第121話 伏兵のスフィア
「やれえッ!!」
プルチンが叫ぶ。その声に応じ俺達を取り囲む冒険者達が迫る。中には短剣やナイフなど狭く密集した場所でも扱える武器を抜いた者もいる。
「へへ…、その猫獣人族もエルフも手練みてえだがこの人数で取り囲みゃあ…」
「そうだ、いかに強くとも取り囲んで押しつぶせば…」
奴らの言う事は正しい。仮に地球でボクシングの世界チャンピオンでも大人数で押しつぶされたらどうにもならない。捕まり引き倒されたら為す術はない。奴らはその事を言っている。
「んじゃ、行くか」
誰かが言った。余裕のある表情を浮かべ冒険者達が迫る。その時、俺は叫んだ。
「今だ、スフィアッ!!」
ぱっ!!
誰もいなかったスペースに突如スフィアが現れ、愛用の槍を逆さまに…つまり刃の部分ではなく石突きの部分で稲妻のように鋭い突きを放つ。しかもそれは一撃ではない。雨霰、百烈突きとも言えそうな凄まじい連打である。
「ぐわっ!」
「ぎゃあ!」
俺達を取り囲む冒険者達の一角、およそ7、8人が一斉に吹っ飛び次々と周りを巻き込みながら倒れた。
「い、いきなり現れやがったぞ、この女ッ!?」
いきなりのスフィアの出現に冒険者達が浮き足立つ。
「姿隠し(インビジビリティ)の魔法だ!姿を隠して潜み、好機と見たら最善の一撃となる不意打ちを喰らわす。残念ながら攻撃を仕掛けるその瞬間に姿をあらわにしまうがな」
俺は敵の近くで渾身の突きを放ち終えた隙をつかれぬようにスフィアに接近、フォローに向かいながら今の出来事を語ってやった。
「これが伏兵というヤツさ!アンフルー!」
「ん、転送!クロスボウ・散弾銃型。キノク、敵の密集部に」
「分かってるよ」
アンフルーが前もって唱えていた魔法が発動し、俺の手に一回引き金を引けば十本の矢が射出される散弾銃のような機能を持つ改造クロスボウが現れる。俺はそれを手に取ると一切の遅擬なく発射、たちまち数人の冒険者が倒れた。
「ふヒィ〜ッ!!あえ…、い、痛えよぉ」
「な、なんだ!?この矢、抜けねえ!抜けねえよォォ!」
矢が命中した連中は悲鳴を上げ床を転がる。
「このクロスボウは一度に大量の矢をバラ撒く!その為に小型化しているのだ。肉体に刺さると深く食い込む!素手ではまず抜けない、刃物による切開をして初めて抜けるッ!」
切開…つまり外科手術という事になるが、この世界においてこれはあまりにも無情な宣告である。なぜならこの中世的な世界においてそんな事が出来るの者はほとんどいない。その貴重な医術者もまた王侯貴族のお抱え典医であるのがほとんど。町医者もいるにはいるが、診てもらうだけでも金が要る。手術となればなおさらだ。
「シュッ!!」
さらにリーンが追撃を仕掛ける、幸運にもスフィアの槍にも俺の矢にも当たらなかった奴を叩きのめす。ここまでで十五人近くが戦闘不能になっているだろう。
「ええい、俺が!!」
一人の冒険者の男が戦場で使うような大盾を前に押し出し押し出してくる。ハッサムに負けず劣らずの大男、盾だけでなく鎧も堅牢そうな者を身につけている。
「おお!!要塞のベンドか!?」
ベンドは冒険者仲間に要塞と渾名される重戦士である。ごつい体に厚手の鉄鎧、熊とも渡り合えると言われるベテラン戦士だ。
がぁん!!
そのベンドがリーンのドロップキックを両手で持った大盾で受ける、大きな体に分厚い鎧の重さもありわずかに後退ったがしのいで見せた。
「この盾は鉄板を何枚も重ね貼りした特別製!この鎧も分厚い鉄板を打ち出して作った特別製だ。矢も槍も決して通りはせぬ!調子に乗るのもここまでだ、小娘!このまま押し切ってくれる!」
浮き足立っていた冒険者からおお…と歓声が上がる。
「そうだ!ベンドに続け!」
「もみ合いになるような接近戦に持ち込むんだ!」
電車の連結車両の如く冒険者が縦一列に並ぶ。
「私が…」
アンフルーが魔法を使う素振りを見せたが、リーンがそれを止めた。
「コイツはボクがやるニャ」
「まあ、リーンなら負ける要素は無いだろうし…」
俺は思い出していた。リーンはただ殴る蹴る以外にも戦術がある。投げ技もあれば組み技もある。ついでに言えば腰のククリを抜いて鎧の隙間から刺したりも出来るだろう。
「ねえねえ、キノク〜?」
なんとも呑気なリーンの声。
「なんだ、リーン?」
「アレ、使わせてもらうニャ。コイツは試し切りには丁度良いヤツなのニャ」
ああ、確かに。俺は合成の能力を使って色々作った事を思い出す。水を中に入れた宝石以外にも試しに作った物があったのだ。
「試し切りだと?馬鹿め、岩石を落とされても俺は無傷だったのだぞ!」
ベンドが何を言ってるんだとばかりに返しながらジリジリと迫る。
「ふニャッ!!」
リーンが駆け出す。
「ふ、ふはははっ!!何も持っておらんではないか!何をすると言うのだ!」
リーンとベンドが交錯する。
がらぁん!!ごとぉんっ!!
「な、な、な、なにィ!!大盾が…、厚重ねの鉄の大盾が…」
大き盾が真っ二つになり床を転がっている。
「それだけじゃないのニャ!」
「な、なにィ!?」
がらがらっ、がしゃんがしゃんッ!!
ベンドの鉄の鎧がバラバラになり、その足元に鉄屑の山を作った。
「なんだとぉ!!鉄の鎧がァッ!?」
「し、しかも無理矢理砕いたとかじゃねえっ!?切り裂いたかのような断面だ!」
ベンドの後ろに続いていた奴らが声を上げ、再び混乱に陥る。
「さすがキノクの作ってくれたのは違うのニャ!えっと武器の銘は…」
「エクスニャリバーだ」
「ニャ!?それニャ!」
リーンの指先がキラリと光った。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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エクスニャリバーとは?
そして今明かされる自由市の後にキノクがここに来た理由とは?
次回、第122話。
『付け加えた罪状』
お楽しみに。




