第114話 ケリをつけに行こうか。
広場での自由市を終え俺達は帰り支度。俺は隣にいたケイウンにカキ氷を食う為に使う木ベラ製作の手間賃を払っていた。
「悪いな、あんな木端みてえな端材をちいとばかし削っただけでこんなに貰っちまうなんて」
「いや、それだけの事をしてくれたよ。遠慮なく受け取ってくれ」
そう言って俺はケイウンに金の入った袋を渡した。
「んじゃ、引き上げるとするか」
そう言って俺達は広場を後にする。時刻は夕暮れ近づく午後四時という頃である。帰ったらひとっ風呂浴びて、ちょっと豪勢な晩飯を食って…。宝石を売って得たトラベラーズストーン(旅人用宝石)も現金化しよう。レベルも上がるはずだ。
……………。
………。
…。
自宅に戻り現金化をするとレベルが61まで上がった。そして新たに得た天啓は貸金業であった。貸金業とは文字通り金貸しをして利子を取り儲ける業態である。
この貸金業という天啓、わざわざスキル化しているにはしているだけの意味がある。それというのも金を貸りるなどして俺に対する債務者(返済する義務を負う者)となった者から元金及び発生しているなら利子をスキルによって強制的に取り立てる事が出来るというものなのだ。これは債務者が逃げたとしても無駄な事、金に変えられるものがあればそれを没収する。
「金貸しか…。しかもスキルによって自動的に取り立てられるなら利益率は相当な事になるんじゃないか?問題になるのは相手に支払い能力が無かった時くらいだが…」
必要となるのは元金となる金だけ、しかも元金と利子をキッチリ取り立てられれば何かを売って稼ぐような小売業のように売り物を仕入れる原価も必要ない。キッチリ取り立てられれば美味しい商売だ。しかし、良い事ずくめにも見えるが一つ欠点もある。
「確か金貸しってこの国では業務としてやるには商業ギルドに加入しなきゃなんだよな…。でも、俺の商売って街の商会とかから何か仕入れる必要も無いしギルド会員になる意味が…。加入金と上げた利益の二割を税として納めるか…。メリットが全く無い」
酒代に1万ゼニー貸したとか個人間なら問題無いが大規模にやるとそれは取締りの対象となる。
「どうしたものか…。いや、待てよ?」
俺は一つの名案を思いついた。
「今なら出来る事があるぞ。貸しというのは返させなきゃなあ…」
「ニャ?キノクが何か悪い顔してるニャ」
俺の顔を見たリーンがそんな感想を述べる。
「そうか?ところでリーン、アンフルー、スフィア、力を借りたい。夕食前に一緒にひと働きしてもらえないか?」
三人が頷く。
「それではまずスフィアは…」
俺は計画を話し始めた。
□
夕方の冒険者ギルドは混雑する時間である。依頼をこなしてきた冒険者が帰還してその報告をしたり、入手した物を換金したり、はたまたある者は併設された酒場で飲み食いをしたり…。そこには独特の喧騒と活気があった。
そんな中を俺とリーン、そしてアンフルーが中を進む。金貨で換算される換金機に一直線。この台は金貨でのみ換算されるのだが、日本人的感覚で言えば金貨は十万円硬貨だ。街中で気楽に使うには高額すぎる。だから銀貨や銅貨を手持ちにしようとする者が大半だ。
だから金貨換算の換金機は並ぶ者はいなかった。そして俺達を気に留める者も…、皆それぞれ自分の稼ぎなどに夢中になっているのもあるがアンフルーによる気配を薄くする魔法の効果もある。すんなりと換金機にたどり着いた俺達は早速品物を台に乗せ始めた。
前回と同じ品物にゴブリンジェネラルとゴブリンエンペラーの魔石を加えて鑑定にかけた。
『一…、十…、百…、千…、万!!』
換金機のカウンターの数字が次々と上がっていき自動音声のようなものが流れる。
チーン!!
換金機の金額表示が1万2千を示して止まった。
「へえ…。今回は宝石無しだけどゴブリンエンペラーとジェネラルの魔石は相当な値段がつくんだな」
俺は思わず呟いた。
「き、金貨の換金機で1万2千だと!?」
「じゅ、12億ゼニー!」
ざわっ!
たちまちギルド内でざわめきが起こる。俺達の気配が薄くなっているとはいえ、換金機の自動音声や評価額を示す数字が隠蔽される訳ではない。そしていかに気配は薄くなっても見えなくなる訳でもない。
「あ、あいつは…」
「追放された荷物持ちッ!」
たちまち俺達は注目の的だ。
「なンだとっ!追放された荷物持ち…ヤツか!?」
癖のある話し方、声のした方に視線を向けると…。
「ふん、ゴブリン相手に逃げ出した偽貴族パーティの一行か」
因縁の四人がいた。さあ、白黒ハッキリさせようか。
…決着の時が近づいていた。