第135話 ダンジョンへ
翌日…。
「ここか…」
「そうみたいニャね」
宿場町ラーフォンタヌから東に伸びる森林、そのさらに奥に行くと遺跡の入り口があった。辺りには冒険者と思しき者達がチラホラと、武装も種族も様々だ。まあ、武装を統一している正規の軍ではないのだからそれも当たり前か。
少し傾斜がある地表部分が雨で流され遺跡の入り口は姿を現したようだ。その傾斜の先は山、もしかするとその山からなんらかの理由で土砂が広範囲に渡って流れ今は遺跡となっているこの場所を飲み込んだのかもしれない。あるいは溶岩か…。いずれにせよ調べる手段を持たない俺は可能性だけを頭に浮かべたがそれを言葉にする事なく俺は遺跡入り口に近づいていった。
「来られましたね、お嬢さん方!!」
そんな俺達に声をかけてきた男がいた。
「お前、何してんだ?こんな所で」
昨日、冒険者ギルドで俺達に声をかけてきたジレイ・ホワイトバードである。
「ふ、ふ、ふ、知りたいか。知りたいのかねェッ、キミィ!?」
左手は腰に当て、前髪を右手でかき上げながらジレイは恍惚とした表情で俺達に相対する。こりゃ、あれだな…ナルシストというやつだろうか。それにしてもあの前髪をかき上げる右手、ちょっと高さを低くして牛乳ビンを持たせたら銭湯にいそうな中年のオッサンだな。まあ、ジレイという奴は若そうだ。もっとも日本人である俺には地球で言うところの西洋人そのものな感じがするコイツの年齢はよく分からないが…。
「いや、全然。それじゃあな」
一応聞いたが、長くなりそうなので会話を切り上げる事にした。
「待ちたまえェェイッ!!」
ジレイが叫ぶ。
「まったく、この僕が話しかけたというのにッ!それよりも、キミはそんな軽装で遺跡に潜ろうと言うのかね!そちらのお嬢さん方と」
俺達五人をぐるりと見回しジレイは言葉を続けた。
「そのつもりだが」
「いや、なんとも嘆かわしい!それではいざと言う時に困るではないか!見たところキミ達五人は軽装だ、荷物もそんなに持っていない。それではまるで街の近隣で日帰りの依頼…、例えば薬草採取やちょっとした狩猟や討伐に行くくらいの感覚ではないか!」
「まあ、確かに。そんなところだな」
俺達はこの遺跡とやらに川止めが解除されるまでの暇つぶしがてら来ているに過ぎない。いわゆる遺跡…、ぶっちゃけて言えばダンジョンか?そのダンジョン攻略ガチ勢として来ている訳ではない。それゆえ俺達は各自離れ離れになったとしてもただちに飢えや渇きに苦しまなくても良い程度の水と食料を持っているに過ぎない。
「それじゃいかんのだよ、キミィ。備えが少なすぎる、それでは万が一の時に飢えや渇きなどにお嬢さん方が苦しむことになるのをなぜ想像できない」
「何が言いたいんだ?…って言うか、お前もかなりの軽装じゃないか」
ウザい奴だがコイツはプルチン達とは違い悪意は無さそうだから俺はとりあえず話を聞いてやる事にした。それとなんだかんだ言って『お前』呼ばわりしてもコイツは話に応じている、たしか子爵家の跡取りとか言ってたしな。日本で言えば一万から数万石くらいの大名の嫡男という感覚だ、それが名も知らぬ俺と普通に話しているんだから悪い奴ではないようだ。
「ふ、ふ、ふ、そこらへんは抜かり無いよキミィ。その秘密、知りたいだろう?知りたいよね、キミィィッ!?」
「あ〜、やっぱ良いや。んじゃ、互いに生きて帰ろうぜ。それじゃな」
「待ちたまえェェイッ!!」
ハアハアと荒い息を吐きながらジレイが俺に追いすがる。コイツはどんだけ全力で会話してんだ?
「キミという男は…。まあ良い、見せてやろう僕の戦略を!出ませいっ!!」
するとゾロゾロと男達がジレイの後に現れた。その数、ジレイを含めて総勢十人。その陣容はジレイを含めて七人がしっかりとした武装をし、残る三人は薄手の革鎧に短剣程度を身につけており背には大きな荷袋を背負っている。
「見たまえ!戦力は勿論、補給も考えての人員をッ!およそ戦というものは補給が切れた方の負けなのだ!予備の武器、食料、水、そして薬品ッ!さらには毛布だけだが寝具までしっかり準備する事こそ肝要だ!」
「お、たしかにその通り」
「だろう!?備える事の大事さを分かっているじゃないかキミィ!だとすれば、そんな備えも手薄なその様子で遺跡に潜ろうと言うのか。それではお嬢さん方に不便を…、いやこれは失言か。これらを揃えるには金がかかるからねえ」
言わずとも良いよ、分かっているさとばかりにジレイが頷いている。
「どうだろうお嬢さん方、その男とは袂を分かち僕についてきたまえ!」
「キノク〜、ボク早く遺跡に行って体を動かしたいニャ〜」
「私は遺跡でも良いし、オフトゥンの中で体を動かしても良い」
「わたくしもキノクさまがお望みでしたら…」
「わ、わたしはマスターについていきますっ!」
「誰もお前についていく気はないみたいだな。じゃ、そういう事で。よし、みんな少し休んだら遺跡に入るぞ。…アンフルー、頼む」
「ん、インビジビリティ(姿隠し)」
「き、消えた!?魔法か?お、おい!どこだ!どこに行った。話はまだ終わっていないぞ、キミィィッ!!?」
ジレイは辺りをキョロキョロと見回しているがそれで俺達が見えるはずもない。そして俺達は小休止の為に部屋へと戻る事にする。
「くっ、まあ良い!それなら僕はこの遺跡を攻略させてもらうとするよ。この子爵家に生まれ、学院でも優秀な成績を修めた僕にかかればこんな遺跡のひとつふたつ…。お嬢さん方、よく見ていてくれたまえ!僕の優雅かつ華々しい活躍を!」
ジレイが熱くひとり語りをしているのを尻目に俺達は万全の態勢で臨むべく部屋に戻るのだった。
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次回予告。
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遺跡に潜るキノク達。
次回、『相性最高のダンジョン』。
お楽しみに。