第111話 叩き出されたプルチン達(ざまあ回)
ゴルヴィエル公爵領でスフィアが祖父であるゴルヴィエル公爵にキノクとの同行…、それもこれから共に歩いていく事を頼み込みひと悶着を経て了承を得た。
同じ頃、自分達が招いた危機で旗色が悪くなると護衛対象であるスフィアを置いて我先にと逃げ出したプルチン達。その姿はアイセル帝国の都アブクソムにあるオルディリン神殿の中にあった。
スフィアにくっついていた三人の名もなき輩が森で見かけたゴブリンにちょっかいをかけ、群れ…いや軍団を呼び寄せてしまった。自分達は懸命に応戦し何十匹ものゴブリンを倒したが多勢に無勢、そこをスフィアが一人敵を引きつけ自分達を逃がそうとした。そんな報告を神殿に持ち込んだのである。
俗世との交わりを断ち出家したと言ってもそこは公爵令嬢、さらに言えばスフィアはヴァルキュリエの中でも傑出した槍の才があった。心臓の病があってあれほどの強さを見せていた、もしその病がなかったのならどれほどの高みに至るのか…、誰もがそう考え病を抱えた身であり事を惜しんだ。
「まあ、とりあえずゆっくりしよーぜ。なンたって俺達は姫様の最後のご勇姿をお伝えに来た生き証人なんだからよ!!」
神殿内にある客室でくつろぎながらプルチンが言った。
「そーね。残念ながら食事時には間に合わなかったけど夕食にはありつけそーだし」
「そうですわね、その時にはこちらの司教様も来られるそうですから…。これはオルディリン神殿と人脈を作る好機、今後はこの方面からの依頼も得られるかも知れませんわ」
「うむ。果報は寝て待て…、急がずとも褒美は向こうから転がり込んでくる。それまでのんびりしようではないか、なんせ我らは客人なのだ」
プルチンに負けず劣らず他の三人も図々(ずうずう)しい。丁度お茶と菓子がなくなった所だったのでお代わりを求めようとプルチンは世話人を呼ぶベルを手に取りチリンチリンと鳴らした。こうする事で要件を聞きに人がやってくるのだ。
バンッ!!
客室のドアが乱暴に開かれた。
「な、なンだッ!?」
プルチンが驚くのも無理はない。普通こういう時、客室に伺う者は遠慮がちにドアをノックしてくるものだ。それがこうも荒々しく開けるとは…。
「この食わせ者めがッ!!」
乗り込んできた中年の司祭が開口一番プルチンに向かって憎々しげに叫んだ。さらには武装した衛兵が部屋に雪崩れ込んでくる。
「即刻この四人をつまみ出せいッ!!反抗するなら構わん、少々の手荒なマネも構わん!!」
「お、おいッ!!な、なンだこりゃ!?どういう事だ!」
戸惑ったプルチンが抗議の声を上げた。しかしそれを反抗したと感じたのか衛兵の一人が頭を殴りつけた。
「ガッ!!痛えな、この野郎!!」
文句を言うプルチン、しかし今度は別の衛兵が殴りつけてくる。そしてそれは次第にそれは袋叩きの様相を呈していく。
「な、何しやがるっ!大人しくしているだろうがっ!」
確かに圧倒的な数の前になす術のないプルチンは大人しくしていた。しかし殴られ蹴られ続ける。衛兵達は職務と言うより個人的な感情で殴りつけてくる感じさえする。
「よしっ!つまみ出せいッ!!」
司祭が命じると衛兵達は四人を引っ立てて敷地外へと不要物をを投げ捨てるように叩き出した。
「クソッ!!な、何しやが…」
文句を言おうとしたプルチンに衛兵が所持品を投げつけた。
「るブベッ!!」
それがプルチンの顔面に当たり、最後まで文句は、言う事も出来ない。
「二度と来るでないぞ!!」
そう言い放って司祭は神殿に戻っていく。
「な、なによ。なんでいきなり追い出されてんのよ」
ウナが当惑しているがその理由が分からず呆然としている。しかし、さらに衛兵達から追い打ちがかかる。
「さっさと立ち去れ!」
「目障りだ!」
「動かぬと言うならもう二、三発…」
「わ、分かったッ!」
まさに這々(ほうほう)の体、逃げ出すようにプルチンはその場を離れた。
「な、なんだってんだ!?あれだけ俺達を歓迎してたっていうのによォ!」
「し、司教様との面識が…」
「夕食はどうなるのだ?」
「知るかッ!無くなったンに決まってンだろ!!」
「マジ!?ちょっとゼータクな夕食期待してたのに!」
四人はギャーギャー言い合いながら行く宛もなく街を歩いた。
神殿内のプルチン達への態度が一変した理由、それはゴルヴィエル領にある魔術師ギルドより届いた通信の魔法によるものだ。スフィアは戦死しておらず無事ゴルヴィエル領に辿り着いた事、しかしその道中で冒険者の四人が要らぬ危険を招きあろう事かスフィアを見捨てて逃げ出した事が神殿に伝えられた。
プルチンが抵抗するしないに関わらず衛兵達が彼を殴り続けたのはこの恨みによる所が大きかった。衛兵達にとってヴァルキュリエの存在を神聖視しているフシさえある。勇気を忘れず戦い命を落とした際には信仰する神オルディリンの元へ導いてくれるとされているのがヴァルキュリエである。
ましてスフィアは強さと美しさを持ち、上流階級の出身でありながら衛兵達にも気さくに接していた。それゆえ衛兵達にしてみればプルチンの存在は絶対に許せない存在であった。殴る手にも力が入るというものである。
あてにしていた夕食も食べ損ね、路銀もほとんどない。プルチン達はただ街を彷徨うのみであった。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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正式にスフィアを迎え、キノク達は再び帝都へ…?