あれはだいたい米俵が少し大きくなったくらいの大きさだったと思う。だが、今立ち上がろうとしている大岩は…。


「で、でかい…」


 そう呟くしか出来なかった。胴体はよくあるプレハブ小屋くらいの大きさはあるだろうか。とにかく巨大だった。


「ニャ…、ニャんでこんな森に…。普通は岩場に生息するモンスターのはずニャ」


「岩に擬態(ぎたい)するならそりゃ岩場にいるよなあ…」


「そうか…」


 リーンが分かったとばかりに呟く。


「昨日の雨…。大雨の後は崖や道が崩れたりする事があるニャ。多分、あの高いところから転がってきてここで止まったんだニャ」


 10㎞(キロ)はあろうかという高地を指差しリーンが指摘する。


「ええッ?あんな遠くから?」


「そうニャ。デカくて大きい…つまりとても重いニャ。なかなか動かせるものじゃニャいけど、反対に勢いがついたらたらなかなか止まるもんじゃないニャ」


「た、確かに…」


 俺は日本でたまに目にするいたましい交通事故のニュースを思い出す。暴走ダンプカー、車十五台を巻き込んでようやくストップ…みたいな。


「絶対絶命ニャね…。ボクはもうそんなに動けニャいし、…キノクは戦いに向いてニャい…。でも…、不幸中の幸いニャ…」


 フラフラになりながらリーンは自分の足で地面に立った。


「このままじゃ二人ともおしまいニャ…。だからボクが食い止めるニャ…」


「馬鹿っ!出来る訳ないだろ!」


「そうニャ。多分、一瞬…。もしくは勢いを弱めるくらいニャ…。あいつ、とてもデカいニャろ?だから巨体に不釣り合いな細い手足じゃ飛び跳ねる事は出来ないはずニャ。まっすぐ転がってくる。それを受け止める…ニャ」


 そう言ってリーンは震える足で大地に踏ん張った。


「その間に…キノク。逃げるんニャよ…」


 とん…。


 リーンが俺を押した…。離れろと言わんばかりに…。リーンの真横、俺と彼女には数歩の距離が空いた。


「こっちニャ…」


 いつの間に拾っていたのか、リーンは巨大なミミックロックに小石を投げた。山なりの弧を描きコツンと音を立てた。


「……………」


 巨大ミミックロックはリーンを睨みつけた。敵だと認識したのだろう。


 …グッ。


 巨大ミミックロックは体勢を低くした。短距離走の選手が、あるいは力士が、身を沈めて一気に踏み出してくる姿を彷彿(ほうふつ)とさせる。


「来るッ!逃げるんニャッ!」


 ゴロンっ!リーンめがけてミミックロックが動き出した!


 その瞬間、俺は走り出していた。



 俺は走り出していた。まっすぐに、全速力で。


 リーンは両手を前に突き出しミミックロックを受け止めようとする。しかし、それは蟷螂(とうろう)の斧のように思えた。


「リーンッ!!」


 彼女は前方に集中している。残るわずかな全身全霊の力を直前に迫るミミックロックに向けていたのだ。だから他の方向からは無防備だった。俺は真横からリーンにぶちかましをするようにぶつかっていった。小さく軽いリーンの体はなんなく抱える事が出来た。その勢いのまま横に飛ぶ。


 かすっ!!


 横っ飛びする俺の靴先を何かが(こす)って通り過ぎていく感触。かろうじて転がりくるミミックロックを回避出来た。


 飛んだ姿勢から地面に落ち叩きつけられる。


 だが、俺もリーンもまだ死んじゃいない。


 どぼーんっ!!


 後ろから水音がした。俺達を襲ってきたミミックロックが勢い余って池に飛び込んだのだろう。


「に、逃げるぞ。二人で」


 早く立ち上がらなきゃと気ばかりが焦る。


 小さく軽いリーンだが、力無くだらんとした体を持ち上げるのは実は難儀(なんぎ)な事。俺は悪戦苦闘する。


 肩にリーンを担ぎ上げ俺の体の前にリーンの足、背中側に上半身…U字型磁石のような体勢にして逃げようとする。


「キ…、キノク…」


「ぜ、絶対に置いてったりしないからな」


 そう言って一歩目を踏み出した時だった。


「ち、違うニャ…。あれを…見るニャ…」



 リーンの言葉に後ろを振り返る。池がある。昨日、リーンが魚を釣ろうとしたが大きいものがいなかったと諦めた池。その池が波立っている。


 水を入れた(たらい)を揺らしたように水面に不規則な揺れが立つ。さらには水面に浮かんでくるボコボコと音を立てる(あぶく)


「た、多分あいつは…泳げないのニャ…」


「泳げない…?」


「…あいつは岩みたいな化け物ニャ、とても重いから水に沈んでしまったんじゃないかニャ」


「お、溺れてるって事か?」


「ニャ」


 ごぼっ!!


 一際(ひときわ)大きな(あぶく)水面(みなも)に上がった。それはまるで肺に最後まで残った息を吐き出したように思えた。息苦しさに池の底で暴れ立っていたであろう水面の揺れが収まっていく。


「あいつは大きくなり過ぎたのニャ、力は有るけどあれだけ大きな体を支えるには細い手足じゃ足りないのニャ。だから飛び跳ねて池の中から脱出も出来ニャい…」


 水面の揺れが…なくなった。


「やったか?」


「それは言わない方が良いニャ…。冒険者あるあるだニャ」


 どうやら異世界でも『やったか?』はNGワードであるらしい。ゆっくりとリーンが担いだ俺の肩から下り、横に並んだ。立ってるだけで辛いであろう彼女を支える。


「あ…」


 ぷかあ…。


 水面に巨大なミミックロックが浮いた。


「やっつけた…みたいニャね」


「それは分かるけどさ…。岩が…浮くの?」


 俺は思った事を口にする。


「ミミックロックは岩に擬態(ぎたい)する生き物ニャ。岩みたいに重くなるスキル持ちなんニャろうね。だからスキルが発動出来なくなれば…」


「なるほど、死んだら重さもなくなるって事か…」


 質量保存の法則とか完全に無視なんだな、そんな事を思いながら危機を脱した事に安堵するのだった。






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[一言] 自力でスキルを解除したら泳げたのかも知れないのか……
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