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第126話 プルチン達から全てを取り立てる


「まるで足りないなあ」


 俺はプルチン達四人が持っていた金を数えながら言った。


「四人合わせて5万ゼニーにも満たない、装備もロクにないしな。こりゃ水浴びをした直後のスラムの住人の方がマシだ、貴族の生まれだっけ?お前達」


 床に転がったプルチン達はみすぼらしい格好、いかにも金回りが悪そうだ。剣士のクセに剣を持っていない魔法剣士だ、剣を買う事も出来ないのだろう。


「な、ならオレ様達を解放してあいつらと同じようにしてくれ!稼いで来てやっからよ!」


「論外だ」


 俺は短く応じた。


「3億だぞ、お前らのような満足なパラメーターもなく成長も見込めない奴らが稼げるものか!強力な戦技も魔法も発動出来ない、以前お前達は言ったよな?俺を役立たずと…、だが蓋を開けてみりゃあ…どっちが役立たずだったのやら…」


 所持金も尽き金目の物も無いコイツらからどう取り立てるか、そこで()きてくるのが貸金業のスキルだ。


「さて…まずは…」


 俺はレポート用紙とボールペンを取り出しサラサラと文章を書いた。


「まずは借金を肩代わりしてもらうとするか」


 俺は床に書き上げたばかりの書面を置いた。


「アンフルー、プルチンの右手だけ自由にしてやれ」


「ん…」


 (ツタ)の戒めが右手部分だけ解かれた。


「おい、字くらい書けるよな?」


「な(なン)だこれは!?」


 日本語で書いた文面がコイツに読める筈はない、説明してやろう。


「誓約書だ、お前が金で払えないなら他所から取り立てる(むね)を書いた物だ。この場合、お前の実家から…という事になるな。お前がサインすればそれだけでお前の実家から金目の物が自動的に取り立てられる。実家の方への承諾は必要無い、お前の一存で良いんだ」


「な、なンだとッ!?」


「嫌なら書かなくて良いぞ、その代わり縛り首だ」」


「か、書くッ!」


 そう言うとプルチンはサインをし始めた。その間に俺は三枚、同様の物を書いてハッサムら三人の目の前にヒラヒラと落とした。コイツらもプライドが無いのか、すぐに名前を書き始めた。


「でも、果たして取り返せるのかニャ?」


 横にいるリーンがポツリと呟いた。


「帝都住みの貴族なんニャよね?領地持ちじゃニャくて、そうなると借金漬けになってるのも珍しくないって話ニャ」


「そうかも知れないな」


 江戸時代なんか武士は(ろく)として入ってくる米を担保に札差(ふださし)から金を借りて首がまわらなかったって言うしな。


「それならお金なんて取れないんじゃニャいの?」


「ああ、だけど俺はこのプルチンに引き合わされた時に屋敷に連れて行かれた。その時に見たがそれなりにしっかりした物だった。調度品なんかもあったからな。だからそれを差し押さえる」


家財道具(かざいどうぐ)を強制徴収…」


 アンフルーが呟いた。


「まあ、そういう事だ。中には家宝みたいな物もあるかも知れないが…。我が身かわいさ、コイツらはそれを差し出しちまったのさ」


 プルチン達が名前を自署した四枚の誓約書を見ながら応じた。


「すっ、数字がッ!」


 プルチン達の自署した紙に数字が浮き上がってくる。


「今そこに浮かんでいる数字…、ああその3億からほとんど減ってないそれだ、それが慰謝料としてお前らが支払いしなくちゃならない額だ。さて、今からお前らの実家から徴収を開始する」


 そう言った次の瞬間、レポート用紙の上に浮かんだ数字がたちまち減っていく。


「あっ、数字が減っていくのニャ!」


「まずはコイツらの実家にある現金や旅人用宝石などから取り立てている。それが無くなると貴金属だ」


装身具(アクセサリー)?」


「ああ、そうだ。それ以外にもあるぞ、扉の縁取りとかな。知ってるか、金で縁取りしてる場合もあるんだ。あとは武具とか馬具とかな、当主が使う物は宝石で飾らせていたりするから意外と高値がつく。もっとも家紋とかが施されていたりするから簡単には売れないが」


「なあに、そしたらその家を憎しと思うとる家に売るとかさせたら良えねん。敵対しとる家は喜ぶでえ、憎い家が(ゼニ)に困って自家の誇りを銭に変えた言うてけなしたり出来るしな」


 シェドバーンがこちらにやってきて言った。


「おいおい、恨みを買わないか?」


「なあに、何かしてくるなら銭を止めて干したったら良えねん。たちまち()上がるでえ!商人ナメとったら銭で仕返ししたったら良えねん」


 そんなやりとりをしていたら誓約書に浮かんだ数字に変化がなくなった。ふむ…、まあまあ減ったがそれでも全員1億以上残ってるな。


「一番減っているのがウナ、それでも1億1千万以上の残額がある。一番減ってないのがマリアントワか、まだ2億ちょっとあるな。んじゃ後は…、そうだ!変わったモンを取り立てるか、能力値(パラメーター)


「パ、能力値(パラメーター)だと…」


 プルチンが床に転がったまま疑問を口にさした。


「ああ、大した数字じゃねえだろうかな」


「ふ、ふざけン…」


「払えなきゃ縛り首」


「ぐ…」


「喜べ、能力値1ポイントあたり1万ゼニーで買ってやる」



「うーん、効率が悪いな。能力値を取り立てて俺達に還元しようとしても取り立て10ポイントに対し1ポイントしかパワーアップ出来ないみたいだ。…もっともまともに能力値を購入しようとするよりおトクだから良いか。それに俺以外にも振り分け出来るのは良いな」


 今まで俺の能力値しか購入出来なかったし、ハッキリ言って購入額が高騰しまくっていた。それと比べたら1ポイント10万で済むなら安いもんだ。リーン達に分けられるのも良い。もっともプルチン達の能力を0になるまで回収する事は出来ないらしい。最低値10を残してあとは回収出来なかった。


「とりあえず平均的に各能力値を5〜6ポイントずつ四人で分けよう。あと、魔力はアンフルーに全振りだ。13ポイントとは言え魔法職のアンフルーは多いに越した事はない。逆に生命力は前衛のリーンとスフィアに10ポイントずつ、俺とアンフルーで2ポイントずつにしよう」


 思わぬ戦力増強になった。


「それにしても…人間の能力値は普通なら平均100ポイント前後、それがフタを開けてみりゃこの程度か…。お前ら平均60ポイントから70ポイントしか無かったんだな」


「バ、バカな。オレ様の筋力値は120はあったンだぞ!」

「せ、拙僧の鋼の肉体が…」


 プルチン達が信じられないといった表情で否定しようとする。


「全部キノクのおかげだったのニャ!お前達はそれも知らずに追い出したのニャ。自分達の本当の実力も知らニャい、荷物を守り水や食料の管理の大切さも知らニャい奴にはお似合いの結果ニャ!」


「戦士なら戦えば成長(レベルアップ)する、だけどキノクは商人。戦いじゃない、稼ぐ事で成長する。その結果お前達が二人で襲いかかった時も腕を振るっただけで一掃した。その力の差は歴然」


「「「「あ、ああ…」」」」


 リーンとアンフルーの言葉に四人は言葉も無い。


「あとは使える技能があれば…」


 プルチンには魔法剣士の技能か…。剣と魔法を扱う、しかし武器が剣でないと二割程度の能力しか発揮出来ない。


 ハッサムは至高修道士(ハイモンク)。奴のスキルは五体全是武器(ごたいすべてこれぶき)、肉体を駆使して戦う能力だ。素手で戦うと攻撃力が極端に上がり、また魔力を瞬間的に体に宿らせ肉体を強化する事も出来る。しかし、武器を扱おうとすると逆に攻撃力が下がる。また、魔力を体に宿らせる際も肉体と精神が未熟だと能力を発揮出来ずただスタミナと魔力の無駄遣いに終わる。


 ウナは上位の魔法を扱う能力、それも爆発系の魔法のスキルか。細かい魔力操作やコントロールは下手だが、爆発のように単純に放出する効率が良くなる。本来なら魔力のコントロールは下位の魔法使い系職業の時に習得しているべきもの。これではただ大規模な爆炎、爆発系の魔法は使えるが他は無理だ。しかもその得意な爆発系の魔法もウナ本来の魔力量では使う事も出来ない。これも無意味な技能だ。


 マリアントワは聖職者に属するが…、これもまた微妙だ。確かに強力な回復、退魔の魔法がある。しかしその能力を活かす為には能力値がモノを言う、そしてもう一つ大切な事がある。実は聖職者系の職業は下積みが最も大切だ。聖職者の世界で言うならば聖堂の扉の開閉や鐘を鳴らす役割の守門(しゅもん)に始まり、徐々に位階(いかい)(聖職者としてのランク)を上げていくようなものだ。そうする事で能力が発揮されていく。しかしマリアントワにはそれが無い、さらに言えばまともに活動した事も無い。それで加護を得られるほど神も寛大ではない。


「まあ、強力かも知れないが極端な技能ばかりだな。マイナス面も付いてくるし。でも入手しておくだけおいていつか身につけるのもアリか。いつ何が役に立つか分からんし…、それぞれ1千万か。とりあえず買っておくとしよう。あとは技能…、特筆すべきものはほとんど無いが乗馬の技能か…。馬持ってないけど持ってない技術を得るには丁度良いか。出来る事を増やしておくのは悪くないしな。もう取れるものは無いが…、残りの金がそうなると取りっぱぐれだな…」


 俺は腕組みして考えた。


「あ、新宿で変わった商売してる人を見た事あったな。それをやらせるか、異世界風に…。なあ、シェドバーン会頭」


「なんや?」


「ちょっと新しい商売を考えたんだが…、力と知恵を貸してくれないか?」


「ほぉう…、タダでは動かんワイにあんさん何をさせたいんや?」


 にやり…。


 シェドバーンは俺を覗き込むようにして笑った。







 

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