第117話 アンフルーの接近戦 後編(プルチン&他二人ざまあ回)
卑怯にも魔法戦をもちかけたプルチンが背中側に隠した鉈を抜いて不意打ちを仕掛けた。あの至近距離で物理攻撃を仕掛けられては…。いくらアンフルーが魔法の達人でも発動よりは鉈の方が早いだろう。
「ギャハハッ!!くたばれぇッ!!」
プルチンは勝利を確信したかのように攻撃してくる!
「遅い」
ぶんっ!!
何も武器を持っていない、いわゆる無手という状態のアンフルーの右手に突如何かが現れ彼女はそれを横薙ぎに振るった。
ばちいっ!!
「がふっ!!」
アンフルーの右手に現れたそれはプルチンの顔面を捉えプルチンはもんどりうっで倒れた。
「あれは…弓?」
アンフルーの右手に現れたのは簡素な木製の弓であった。全長1メートルあるかどうか…、小型の弓である。アンフルーはそれを一瞬のうちにどこからか取り出し、それでプルチンを引っ叩いたのだ。
「い、いつの間にッ!?何も持ってなかったじゃねえか!!」
床に転がり打たれた頬を押さえながらプルチンが叫んだ。
「我が手に瞬時に現れしこの弓はッ!!」
いつものアンフルーらしくないキリッとした口調。
「エルフが生まれると同時に植樹えるトネリコの弓なり」
「トネリコの…、弓?」
耳に馴染みのない単語に俺はついつい疑問を口にしていた。
「アンフルーに聞いた事があるニャ」
リーンが俺の首に手を回し抱きつきながら言った。いつの間にか俺はリーンをお姫様抱っこしている。
「エルフは生まれると小さなトネリコの苗木を生家の隣に植えるそうニャ。そして最初に枝分かれした木の枝を切って弓を作るのニャ」
「弓を作る?」
「そうニャ。同年同月同日に植えて共に育ったトネリコに木は森の民とも言われるエルフにしてみれば分身みたいな物ニャ。その自らの分身とも言える弓は使うエルフの成長に従って弓自身も成長するのニャ」
「へえ…」
「言わば体の一部みたいな物なんニャよ。もっともアンフルーはめったに弓を使わないんニャけどね」
「え?なんでだ?」
「私、失敗しますので」
「アンフルー?」
いつの間にか近づいていたアンフルーが言った。
「アンフルーは…、弓が下手なのニャ」
「あ、そう…」
「その代わり、矢を必ず当てる魔法を習得した。えっへん」
胸を張るアンフルー、なんだろう…この残念な感じ。
「…さて」
再びアンフルーが真面目な声になりすたすたと歩き出した。その方向を見るとプルチンが立ち上がり鉈を構えていた。
「次は私から」
「ヘッ!前衛に後衛が攻撃しようってか!?返り討ちにしてやン…」
「うるさい」
ばちんっ!!
何の変哲も無い無造作な弓を振るう一撃、またもプルチンは床に転がった。
「な、何だとおッ!オレ様は生まれながらの戦士系最上位職業の一つ魔法剣士サマなンだぞ!なンで戦士でもねえテメーにやられンだよォォ!!」
「それがお前の弱さの理由」
「な、なにイ!?」
「確かに剣士は戦士の職業の上位に当たる。剣をとってはまさに敵無し、その戦いぶりは優雅にさえ映る」
「そうだ!オレ様は無敵だ!無敵のはずなンだ!」
「しかし、剣が無ければただの人。…いや、それ以下」
「なんだとッ!?」
「剣士は剣の専門家、言わば剣の扱いに特化した戦士。その代わり他の武器を扱う時は素人以下の腕前になる。つまり他の武器の扱いを犠牲にした分だけ上手くなったに過ぎない。そしてお前が手にしているのは鉈、その扱いは斧に近い。ゆえにその腕前は素人以下、戦士ならどんな武器もこなせるのに」
「オ、オレ様が剣以外はまるで駄目だと…。み、認めねえぞ!そンな事ッ!」
「では、なぜ私の攻撃をかわせなかった?私は見た通り華奢な体の魔法職、ロクに物理戦闘の経験も無い。そんな私にお前は良い様にされている、指一本触れる事さえ出来なかった」
「クッ!なら魔法で…」
「出来ない事はするべきではない。お前からはロクに魔力を感じない、満足に魔法を発動させる事も出来まい…。やり直す?魔力玉から…」
「クッ、クソがあッ!オレ様は魔法も凄腕だったンだ!!」
「それもキノクのおかげ。キノクがいなければお前は弱小冒険者に過ぎない。それと…知ってる?職業と言うのは上位になればなるほどレベルアップしてもパラメーターの成長はほとんどしない。代わりに高度な魔法や技術を覚える。しかし、高度な技術はそれを扱えるだけの基礎がいる。その基礎を固めるのが下位職の特色。お前にはその基礎が無い。例えて言えば魔力を50消費するような大魔法を習得しても、術者の魔力が10しかなければ使えるはずもない」
「だ、だったら下位職の戦士や魔術師に転職すりゃあ…」
「それは無理ね」
「なにィ!?」
「上位職、最上位職は下位職に戻る事は出来ない。それは大人が子供に戻ろうとするようなもの。…出来る?」
「チ、チクショウ…。チクショォォウッ!!」
だんっ!!だんっ!!だんっ!!」
プルチンが膝から崩れ落ち両手を床に打ち付ける、その時だった。
「プルチン様、どいてくださいましッ!!」
「はああああッ!!エネルギーボルトッ!」
声のした方を見るとウナとマリアントワの二人が魔力を合わせ魔力の塊を飛ばしてきた!
「ボクに任せるのニャ!」
俺に抱きついていたリーンがぴょんと床に飛び降りる。
「ふニャああああッ!」
気合のこもった声を上げるとリーンの右足に青白い光が宿った。
「ボクはアンフルーみたいに魔法を飛ばす事は出来ないのニャ。だけど、魔力を体に宿らせる事は出来るのニャ!」
ばっ!!
リーンが飛んでくるエネルギーボルトの魔法に対し地を蹴って宙に舞う。まるでジャンピングボレーの体勢だ。
「マジック・リフレクション・ボレー!!」
ドカアッ!!
「こ、攻撃魔法を…蹴り返したアッ!!」
蹴り返されたエネルギーボルトの魔法はそのまま放ったウナとマリアントワに向かって跳ね返り…。
「え…?きゃあああっ」
そのまま二人を打ち倒した。それを見てアンフルーが口を開いた。
「皮肉…。実力不足が幸いした」
「どういう意味だ、アンフルー?」
「エネルギーボルトは攻撃魔法の基本中の基本。ただ魔力の塊を放つだけ…。それを二人がかりで放つんだからあの二人は半人前の魔術師も良いところ…。もし、一人前の術者が二人がかりで放ったのをはね返されたら普通は重傷」
「なるほど…。能力値も技術もないこの四人、成長も見こめずが…。アンフルーの言ってた通り確かにこれは詰んでるな」
「お先真っ暗ニャ」
俺達は床に転がるプルチン達にそんな感想を抱いていた。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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実力も無く、これから先の成長も見込めないプルチン達。
そうなると一気に手の平返し、キノクに縋りつく。
そして、もう一人も…。
次回、第118話。
『戻ってきてくれ!』『ええで』(ざまあ回)
お楽しみに。