第136話 相性最高のダンジョン(1) 補給
なんか書いてるうちにジレイを気に入ってきてしまった。
最初はざまあ対象にしようと思ってたんだけどなあ…。
俺達がやってきた遺跡は前情報に違わず古代都市のようなところが土砂に埋まったもののようだ。もしかすると大きな建物、城のような場所なのかもしれない。
「ねぇねぇ、キノク〜?」
「どうした、リーン?」
遺跡に潜りしばらく活動した頃、リーンが話しかけてきた。幸いにしてまだ敵との出会いはない。
「ボク、なんだかお腹すいてきたのニャ」
「そういや、そうだな。アンフルー、スフィア、メシを食いに一度部屋に戻るか?」
「ん」
「はい」
そんな訳で部屋に戻るとRGNが出迎えた。
「おかえりなさいっ。休憩ですかっ!?」
「ああ、それとメシを食いにな」
「分かりましたっ。予定通りサンドイッチをすぐにお持ちしますねっ」
俺達はちゃぶ台を囲んで食事を始める。
「マスター、遺跡とはどんな所でしたかっ?」
「ん〜、そうだな。何かの建物…、城みたいなものが土砂に埋まっているような印象を受けたな。みんなはどう思う?」
「ん。ニ、三百年前の建築技術のような印象」
「わたくしの印象では王侯貴族が住むような城ではなく、防衛の為のいわば城塞のような印象を受けましたわ。城にしてはあまりに実用的過ぎますわ、悪く言えばあまりに無骨な…」
「城塞?いわゆる砦って事か…?」
「はい。城とは防衛の最終拠点ですが、同時に生活の場でもあります。また、人を出迎える時もあります。訪れた者が後に敵に回ることも考えられますのでいかに手の内全てを見せずに難攻不落であるかを印象付けると共に格調高さも見せつける…、そんな必要があるのです。ですが、ここには人を出迎えるというような意図が見受けられません。ただ守る、そんな感じですわ」
「あ〜、なるほどな」
俺は異世界に来てから二回ほど城の中を見た事がある。一度目はこの世界に召喚された皇城で、二度目はゴルヴィエル公爵領…。一度目は客と言うより呼びつけられ、すぐさま追い出された感じだったし周りを見る余裕は無かったからせいぜい薄暗い中で見る石の床や壁がやたら冷たい印象を受けたのを覚えている。
ゴルヴィエル領ではなんというか…、建築様式は違うのだが防衛という観点からは日本の城と似たような印象を受けたものもあった。俺がそんな事を思い出していた。
「マスター、わたしも遺跡を見に行っても良いですかっ?」
RGNはどうやら遺跡に興味があるようだ。
「今のところ敵とは出会してはいないが…。そうだな、敵がいないのを確認できたら呼ぶからRGNはそれまで留守を守ってくれ」
「はいっ」
「食べ終わったら小休止、川止めが解除されるまで十日はかかると言ってたしな、焦る必要はない」
「そうニャね。キノクのおかげで水もごはんも寝る所も確保されてるのニャ!」
「明日にはまた新しい食材も届く。魚も果物も肉も来る」
「ニャ!お魚ッ!」
「生の食材じゃなければ…、例えばジャムとかなら決まった日じゃなくても届くから追加補給も可能だ」
「こんな遺跡の中で…。改めてキノクの能力はとんでもない」
アンフルーが久々に真面目な顔をして言った。
「まあ、そのへんは俺に与えられた能力だしな…。まあ、とりあえず休むぞ」
俺達は思い思いに体を休める事にした。
……………。
………。
…。
キノク達が休憩をしているその頃…。
宿場町ラーフォンタヌ東の遺跡の中には十組以上の冒険者パーティが探索をしていた。なにしろ新発見の遺跡だ、手付かずのお宝が眠っているのではないか…そんな期待がある。
「チッ、ダメか。この井戸、枯れてやがる」
遺跡の一角で見つけた井戸、そこに水を補給しようとした冒険者の男が吐き捨てるように言った。諦め切れないのかもう一度確かめようと男は井戸の側にある小石を掴み井戸の中に落とす。
………こつーん、からから…。
小石が地面に落ち地面を転がる音…、やはり水は無いようだ。
「水の補給は無理のようだな、モブラス。仕方ない、手持ちの水も少ないし一度外に出て水を確保するぞ」
「で、でもよう!モブリーダ…」
「分かってるさ、他の奴らに先を越されたくないんだろう?俺だって同じ気持ちだ。だが他の奴らも水が尽きれば戻る」
「う…」
「ここまでの道のりは無駄じゃねえ。次は無駄足なくここまで来れる、水の残りも今回より多くあるだろう。今は戻る、一刻も早く補給して探索を再開するぞ」
「チッ、新発見の遺跡だからか妙に緊張しちまったか…。やたら水やら食料を使っちまう…」
そう言って戻っていくパーティもあれば、逆にここが踏ん張り所と探索続行をする者達もいたが結果は空振り。へとへとになりながら地上に戻っていく。
それを眺める冒険者パーティが一組。
「やはり学習した通りだねえ」
そのパーティの先頭に立つ男が口を開いた。
「遺跡での探索や戦闘時には体にも精神にも思わぬ負担がかかるんだよキミィィ?」
「はっ!ジレイ様」
近くにいたパーティメンバーが応じる。
「体を動かしている時以外にも常に周囲の警戒などやるべき事はたくさんある。当然、精神も張り詰めている。体には思わぬ負担がかかってくるんだよ、そのぶん体は水も食料も多めに欲する。その為に僕は戦力だけでなく補給の大事さも考えて荷運び役に三人も募ったのだよ」
「さすがであります!ジレイ様」
「ははは!よしてくれたまえよ、キミィ?補給を切らさない、これは軍学の基礎中の基礎だよ。まあ、こんなやりとりの端々(はしばし)から僕の溢れ出る教養と才覚が滲み出てしまうんだろうねえ」
探索が思い通りにいっているのが心地良いらしくジレイは得意満面である。
「よし、僕達はいったんここで休息にしよう。英気を養い常に最良の状態で探索をするんだ。僕は名門学院の首席、手抜かりは無いよ!」
そう言ってジレイは周囲の警戒を交代しながら休息を取るのだった。