第130話 従者(サーバント)のお仕事
コポコポコポ…、コトッ…。
俺はちゃぶ台に急須を置いた。
ちゃぶ台の上には今淹れたばかりの湯気を立てる緑茶入りの湯飲みが二つ、同じく湯気を立てる紅茶の入ったティーカップが二つ。そしてオレンジジュースの入ったガラスのコップが一つ。
そのちゃぶ台を囲んで時計周りに俺→謎の少女→アンフルー→スフィア→リーンの順に座っている。つまり俺の右隣は謎の少女、左隣はリーンという事になる。
「ねえねえ、ボクはリーンっていうのニャ。キミの名前はなんていうのニャ?」
「はっ、はい。わ、わ、わ、わたし…、わたし…」
いよいよ謎の少女の名前が…、俺達はグッと身を乗り出す。
「名前は…ありません」
「「「「へ?」」」」
「な、無いんです。わたしはあくまで魔導人形なので…。型式RGN、…それがわたしです」
「形式って…、それはあくまで魔導人形の中での種別だろう?おそらくだが、魔導人形の中のRGNという型式っていう…」
「けいしき?しゅべつ?ねぇねぇ、キノク〜?それはなんニャ?」
リーンが俺の膝の上に乗りながら尋ねてきた。
「うーん、そうだな…。例えば俺達は人類だろう?リーンも俺も、アンフルーもスフィアも」
この異世界では人間以外にも獣人族やエルフ族など様々な種族が存在する。その為、人型の姿形をしていると基本的には人類と呼ばれる。
「ニャ。ボクも人類の一員、その中の猫獣人ニャ!」
「アンフルーはエルフ、俺とスフィアは人間、それぞれ別々の種族という事になるな」
「うん」
「今、RGNと名乗った彼女(?)だが俺達に当てはめて言うと、俺達が人類っていう枠組なら彼女は魔導人形。その魔導人形の中のRGNっていう種類、つまり俺なら人類の中の人間…って事になる」
「ニャ!?それじゃ名前じゃないのニャ!」
「名前といえば名前なんだがな、名詞って感じで。固有の名詞でないだけで…」
「でも、それじゃボクが猫獣人って言ってるようなものニャ。猫獣人なら他にもいっぱいいるのニャ!」
「そうだな、だからそれぞれ個別の名前をつけるんだよ。他の人や物と区別する為に」
「それニャらっ!!」
「簡単につけるものじゃないぞ、名前は」
「ニャ…」
「とりあえず話題を変えよう。ええと…、RGN?」
「はいっ」
良い返事だ。
「RGNは従者って事だけどさ、どういった存在なんだ?」
「わたしはマスターに誠心誠意お仕えする従者ですっ!」
グッと拳を握り力強く語るRGN。
「従者って一口に言っても誰かに仕える人を従者と言うなら兵士もそうだし宰相もそうだ。何か得意な事とかあるのか?」
「あっ、はいっ!お掃除が得意ですっ!」
「お、お掃除?」
「はいっ!」
「…と、という事は家事をする感じなのか?」
「はい!一生懸命頑張ります。よろしくお願いします。マスター!」
…マジか。2750万ゼニーで得た従者召喚のスキル、いわゆる家政婦さんを雇う為のものだったんだろうか…。
そんな俺の思惑を他所にRGNは長い前髪に完全に隠れた目で真っ直ぐに俺を見つめていた。前髪に隠れているから分からないが…、おそらくは…。