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第132話 閑話 あの子爵は今(ざまあ回)


 開け放たれたままの扉から部屋の主がズカズカと入ってきた。不機嫌さがその足音からも容易に察せられる。その主は不機嫌さを隠そうともせずにドッカリと椅子に座った。


「どうなっておる?この有様はッ!!」


 屋敷の主…、ミロベローチェ子爵は怒りを隠そうともせず大きな声で吐き捨てた。本来なら自室の扉が開け放たれたままであるという事はない。しかし、子爵自慢の扉の取手(とって)が消えてしまったのだ。それゆえ扉の開け閉めが困難になり今は開け放ったままにしている、黄金を使ったデザインにもこだわった取手であったのに…。


 不機嫌の理由はまだある、執務をする机の上にあったわざわざ作らせた翡翠(ひすい)文鎮(ペーパーウェイト)が数日前に忽然(こつぜん)と消えたのである。さらに怒りを掻き立てるのが屋敷内の金目の物が全て消え失せたのである。


「現金も、旅人用宝石(トラベラーズストーン)も…」


 金目の物も金銭も消え子爵家の懐事情は火の車という言葉も生やさしい。なにせ一文無しの借金持ち、にっちもさっちもいかないのだ。ハッキリ言って屋敷内にある備蓄してある食料を食い尽くせばその瞬間から飢えとの戦いである。


 その急場を凌ぐ為に金銭や物資を徴発(ちょうはつ)しようにもミロベローチェ子爵は領地持ちではなく宮仕えの貴族でる。それゆえに領民はおらず俸給が収入源だ。その次に入ってくる俸給さえも借金のカタに押さえられていて自分の手には入ってこない。それゆえ当座の資金に困り借金に借金を重ねる。そんな状況なら金目の物の一つでも売り借金を減らせば良いのだがそれをしない、逆に高貴な貴族の方には相応しいと華美な品物を勧められるがまま買う始末。帝都に住まう商人により子爵家は常に借金浸けであったのだ。


 もっともこのミロベローチェ子爵家だけがそんな悪循環に陥っていた訳ではない。どこの貴族家も多かれ少なかれ借金をしていた。金を貸す商人からすれば一定期間毎に金が降りてくる逃げる事のない上客である。そこに帝都で商売する上で使える便宜の一つでも…となれば商人側としては万々歳。別に借金の額を減らす訳ではない。返済を待つとか利子を軽くする程度で言う事を聞かせられるなら遥かに利は大きいのだ。


彼奴(きゃつ)はどうしておる?」


 不意にミロベローチェ子爵が執事に問うた。


 血こそ繋がってはいるが戯れに庶民に産ませた子、家督の継承権は無いので家から出し冒険者の真似事をさせている。名前を呼んでやるつもりはない。しかし、大成したなら話は別だ。その実績を子爵家の為に使うつもりだ、伯爵位以上の家と縁続きになれれば…、そんな有用な手札になれと考えていた。冒険者を始めさせてから二月(ふたつき)くらいは定期的に様子を探らせていた。なかなかに羽振りが良いらしいと報告を受けていた。


 同じ年頃の貴族の子らと最上位職業のみで結成したパーティで二か月そこらで稼げているなら数年後には英雄と呼ばれているのではないか…そんな考えが子爵に浮かぶ。その期待していなかった息子から少しばかりカネを回してもらうかと子爵は思い至ったというのもあり息子の近況を尋ねたのだ。


「ここ最近、…一月近く何の音信もありませぬが…」


 執務室で子爵近くに(はべ)る腹心が(こた)えた。


「むっ!?」


 子爵は期待していた答えではなかった事で思わず短い声を出したが、すぐに一つ息を吐くと少し落ち着いた様子で言葉を続けた。


「あれだけ上手くいっていると言上(ごんじょう)してきたのだからな、今もそうなのだろう。よし、使いを出せ!今、何をしているのか近況を聞いて参れ。…ふふふ、日数のかかる高難度の依頼にでも行っているのかも知れんな。だが、そういう依頼は総じて高い報酬だと聞く」


「ははっ。ただちに所属なされているアブクソム第ニ冒険者ギルドに使いを走らせまする」


「うむ、うむ。そういたせ!」


 実は冒険者ギルドは帝都アブクソムにいくつかある。冒険者とは自由であり、また様々な種族や主張の強い者などクセの強い者が集まる組織だ。ゆえにコイツは気に入らない…なんて(いさか)いはしょっちゅうであり、それゆえいくつかのギルドが存在している。プルチンが所属していたアブクソム第ニ冒険者ギルドもその一つである。


 子爵達は知らなかった。プルチンの近況を調べに行った冒険者ギルドは現在アブクソムの下水道処理を専門で行うようなギルドとなっている事。そしてプルチンはスラムに近い所で住民達の憂さ晴らしの私刑(リンチ)を毎日受けている事、さらには多額の借金を抱え未熟な実力しかない事…。


 ミロベローチェ子爵はその報告を聞くとただちにプルチンとの絶縁をした。助けても利益がないというのがその理由がある。助ける為には多額のカネが要る、しかし助けても物の役には立たない。元々遊びで作った子だ。愛情も無い、有用であれば話は別というだけだったのだから。


 そんな理由での息子との絶縁、だからと言って事態が好転する訳ではない。子爵家の窮状は変わらず、そして始まったばかりなのだ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] >金目の物の一つでも売り借金を減らせば良いのだがそれをしない あれ? 金目の物って主人公のスキルで強制徴収されんじゃないの? スキル発動時点での資産を徴収されるだけなんだろうか?
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