第116話 アンフルーの接近戦(プルチンざまあ回)前編
リーンが手を…、それどころか足すら使わず尻尾でハッサムをあしらった直後…。もう一つの戦いが始まった。
皆がリーンとハッサムに注目していた所をプルチンが仕掛けた。後衛職であるアンフルーを組み伏せようとばかりに肉薄する。
「ふん」
アンフルーが突っ込んでくるプルチンをひょいとかわし足を引っかける。勢い余ったプルチンは派手に転がってきた。
「うおっ!」
俺が転がってくるプルチンをリーンを抱えながらかわすとそのまま奴は換金機に直撃。あれは卑金貨と呼ばれる硬貨での払い戻し用のやつか。ならまあ、壊れても問題はないだろう。銀貨とかなら冒険者達も困るだろうけど…。
「キノク、ナイス回避」
アンフルーがこちらを見て微笑む。
「お前…、そうしてると凄く美人なんだよな」
「ふ、私の魅力に気付かれた。きっと今夜は寝かせてくれない。…ぽっ」
「そういう所が残念」
「アンフルー、さっさと片付けちゃうニャ。今夜はおいしいご飯とキノクを満喫するニャ」
俺に抱きついたまま頬擦りしているリーンがアンフルーに声をかけた。場違いな俺達の暢気な会話と裏腹にプルチンは強い怒りを募らせる。
「こ、このクソエルフがぁ…」
床に転がったプルチンが起き上がりながらアンフルーを睨みつけた。
「弱い」
「な、なンだとッ!!」
「お前は弱い、間違いない。すぐ分かった、解析の魔法を使うまでもない」
「ふ、ふざけンな!」
「ふざけてない、マジマジ」
「テ、テメー…」
再びプルチンが頭から突っ込んでいく。しかしその動きは妙にぎこちなく思える。アンフルーは再びひらりと身をかわした。
「クソがッ。チョロチョロとッ!!」
「攻撃されたらかわす、当たり前。…というより遅い。これなら魔法職の私でもかわせる」
「デ、デタラメこきやがって!!」
三度プルチンがつっかかっていく。今度はかわそうともしないアンフルー。
「アンフルー!?」
「捉えたぜッ!!クソエルフ!」
プルチンが掴みかかる。…が。
フッ…。
プルチンの手がアンフルーに触れた瞬間、アンフルーの姿が消えた。
「なにィ!?」
捕まえたと思ったアンフルーの姿が消えプルチンがバランスを崩して転ぶ。
ぎゅ…。
俺は後ろから抱き締められた。
「ふふ、キノク…」
「アンフルー!?」
「あれは残像。魔法の霧で幻を作った、触れると消える」
「お、おう…」
「リーンが抱きついてうらやましくなった。だから私もキノクを堪能する。すーはー、すーはー。…はあはあ」
「お、お前、こんな時に…」
「大丈夫、我慢する。今の私はちょっと違う」
「やだ…、カッコ良い」
「夜の私はもっと違う」
「やっぱり残念なヤツだった」
「アイツ、起き上がったニャんよ」
リーンが声をかけてきた。
「ちぇ…、野暮」
そう言うとアンフルーは俺から離れ再び前に出る。
「テ、テンメェ…」
「お前は何もかも足りない。敏捷も筋力も、戦闘技術も、そして判断力も…」
「何言ってやがる!俺は最高位の職業、魔法剣士だ!初陣から新人じゃありえねー上位モンスターを狩ってきたンだ!デキが違うンだよ、デキが!」
「ふっ」
アンフルーが再び抑揚の無い声で吹き出した。
「ああン!?何笑ってンだ!?」
「あまりに無知」
「な、何だとッ!?」
「お前はもう二度と強さに酔える事は無い。西洋将棋で言う所の逃げ場を無くした詰みの状態」
「詰みだと、ナメてんのか!コラァァッ!」
「ふ。なら私も攻撃に出る」
アンフルーが少し真面目な声になった。
「美容と健康の為に私もたまには軽く運動する。…教えてやる、お前が弱い二つの理由を…」
□
アンフルーは手の平を上に向け手の平から玉のようなものを浮かべた。
「ハッ、何かと思えば魔力玉じゃねえかよッ。魔法職なら見習いのガキでも作れる魔力発動の練習みたいなモンじゃねえか」
「お前にこれが受けられるか?」
アンフルーが静かに問う。
「へっ、前衛を務めるヤツなら魔法だって体張って受け止める事もあるンだ!ましてやそんな練習用なんて痛くもかゆくもねえ!パラメーターが違うんだよ、パラメーターが!」
「そう…」
フッ…、アンフルーが紙風船を吐息で飛ばすように浮かべた魔力玉を吹いた。大して速くもないスピードで魔力玉はプルチンに飛んでいく。
「こんなガキの鞠つきみたいなモンで…」
プルチンが軽く投げられたゴムボールをキャッチするような感じで魔力玉を片手で受け止めようとする。…が、しかし。
「う!?うおおおッ!!?」
片手では魔力玉を受け止めきれずプルチンは両手で…、しかも全身で踏ん張るようにして受け止めた。
「ぐっ!!ぜーぜー、はーはー!!」
早くもプルチンが肩で息をしている。
「これが弱点その1。お前はロクに魔力玉すら受け止められるだけの筋力も、踏ん張るだけの体力もない。だから受け止めるのにそこまで苦労し息も乱れている。攻撃魔法ですらないただの魔力の玉に対して…」
「ふざけンなっ!俺は2メートル超えの大剣だって振るう男だ、力が無い訳がねえ!」
「それがキノクのおかげだとしたら?」
「な、なにィ!?」
(キノクのくれるお水の事を言ってるのニャ。アレを飲むと力が湧いてくるのでニャ)
リーンが小声で耳打ちしてきた。飲む温泉水の事か?
「お前達が活躍出来たのはキノクのおかげ。筋力も敏捷も全てのパラメーターが底上げされていた。見た感じお前達は金回りは悪そう、きっとキノクを追放してからはロクに依頼を成功できず収入が途絶えた…違う?」
「ぐっ!!」
痛いところを突かれプルチンが口ごもる、しかし何かを思い付いたのかニヤリと笑った。
「な、ならよう俺は魔法剣士だ。魔法でケリをつけようぜ」
□
「魔法?…お前が?」
アンフルーが首を傾げる。
「そうだ!お前は魔法を使う魔法職なんだろ?だからオレ様も魔法で戦ってやンよ!!」
「どうやって?こんな所で魔法を撃ち合ったら周りにも被害が出る」」
「だからよう、至近距離で撃ち合うンだ!これなら目ェ瞑ってたって外しっこねえ!それに魔法職なら自分の魔力を運用して魔法からの攻撃に対して抵抗力もある、だから問題もねえッ!」
「分かった」
すたすた…。
アンフルーがプルチンに向かって歩いていく、そして距離わずか1メートルの場所で足を止めた。
「ここで良い?」
「ああ…、良いぜ…。オラァァッ!!」
プルチンが腰の後ろ側に身につけていた鉈をいつの間にか抜いたのか振りかぶった!
「あっ!」
俺は思わず声を上げた。
不意打ちだ!そう思った時、俺の目にはプルチンの動きがやけにスローに映っていた…。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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いきなり不意打ちを仕掛けられたアンフルーの運命は?
次回、後編です。