第13話 冒険者製応急薬(アドベンチャラーズメディスン)の効果と個人差?
プルチン達が散々に打ち負かされていた頃…。
俺とリーンは薬草や木の実を集めたり何気ない会話をしながらアブクソムへの帰り道を歩いている。
「あー、そこを奥に入った所にも水場があるニャんよ。だけど大きな魚はいないのニャ」
「へー。よく知ってるな」
「昨日は最初にそこで魚を捕まえようとしたニャ。だけど大きなのがいなくて…」
「だからあんなに奥まで来たんだな」
「そうニャ。でもそれが良かったニャ!こうやってキノクに会えたんニャから」
「そうか。…ん、水場があるって言ったよな?」
「ニャ!」
「ちょっと寄り道させてくれ!」
……………。
………。
…。
「おっ!あるある!」
そう言って俺は触媒茸と呼ばれるキノコを採取していた。水気のある場所によく生えている。触媒茸はそれ単体だと味も何の効果もないキノコだが薬草類と一緒にすり潰してやると傷薬になる。
「キノク〜、冒険者製応急薬でも作るのかニャ?」
冒険者製応急薬…、適当な薬草と触媒茸を混ぜ合わせる事で得られる傷薬の総称である。そもそも専門的な薬草の知識は薬師でもなければ広まってはいない。せいぜい止血に効果があるのがこれ、化膿止めにはこれ…しかも間違った知識の者も少なくない。しかしそんな拙い薬草の知識でも触媒茸を混ぜ合わせればそれなりの傷薬が出来てしまう。それゆえ何かと怪我と隣り合わせの生活を送る冒険者にとっては入手しやすい材料で作れるし、ちゃんとした傷薬には高値がつく。それゆえ入手しやすい材料で簡単に作れる冒険者製応急薬は旅人や冒険者にとってはとても身近な存在だ。
「ああ。何かと世話になるからな」
「え〜!化膿止めとか気休めくらいの効果しかニャいのに?昨日、お金ガッポリのキノクならちゃんとした薬も買えるはずニャ。ありえないニャ〜!」
「そうか?よく効くんだがな。昨日、プルチンにやられた顔のアザもスッキリ消えたぞ」
「それはありえないニャ〜!それならキノクのおんせんとか湧水の方がずっと良いニャ!一瞬で傷が治るし元気が湧いてくるのニャ、まさに霊薬だにゃ!」
「俺にはそれの方がありえないよ。それこそ気休めさ」
効き目には個人差があるのだろうか、この時の俺はそのくらいにしか思えてならなかった。
□
湿度がなにかと高くなりやすい環境なのか触媒茸が群生していた。
「こりゃあ運が良い。しばらく素材には困らんな」
「雨の後の良い天気ニャからね。触媒茸はそういう時、グングン成長するのニャ」
「へええ、まるで雨後の筍みたいな話だな」
「ニャッ!?時々、キノクは聞き慣れない事を言うニャんね」
麻袋いっぱいに触媒茸を詰めた。重さはそうでもないが、持ち歩くには少々厄介な大きさになる。
「中腰の姿勢を続けたからかな、少し疲れたな」
「少し休むかニャ?ボクも喉が渇いたニャ」
「そうだな、そうしよう」
「ゴクゴク…。ぷはぁ〜、キノクのくれた湧水は最高ニャ!体に染み込んでいくようニャ」
「ははは、元気だな。俺は…そうだな、あそこに座るのに丁度良さそうな岩があるな。あれなら少し狭いかも知れないが二人で座れそうだ」
「あれ?あんな所に岩ニャんてあったかニャ?」
「夕方近くの時間で薄暗かったから見落としてたんじゃないの?」
「うーん、ボクは暗い所でもよく見えるんニャけど…」
リーンは首を傾げている。頭の上の猫耳が忙しなく動いている。
「まあ、座ろうぜ」
俺は岩に手をついた。続いて腰掛けようとする。
「待つニャ」
座ろうとした俺を止めようとリーンが服の袖を掴んだ。
「ん、なんだ?」
「離れるニャ…。その岩から」
「え?」
「モンスターニャ!」
俺は慌てて2、3歩離れた。見れば岩だと思っていたものがゆっくりと動いている。
「擬態岩ニャ。なかなか見かけないモンスターだから知らニャい人も多いニャ。硬くて重い体と力強さが特徴ニャ」
「初めて見たよ。でも、動きは速くなさそうだな」
「基本的にはそうニャ。でも油断しちゃ駄目ニャ。例外というのは何事にもあるものニャ」
次の瞬間、信じられない事にミミックロックの姿が消えた。
「危ないニャ!」
どんっ!
リーンが俺を後ろに突き飛ばした、地面に尻餅をつく。自然と上を向いた視界に先程の岩があった。岩が…跳んでいる…?
「リーンッ!」
押しつぶすようにリーンに迫るミミックロック。俺をかばった為に彼女は反応が遅れている。
「…ッ!!」
リーンは落ちてくる岩に俺を突き飛ばした手とは反対の手を触れた。そしてそれを利用して手を突き出し後ろに飛び退く。空中の岩を利用して反動をつけたのだろう。
どすんっ!!
一瞬前までリーンがいた場所にミミックロックと呼ばれたモンスターが落ちた。もしそこにいたら…、恐ろしい事になっていただろう。
「………?」
飛び退いたリーンは不思議そうな顔をしてミミックロックに触れた手を見ている。
「岩が…飛んでくるなんで…」
俺は思わず呟いていた。これがリーンの言っていた例外か…、下手したら潰されて死んでしまう。
「キノク〜…」
ポツリとリーンが呟く。
「な、なんだ?リーン」
「コイツ、倒してしまって構わないかニャ?」
リーン…。それ、なんかフラグっぽいよ…。
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次回、第14話。『リーンの激闘』。
戦闘回です、お楽しみに。