第128話 帝都を離れる事にした
第7章はダンジョン編。バトル多めの章です。
新キャラと共にお楽しみ下さい。
プルチン達との因縁に決着を付けた俺はリーン達と共に冒険者ギルドを後にして自室へと戻った。明日、奴らからの慰謝料を肩代わりした体でシェドバーンから12億ずつ三組、36億ゼニーの足りなかった分が俺に入ってくる事になった。前祝いではないがその晩は豪勢な夕食にした。
プルチン達の行き先はリーン達には話していない。殴られ屋や娼館、聞けば眉を顰めるかも知れないと思ったのもある。だからシェドバーン商会に丸投げしたというのが本音でもある。
翌日、シェドバーン商会を初めて訪れると俺達はすぐに奥に通された。有象無象の冒険者達とギルドの支払い分、さらにはプルチン達の支払えなかった残りの額を受け取る。1ゼニーの間違いも無い正確な支払いだった。
「あんさん、これからどないするんや?」
旅人用宝石と1ゼニー単位の端金を合わせて支払われたものを収めているとシェドバーンが問いかけてきた。
「ん。どうする…とは?」
受け取った物をアンフルーに渡し彼女が俺の部屋に転送したのを横目で確認しながら俺はシェドバーンの言葉に応じた。
「あんさん達の事やがな。こう言っちゃなんやけどあんさん達かなり目立ってきたんとちゃうか?ギルドと激しくやり合うたし、貴族の子女をイわしたやろ?それに…」
シェドバーンは声を潜める。
「銭を得たやろ?36億、大金やで。あんさん達からいっちょ盗ったろか、そない思うド阿呆ゥがおっても不思議やないやろ?どこで恨み妬み買うとるか分からんで」
確かにそれはあり得る話だ。
「考えていない訳じゃないんだが…」
俺は一つ前置きした。
「そう水を向けてきたからには何か勧めたい話があるんじゃないのか?」
シェドバーンは我が意を得たりとばかりにおうっと一声洩らすと話し始めた。
「それやがな!あんさん、良かったら交易都市ボンリスに来てみまへんか?」
□
シェドバーン商会から自宅に戻ると俺達はのんびりとする事にした。金は手に入った、浪費せずに普通に暮らせばしばらくは…いや一生働かなくても良いくらいの金が入ってきた。少なくともこれからの事を話すには十分な額である。
「これは羽毛の布団ですわね」
新しく購入した布団の手触りを確かめながらスフィアが言った。自室に戻り通販で買った布団が宅配ロッカーに届いていた事に気づいたので早速取り出したのだ。
「新しいオフトゥンは柔らかくてフワフワだニャ〜!」
リーンも同じように感触を確かめている。
「一つの布団に四人で寝るのはさすがに窮屈だからな。一組買ってみたんだ」
「オフトゥン…」
ぽて…。アンフルーが羽毛布団に倒れ込む。しかし首を傾げながらすぐに身を起こした。
「…なんか違う」
「分かるニャ〜。ボクも前から使ってるオフトゥンが良いのニャ」
「どうしてだ?新しい布団の方が気持ち良いだろう」
「分かってないのニャ、キノクは。こっちの馴染んだオフトゥンからはキノクのニオイがするのニャ。それがボクにはたまらなく安心できるニオイなのニャ」
「染み込んだキノクエッセンス…はあはあ」
うーむ、なんでこの二人はちょっと変態チックなんだろうか。
「お二人とも、案ずるには及びません」
「お、どうしたんだスフィア?」
「これからこの新しい布団にキノクさま…、そしてわたくし達のニオイと思い出を染み込ませていけば良いのですわ…、ああっ!そんなっ、いけませんわキノクさま」
スフィアがどこか遠くの世界に逝ってしまった。
「お前もかなりのもんだな」
俺は軽く溜息を吐きながら言った。
「ところでキノク〜。商会での話、どうするニャ?どうするニャ?」
胡座をかいて座る俺の膝の上にじゃれつきながらリーンが問いかけてきた。
「ああ、ボンリスに行く話か?」
ボンリスはゴルヴィエル公爵領のはるか北に位置する自治都市である。外海と接し世界各地から産物が集まる交易都市だ。広い湾の周りを囲むように硬い岩盤層が隆起して天然の防波堤となり、湾の中は時化の時でも穏やか。魚もよく漁れるこの辺りでは屈指の良港である。
その為、古くから船による交易の拠点として栄えた。しかし、同時にそれは争いの種にもなる。天下取りの野心を持つ者にとってボンリスを押さえる事、それすなわち富と物資を牛耳る事に他ならない。また海路の要衝を押さえ外海への進出を可能とするのだ。支配者達は当然このボンリスを巡って争奪戦を繰り広げた。
そうなると巻き込まれるのはこの地の民である。時の権力によって良い様にされるのをボンリスの民は望まない。いつしかボンリスの民は支配者不在のタイミングをついて自治独立を果たす。それを為す事が出来たのは経済力によるところが大きい、ボンリスで得られる富で傭兵を雇い武器を揃え一切の支配を打ち払ったのだ。それ以来ボンリスは有力商人達の合議制を敷くようになった、日本における戦国時代の堺のようになったのである。
「そうニャ。出来たらボク、行ってみたいのニャ」
「もしかして…海の魚目当てか?」
「ニャッ!?ニャハハハッ!そ、そんな事、…あるニャ」
「正直者め」
俺はリーンの頭を撫でた。
「でも、それが良いかも知れないな。しばらく帝都を離れるというのも…。アンフルーとスフィアはどうだ?」
残る二人に問う。
「ん、問題ない」
「わたくしがいる場所、それはキノクさまのお側に他なりませんわ」
アンフルーとスフィアが応じた。
「よし、じゃあ行ってみるか。そのボンリスというところに」
「ニャー!!」
喜びでリーンが抱きついてくる。俺はそんなリーンを受け止めた。リーンだけじゃない、アンフルーもスフィアもだ。
「いつものオフトゥンに新しいオフトゥンをくっつけて…」
「こうすればゆったりと寝る事ができますわ!」
「ま、待て待て!そんなまだ日の高いうちから…」
「問題ない、そのうち夜になる」
「さすがアンフルーさん、その通りですわ!」
「ボクら猫獣人族、お昼寝も大好きなのニャ」
女三人の強固なスクラムに押し切られ俺は布団にフォールされた。スリーカウントどころじゃない。まあ、無理やりにでも…という訳ではないから悪い気がする訳ではない。
「分かった、分かった。新しい布団も使って皆でくつろぐとしよう」
そう言って俺はとりあえず昼寝する事を提案した。
……………。
………。
…。
その日の夜…。
リーン達は眠っている。俺は畳の上に直置きしたノートパソコンの電源を入れた。そして慰謝料として得た旅人用宝石を現金に両替する。商業ギルドなどでは二割の手数料を引かれる現金化、俺はそれをせずに本来価格で現金化出来る。その額35億ゼニー余り。
現金を得た事で一気にレベルアップをした。
『レベル60に到達。汝に購入可能品を追加せん』
あっ、一人二役と思しきナビシスさん、チワース!!
『………』
ナビシス(仮)が黙りこんでしまったので俺は仕方なくパソコンの画面に目をやった。そこに購入可能なものとして表示されていたのは…。
「従者召喚、型式RGN…?」
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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新たな能力、召喚…。
RGNとは?そして召喚の為に必要な作業とは…?
そして召喚に必要だからとなぜか歌い始めたアンフルー。
次回、第129話。
『呼び出せ、キノクのサーバント』
お楽しみに。