第14話 リーンの激闘。
「キノク〜、別に倒してしまっでも構わなニャいのだろう?」
リーンがわざわざ言い直してミミックロックを指差した。
「リーン…、そのセリフはちょっと…」
「一度言ってみたかったのニャ」
こちらに背を向けたままリーンは言葉を返してきた。
「コイツはボクみたいに物理攻撃しか出来ニャい者には天敵ニャ。動きはトロいけど、とにかく硬くて力がある。なかなかの前衛泣かせなのニャ」
「じゃ、じゃあ逃げた方が良いんじゃ…?」
「普段ならそうするニャ」
「え!?」
「冒険者は与えられた依頼を達成すれば良いのニャ。例えば珍しい薬草を取ってこいというならそれだけすれば良いのニャ。だから、避けられる戦いは避けるのニャ…」
「じゃ、じゃあ…」
「でもね、キノク。今ボクは戦ってみたいのニャ!キノクがくれた湧水を飲んでから妙に体が軽いのニャ。見せてやるニャ、湧き上がってくるようなボクの筋力を!!手に入れた…、ボクは今…究極の力を手に入れたニャあああああッ!!」
だっ!!
リーンがミミックロックに向かって走る!速いッ!そして超低空ドロップキック!!
ドンッ!
ゴム毬を蹴ったかのようにミミックロックが吹っ飛ぶ。しかし、敵もさるもの。いつの間にか生やした両手両足を使って着地、そして次の瞬間には高く跳んだ!
「リーンッ!来るぞッ!」
お返しだとばかりにミミックロックが飛びかかってくる。
ぺしんッ!
なんとリーンは飛びかかってきたミミックロックをネコパンチのようなビンタで叩き落とした。
ずずんッ!!重い音を立ててミミックロックが地面に落ちる。
「えっ!?」
が、岩石だぞッ!それをゴム毬を叩くみたいに…。
「やっぱりニャ…」
リーンはぼそりと呟いた。再びミミックロックが飛びかかってくる。
「リーンッ!また来るぞッ!」
ぺしんッ!ずずんッ!!
ぺしんッ!ずずんッ!!
ミミックロックが飛びかかってはリーンがそれを叩き落とし、また飛びかかっては叩き落としという攻防が数回繰り返され、しばらくすると飛びかかってきたミミックロックに対しリーンは渾身の拳打を繰り出した。
「ふニャーッッッ!!」
バチィッ!!
その渾身の一撃はミミックロックを遠くまで弾き飛ばした。
「す、凄いぞ!リーン!」
俺は歓喜の声を上げた。
「…駄目ニャ」
「えっ!!?」
「イタタタ〜だニャ」
リーンはミミックロックを殴りつけた拳を撫で摩っている。
「なんて硬いのニャ!!確かにボクの身体能力は上がったけどボク自身の力だけじゃ倒しきる事は出来なそうニャ。…ミミックロック、その硬さはボクの想像を超えていたニャ」
悔しそうにリーンが呟く。
………ずしんッ。……ずしんッ!…ずしんッ!!ずしんッ!!!
殴り飛ばしたミミックロックが跳躍しながらやってくる。
「…………!!!」
.
そのミミックロックはリーンの前にやってくるとその動きを止めた。声こそ発しないが岩の表面に浮かび上がった顔…、それがリーンを睨みつける。
「互いに決め手にかけるニャんね。お前の攻撃はボクが払いのける事が出来る。そしてボクの身体能力では硬すぎるお前には通用しない…」
ぶるぶるぶるっ!!
ミミックロックが全身を震わせ始めた。
「どうしても…、やる気なんニャね…」
ぽーん!
ミミックロックはその場で垂直に大きく跳ねた。そして着地するとその反動を利してさらに高く跳ね上がった。より高く跳躍する事で自重を使った一撃の威力を増そうというのだろう。
「そうだろうニャ。そうするだろうと思っていたニャんよ」
そう呟くとリーンは避けようともしない。
「リーンッ!!」
「大丈夫ニャ」
そう言うとリーンはその場で軽く跳躍、体を丸め背中と両手で地面に着地し両足の裏を空に向ける。そこでミミックロックを受け止める。
ぐぐぐ…。
両足で受け止めた衝撃を膝を曲げて吸収するリーン。そして気合の声を吐き出した!
「フシャアアッッッッッ!!」
リーンの大地に着いた背中、肩、両手の平、それで自分とミミックロックの重さを全て支える。そしてスプリングのように曲がった両膝を伸ばしミミックロックを上空高く蹴り上げる。
間髪入れずリーンもミミックロックを追って跳躍する。宙に舞う両者はマンションの三階…いや四階くらいの高さくらいに到達している。空中でリーンはミミックロックの背後を取った。
「確かにボクの身体能力だけじゃお前を倒せないニャ…。だけど、他の力を借りれば…」
がしっ!!がしっ!!
ミミックロックの身体から生え出している両手両足をリーンは器用に自らの両手両足を使って捕捉する。
「この高さからの落下!お前の重さ!そしてボクの重さも加えて…!」
落下を始める。落下の…、等加速度直線運動はここ異世界でも健在だ。グングンとその速さを増していく。
「そしてこの大岩にぶつければ!!」
なんと言う偶然か、そこには平屋建てくらいの大岩があった。
ゴガアアァァァァンッッッッ!!
狙い過たず顔が浮き出ている部分を下にしてリーンはミミックロックを大岩に激しく激突させる。俺の全身にその激突音がビリビリと感じられる。その衝撃の大きさが感じ取れた。
ぐらり…。
ミミックロックを掴んでいたリーンの両手が離れると力無くその身体が投げ出される。力を使い果たしたのか、それとも落下の衝撃がリーンの体にも伝わりダメージとなったのか、…あるいはその両方か。いずれにせよリーンは大岩の上から落下する。
「リーンッ!」
反射的に身体が動いていた。リーンの落下地点に走る。受け止めようとするが慣れない動作の為に勝手がよく分からない。受け止めはしたものの俺もそのまま倒れ込む。しかし、不格好ながらリーンが地面に叩きつけられるのは防げたようだ。
「キノク…。もう少し体を鍛えた方が良いニャ…。ボクは小柄で…軽いニャんよ…。それを満足に受け止められニャいんじゃ…」
「次からは…そうするよ」
「…ありがとうニャ」
「ああ」
「あいつは…どうなったニャ?」
ぴし…。
何か音がした
…ぽとっ。ドングリほどの小石が地面に落ちた。
ぱらっ。ぱらぱら…。砂粒よりは大きい石が降ってくる。
「あ…」
俺はリーンを抱えてその場を離れた。
ぴしっ!…ぴしぴしっ!
静かな森に甲高い音が響く。池のほとりまでリーンを連れていった。
「見えるか…?リーン。ミミックロックにヒビが入っていくよ」
ボロボロとその表面がはがれ始めている。
「うん。見えるニャよ…」
ばきぃんっ!!
そしてついにミミックロックは一際大きな音を立てついに割れた。ガラガラと音を立て地表に落下した。
「ボク…、やったんニャね…」
「ああ、凄いぞリーン。物理攻撃が効きにくい相手をあんな風にして倒すなんて!…カッコ良かったぞ」
「…それ褒め言葉になってないニャんね。女の子にはカワイイって言うべきニャ」
「覚えておくよ。…動けるか?」
「ちょっと…無理みたいニャ」
「じゃあ温泉に入れ。俺特製の冒険者製応急薬も作ってやる」
「焼き魚も…つけて欲しいニャ」
「ああ、冷蔵庫に材料はまだ残ってるからな。焼いてやる」
「ん…」
そんなやりとりをしていたのもつかの間、地面が揺れだした。
「じ、地震ッ!?」
「ち、違う!?アレを…見るニャ!」
「ああっ!?」
そこにはミミックロックを叩きつけるのに使った大岩が立ち上がろうとする姿があった。
いかがでしたでしょうか?
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次回、第15話。『キノクの意地。 VS 巨大ミミックロック』。
動けないリーン、戦う力の無いキノク、およそ勝ち目の無い戦いは意外な結末となり…。キノクは生き延びる事が出来るか…。
お楽しみに。