第12話 ざまあ回 パーティ・高貴なる血統の敗北。
ウナの力場爆発の魔法が放たれた。この魔法はある一地点を中心に空間の歪みを発生させる。具体的には雑巾を絞るようにして力が発生させ敵をねじ切ろうとする。そして次にその中心の一点から大爆発が起こるのだ。今まで内側に向いたねじ切ろうとする力が働いているところに今度は外に向けて力が広がる大爆発が起こるのだ。その反動を利用した大爆発は普通の爆発の魔法の十倍は威力がある。
爆発の魔法はそこそこの威力の魔法と思われがちだが、実際に戦争で敵の密集部に使われれば敵兵のニ、三十人は屠るであろう恐ろしい魔法だ。その十倍の威力がある、そこから考えてみても恐るべき魔法と言えるだろう。
…ぼんっ!!
確かに魔法による爆発は起こった。しかし、それは予想していたような大爆発ではない。湿気た火薬玉に着火したかのような頼りないものだった。
「あ、あり得ないんですけど〜!!」
出来損ないとしか言い様のない魔法にウナが驚きの声を上げた。汗だくになり疲労した体を両手に持った杖に体重を預けすがるように立っている。
一方でプルチンとハッサムも動いていた。
まずは軽装のハッサムが敵に接近した。
「ぬはあッッ!潜在能力解放ゥゥ!!」
自己暗示にも似た自己強化術を身体に施す。自他共に認める鋼の肉体がさらに膨れ上がる。
本来、人間は自らの身体能力を半分も発揮していない。なぜなら自己防衛の為だ。仮に自分の身体能力を全て発揮して何かを殴りつけるとする、そうなると確かに威力は発揮されるが同時にその力に自分の身体自体が耐えられない。その為、人は無意識のうちに力をセーブするのだ。
「拙僧は鍛え上げた心身でその限界を超えるゥゥゥゥッッ!!」
当初の予定通りハッサムは岩に擬態するモンスターの大きな物に取り着いた。そしてそのまま持ち上げにかかる。
「ふんぬうウウウゥゥンッッッッッッッ!!!!」
無造作に岩に掴みかかる!そして岩が徐々に持ち上げられ始めた。
「よしッ!!良いぞッ、ハッサム!!」
プルチンは左に陣取る大岩に走り寄りながらチラッとハッサムの様子を見て良いぞとばかりに声を上げた。
「も、もう…無理…だ」
自身の膝の辺りまで持ち上げたところでハッサムは力無くそう言うと、踏ん張っていた両足が耐えられなくなり尻餅をつくように後ろへと崩れた。持ち上げ始めていた岩と共に…。
「ぐぎゃああああ〜!!!」
崩れた姿勢のところにその持ち上げかけた岩が覆い被さる。その重さにハッサムは為す術もない。悲鳴だけが上がった。
「チッ…。おい、マリアントワ。回復しといてやれ」
せっかく期待してたのによ…、そんな悪態をつきながらプルチンは自身が相手取ると決めたモンスターに肉薄した。
「豪雷撃!!」
右手で握る鉈の刀身に左手をなぞらせながら魔法を宿らせる。今までこれでどんな敵をも両断してきたプルチン絶対の自信を持つ戦法であった。万物を打ち据えるような豪雷を刀身にまとわせる魔法である。しかし、今はその激しい豪雷の呼び名で呼ぶにはあまり弱々しい…良く言っても電撃と呼ぶようなものであった。
「喉も渇いて疲れてるから俺も本調子じゃねえンだな、まあこんなのザコだからな。いくらでも細切れにしてやンぜ!!」
自信満々、プルチンはそのまま大上段に鉈を振り下ろした。
かつーん!
細い木の棒で叩いたのかと思うくらいの軽い音がした。モンスターにはロクに傷もつかず、それどころか振り下ろした鉈が弾き返された形になる。
「なンだとッ!!?斧とは言わねェがそれなりに分厚い鉈なンだぞ!」
あまりに軽い手応えに一撃を加えたプルチン自信が一番驚いていた。たまたま当たりどころが悪いだけだと思い第二撃、第三撃と攻撃を再開する。
かつーん…、かつーん…。
「クソがぁッ!な、なンでだッ!なンでだよッ!」
理解できないといった感じでプルチンは攻撃を続けた。しかし、愛用の大剣より軽く小さいはずの鉈を使っているのに普段より武器を振るうスピードが遅く力も入らない。
「きゃあああああっ!!」
マリアントワから上がる悲鳴、プルチンは思わずそちらを振り向くと先程やられた投げ飛ばされたハッサムがマリアントワに直撃したところだった。そしてその勢いのまま二人して坂の下に転がっていく。
「プルチン、前見て!前〜ッ!」
ウナの緊迫した声が響いた。
「はっ!?」
プルチンは思わず声を上げた。攻撃を続けたり、マリアントワの方に気を取られ自らが相手にしているモンスターの事を忘れていた。いつの間にか岩から生えたモンスターの腕が真剣白刃どりをするように鉈を押さえこんでいる。押せども引けども鉈はびくともしなかった。
「クソッ!離せ、離せ!」
岩のモンスターに足をつけ踏ん張ってみるが鉈は動かない。そうしているうちにあれだけ強い日差しに苦しんでいたプルチンを急に日影が包み込んだ。驚いて見上げてみるとそこには…。
「あ、あ…。い、一番奥にいたデカブツじゃねえかよ!」
群れの一番奥に陣取っていた巨大な岩のモンスターが間近にまでやって来ていたのだった。
ブンッ!!!
その巨大な岩のモンスターが水平に腕を振るった。為す術なくプルチンはその一撃をまともに受けた。食らった瞬間に身につけていた鉄の鎧が砕け弾き飛ばされる。
「ちょ、ちょっと!こ、来ないでよ。来ないでよーッ!!」
吹っ飛ばされたプルチンはその軌道上にいたウナを巻き添えにして再び下り傾斜の道を転げ落ちていくのだった。
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