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第131話 旅立ち


 ずずず…。話題がひと段落してRGN(アールジーエヌ)が緑茶を飲んでいる。


「そう言えばさ…、RGN」


「はいっ!」


「RGNお前普通にお茶飲んでるよな?」


「はいっ!」


「それ、大丈夫なのか?その…、魔導人形…なんだろ」


「あっ、大丈夫です。摂取した物は魔力に変換されますから」


「そうなのか」


「いや、それはありえない」


「アンフルー?」


「魔導人形はゴーレムの一種」


 アンフルーの言葉に俺はゲームによく登場するゴーレムの姿を思い浮かべた。巨石で体が構成された人型の姿だ。


「ゴーレムはクリエイトゴーレムの魔法で創造される。術者の魔力によって生まれた人形、そもそも食事を必要としない」


 確かにゴーレムが食事をしているイメージはない。


「だからこれはありえない。それに表情も豊か、とても魔導人形とは思えない」


 それについてはまったくもって同感だ。漫画やアニメでもなければここまで表情豊かなロボットは見た事はない。


「あっ、そういえばマスター!お願いがあります」


「ん、なんだ?」


「わたしはお掃除の事は分かりますが、他の事はよく分からないんですっ」


「どういう事だ?」


「わたしはお掃除の事だけは最初から知っていたんです。でも、他の事はよく分からないんです」


「よく分からない?」


「はい、私はまだ生後三十分です。まだ何も学んでいなくて…」


 ああ、確かに…。従者(サーバント)になって三十分くらいだもんな。


「なるほど、見方を変えれば赤ちゃんも同然だ」


「なので皆さんの暮らしとか街の事とか見聞きして色々な事を覚えたいです」


「よし、じゃあ色々見聞きして知識や経験を増やしてくれ。それはそうととりあえず朝飯にしよう、食べながら話も出来るだろうからな」



 簡単な…、レトルト等を使った簡単な朝食を終えて俺はちょっとした作業を始めた。その作業をリーン達四人が手伝ってくれた。


 午後になりリーンとアンフルーと共に職人街を歩いていた。ちなみにスフィアにはRGNの教育を任せた。自室で簡単なこの世界の成り立ち、社会制度などを学ばせている。


「やっぱり職人街は活気があるニャんね。いつ来てもカンカンと音がするのニャ」


 先頭を歩くリーンが口を開いた。


「確かにな、いつ来ても何かを作る音や人の声が耐える事がないな」


「もっとも私達はなんの物音も声も気付かれてない。それこそ姿はおろか気配さえも」


 インビジビリティ(姿隠し)の魔法を使っているアンフルーが応じた。


「嫌でも目立ったろうからな。宝石を売り冒険者ギルドでも賠償金を得て金が入った事は噂にもなってそうだからな。不心得者が狙ってくる事は容易に予想出来る」


「それを考えたら姿を隠して歩くのは正解。簡単にやられる事はないだろうけど(わずら)わしいのは勘弁」


 そんなやりとりをしながら木工職人ケイウン・ブッシの家に着いた。アンフルーが魔法を解除する。


「あっ、キノクのお兄ちゃん!待ってて、お爺ちゃん呼んでくる」」


 アリッサが俺達を出迎え、祖父を呼びに家の奥に駆けていく。


「おう、お前さんか。今日はどうした?」


「実は…」


 俺はケイウンにアブクソムを離れる事を伝えた。


「ええっ、お兄ちゃん!街を出て行くの?」


「まあ…そうだろうなァ…」


 アリッサは驚き、ケイウンが感慨深げに呟いた。


「冒険者ギルドを一個、ペシャンってやったんだ。そりゃあ目立つぜぇ、他にも景気良く稼いでるし凄腕の薬師か錬金術士か?そりゃあ人が寄ってくる、良いのも悪いのも…」


「そうなんだよ。だから街を出る良い機会かと思ってな。のんびりボンリスに向かうつもりだ」


「戻って…来るのか?」


「分からん。それに戻るにしてもそれまで長いか短いか…それはなんとも言えない」


「そうか…」


「ケイウン、アンタにゃ世話になったからな。一つ挨拶をしときたくてな。それと、これを渡しとく」


「こりゃあ…?」


 木箱にたくさん小さな紙包みを入れた物を取り出した。


「薬か…?」


「ああ。在庫さ、薬箱を売るにしても中身が無いんじゃ困るだろう?それとこの赤い色付きのは水に溶かして使ってくれ。ポーションになるから」


 他の薬と間違わないように俺は色付きのルーズリーフを小さく切り粉薬を包んでいた。


「分かった、気ィ使わせたな。旅立ち前に…忙しかったろうに」


「いや、良いんだ」


「いつでも良い、戻って来たなら必ず顔を出すんだぜ?」


「そうさせてもらうよ」


「あまり待たせるんじゃねえぜ。こちとら孫持つ年寄りだ、長くはねえかも知れねえぞ?」


「言ってらァ…。飲み過ぎなきゃアンタの心臓は長持ちするさ…」


 がしっ!!


 ケイウンが俺の両肩に手を置いた。…


「行ってきなァ…。商売やんなら帝都(ここ)よりボンリスのが盛んだぜぇ、俺ぁ、アンタが大成功して店でも持ったら俺の作ったモンを融通してやっからよォォ」


 言葉尻が震えている。


「腕の良い職人の品か…、そいつは…そいつは良いな…」


 この異世界に来てから嫌な事しか無かった。


 だが、パーティと冒険者ギルドを追放され運命が変わった。リーンに出会い、アンフルーに出会い色々と好転し始めた、ケイウンもまたその出会いの一つだ。良かったな、楽しかったなと思える出会い…。


 帰り際に甘いものが好きなアリッサに金平糖を渡した、いつか…またな…そんな言葉を残して俺達はケイウンの家を後にした。


 夕暮れ前に帝都を出よう。 


 明日になれば決心が鈍るかも知れない。


 街にいなくても俺はスキルによって自室で寝泊り出来る、だから…。


「このまま行こうか、リーン、アンフルー」


 俺は二人の相棒に声をかけた。


「ボクはキノクといつでも一緒ニャ!」

「私も…」


 あ…、スフィアに聞いてないや。


「スフィアも同じ気持ち…」

「そうだニャ!ケイウンの所に行くと聞いた時からこうなる気がしてたからあらかじめ聞いておいたのニャ」


 いつの間に…?


「心配いらないんだニャ!みんなキノクと一緒にいたいのニャ!スフィアもあーるじーえぬも!」


 リーンの発音が妙だ。まあ、地球の言葉は微妙に発音が難しいらしいから仕方ないのかも知れない。


「もうすぐ外門ニャ」


「ちょっと待っててくれ」


 俺は自室に戻りスフィアとRGNを連れて戻った。


「旅立ちだ、俺達の。だから門を出るのは五人全員一緒にだ」


 入ってくる者にはそれなりにチェック体制がある外門だが、騒動を起こしたお尋ね者がいるタイミングでなければ出る者に対しては甘い所がある。俺達はすんなりと通された。


「街を出る一歩目はみんな同時にぴょーんと跳ぼうニャ!」


 リーンの提案に応じて全員がせーのとばかりに同時に跳んだ。


 すぐに着地した俺とリーンとスフィアの三人と着地を失敗し『はわわわ』と口にして転んだ一人…だが地面には接していない。地面ギリギリの所で浮いている。


 ふわり…。


 レピテーション(魔法)を使ったのだろう、おかげでRGNは倒れずにすんでいる。そして魔法の効果は術者本人であるアンフルーにも…、ゆっくりと宙を舞い数歩先に着地したアンフルー。


 俺がRGNを助け起こしているとアンフルーが口を開いた。


「ふふ、一番遠くまで跳んだ者は今夜キノクと子作り出来ると聞いた。私が一番」


 視線の先のアンフルーが微かに笑って言った。


「ニャ、ニャんだって〜!!」

「き、聞いてませんわよ、アンフルーさん!それならわたくしも本気で跳びましたのに!断固、やり直しを要求しますわ!」

「はわわわわ、落ちる〜!!」


「なあ…、せっかく良い雰囲気で旅立ちしたかったのに君達のおかげでなんかいろいろ台無しなんだが…」


 だけど、まあ…。この四人といれば退屈はしないだろう…、そう思うと俺は少しだけ感傷的だった気分が解消されていくのを感じていた。

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