第119話 『戻ってきてくれ!』『ええで。ただし、まずは謝罪からや』(ざまあ回)
「し、信じ…、られねえ」
「あの最上位職業の四人パーティ高貴なる血統が…」
俺達とプルチン達との戦いが…、それも一方的な結果に終わり周りでその様子を見ていた冒険者達が騒めき始めた。
「ぐ、うう…」
リーンの尻尾による締め上げで気絶していたハッサムが目を覚ました。さらにはリーンに蹴り返された攻撃魔法で倒れていたウナとマリアントワ、そしてプルチンが転がっていた床からその身を起こした。
「まだやるのかニャ!?」
「ぐっ!…い、いや…」
さっきまでの威勢の良さはどこへやら、リーンが問いただすとプルチンはすっかり戦意を喪失していた。
「戦わない方が賢明。キノクによるパラメーターの底上げも無く、それに伴い高度な魔法や戦技が使えなくなった今のお前達に勝ち目は無い。…そう、四人がかりでゴブリン一匹倒せないほどにお前達は弱体化している」
アンフルーの言葉がトドメになった。
「ク…、クソッ!!」
プルチンが一声洩らし、他の三人は俯いた。今の自分達は弱小、さらにレベルを上げたとしてもパラメーターの成長はあまり見込めずとても最高位職業が覚える技術を使うまでには至らない。いくら四人が愚かでも分かったのだろう、自分達に先が無い事を…。
「…てくれ」
プルチンが何やら呟いた。
「なんだって?」
「戻って…きてくれ…。パーティに…」
その口から洩れたのは復帰要請であった。
□
「戻って来いだと?」
俺は不機嫌な声で応じた。
「お前達は俺に何をしたのか理解していてそう言っているのか?」
怒りがこみ上げてくる。
「わ、悪かった!謝る、だから戻ってきてくれ!仲間じゃねえか、オレ様…」
「分け前も払わず暴行し追放するのが仲間と言うのかッ!?」
「ヒッ!?」
「だ、だからこうして謝る!わ、分け前もこれからはちゃんと払う!頼む、戻ってきてくれ!」
「ふざけんな!この野郎!!」
俺はこの恥知らず共をぶち殺してやりたい衝動に駆られた。しかし…それをすんでの所で踏みとどまる。
「…ふん。戻れ…か…」
「そ、そうだ!そうすりゃオレ様達は…、高貴なる血統はまた凄腕冒険者パーティとしてやり直せるッ!」
プルチンは諦め悪くまだ粘っている、そこに他の三人も追従した。
「そ、そーよ!そうすればまた私の高度な魔法が…」
「うむ、我が鋼の肉体が蘇り迫る敵をばったばったと…」
「それにあなたにもメリットがありましてよ!私達の出自は貴族、箔がつきますわ!後ろ盾となりますもの!!」
馬鹿共がさえずっている、そこで俺は少し考えた。
「良いぜ…」
「えっ!?そ、そうだよな!オレ様達は仲間だモンな!よし、これからは…」
「ちょっと待て」
「ッ!?も、もしかしてリーダーの座か?それならお前に譲っても…」
「そうじゃねえ、何がこれからは…だ。お前達はまず今までの事をしっかりと詫びるんだ。それから復帰の話を聞いてやる」
「そ、そうだな!すまねえ、この通り…」
「お前達の軽い頭を下げられて何の得がある?それに下げたその頭、本音とは裏腹だろ。ただ自分達の都合が良いようにしたいだけだ」
「ぐ!!」
図星か…、救いようがない。
「なら4000万だ」
「な、なにィ?」
「謝罪金だ、4000万ゼニー。今までの俺への仕打ちと払ってこなかった分け前…。慰謝料として支払えば今までの事は水に流してやる」
□
「よ、4000万ゼニー…」
プルチンの声が震えた。
「な、何でそんな高額に…」
横からウナが口を挟んだ。
「俺がお前達に加わって過ごした三カ月弱…、その稼いだ総額がおよそ2000万ゼニーだ。冒険者はやられたら倍にしてやり返すの流儀、ナメられっぱなしじゃやってけねえ…、そうだよな?」
今俺が言ったのは法律化されてる訳ではないが世間一般的にそうするものとされる。言わば不文律、倍返しというのが通り相場だ。
「お、俺達にそンな金は無え…。か、貸しにしてくれ!」
「認めるか、バーカ!だったら実家を頼るとかギルドから借金するとかやり方があんだろ。考えろ!」
「ぐ、ぐ、ぐ…」
プルチンが歯軋りして悩み悔しがる。
「そーだよ、さっさと払っちゃいなよプルチン!」
そこに割り込んできたのは受付嬢のパミチョ。おや、今まではプルチンさまだったのに早くも呼び捨てにしている。
「そーすればギルドの売り上げも上がるしぃ、アーシ達にボーナス出るかも知んないし〜」
「お前もだ、厚化粧女」
「えっ!?」
「忘れたのか?お前は俺を目ざわりと言って冒険者証を破棄したよな。つまりここで売却しても二割の手数料が引かれる。誰がこんな所で売るか!こちとらシェドバーン商会の会頭とコネが出来た。向こうの方がはるかに高値で買ってくれる」
そう言って俺は広場での代金支払いに手渡された旅人用宝石が入っていた袋を見せた。
「あ、あれは!?」
「間違いねえ!シェドバーン商会の屋号の刺繍ッ!」
「3億ゼニー、ポンとくれたぜ。今日用意した一番高値の宝石を買って行ったよ」
「「「さ、さ、さ、3億ッ!!?」」」
周囲が騒めきに包まれる。
「他にも7種類、全部で8種類の宝石を売ってきた。その売り上げは…、おっとやめとこう。自慢話になっちまう」
「い、いくらなの…」
ごくり…、生ツバを飲んでパミチョが問いかけてくる。
「それを聞いてどうする?」
「良いじゃん、教えてよ!5億?10億?」
「そ、そーだよ!」
「そうですわ!」
パミチョにウナとマリアントワが加わる、完全に欲に目が眩んだ表情をしている。
「さあな。それにまずはしっかり謝罪をするんだな。厚化粧女、お前は2000万だ。それで手を打ってやる」
「そ、そんなお金無い…」
「じゃあ諦めろ。俺は冒険者ギルドには戻らん、それだけだ。…だが、考えてみろ?たかが2000万だろう?」
「た、たかが?」
「ちゃんと謝罪し、そして俺が冒険者ギルドに再加入。それからお前が俺専属の受付嬢になれたらどうなる?」
「せ、専属…」
専属受付嬢とは文字通りとある冒険者やパーティの受付を専属で行う者である。担当以外の他の一般事務作業などをしなくなるので基本給は無くなる。しかし、その専属の冒険者なりパーティが冒険者ギルドに納品した品で得た利益や依頼の報酬の1割を受け取れる。
「仮に今回の12億…、それをギルドに納品しギルドが…そうだな。捨値で売っても1割は儲けが出るだろう。そうしたら1億2000万、その1割なら1200万ゼニー、2000万ゼニーを借りても2回目にはもうプラスだ」
「じゃ、じゃあさアタシやる!」
「ちょ、ちょっとニコ!?」
これまた派手なギャルっぽい受付嬢が名乗りを上げた。
「だって他に何もしなくても良〜んだし、1か月に1回働いてくれたら年収1億4000万以上だしぃ!」
「ア、ア〜シ、払う!」
「パミチョ!?」
そう言うとパミチョは1000万ゼニーの旅人用宝石を二つ、俺に押し付けるように手渡してきた。そして何やら羊皮紙にペンを走らせ、小刀で親指の腹を薄く切ると血判を押した。借用書の類だろう。
「ほう、そうか?それなら今までの事は水に流してやる」
「ッ!?な、ならオレ様達もッ!!」
そう言ってプルチンは受付から同じく4つの旅人用宝石を出させ俺に手渡した。そしてパミチョと同様、羊皮紙に署名と血判をしていく。
「よし、これでパーティにいた間の事は水に流してやろう」
俺は合計6つの旅人用宝石をアンフルーに手渡した。アンフルーは早速俺の部屋に転送した。
「じゃ、じゃあパーティを再結成すンぞ!そっちの二人も入れてよォォ!ヒャハハッ!よし、酒だ酒だ!」
「それとギルドへの再加入とア〜シの専属手続きもね!」
借金の手続きを終えたプルチン達四人とパミチョが笑顔でこちらにやってくる。醜い笑顔だ、こっち見てんじゃねえ。
「は?お前ら何言ってんだ。する訳ねーだろ、お前らなんかと」
俺はキッパリと言ってやった。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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パーティとギルド加入を断ったキノクにプルチン達は…?
次回、第120話。
『商人キノクへの襲撃』
お楽しみに。