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第106話 等価交換 〜命とは等しきもの〜


「い、今…なんと…?」


 訳が分からない…、あるいは何を言っているんだといった表情で俺を見るクソ爺ことアンドリュー。


「聞こえなかったのか?お前の持っている懐剣で、そこにいる孫娘二人の胸を突いて殺せと言ったんだ」


「ふざけた事を申すなっ!」


「何もふざけちゃいない。本気も本気、大真面目だ。…んで?どうするの?やるの、やらないの?」


「ま、孫に手をかけるなど出来る訳ないではないかぁっ」


「どうしてだ?」


「どうしてだと?ま、孫なんじゃぞワシのッ!?」


「それがどうした?俺達三人だって生まれてきた以上は誰かの孫なんだぞ。それを殺そうとしたじゃないか?だったら自分もやれよ、誰かの孫…それがたまたま自分のだったってだけだ」


「くっ!!だ、だが何の罪も無い…」

「俺達はどうだった!!?」

「うっ!!」


 クソ爺が反論しようとしたのを俺は(さえぎ)った。


「俺達に何の罪がある?スフィアがゴブリンジェネラルに襲撃されていたのを救出、死ぬ寸前だった心臓病を治し今回もゴブリンエンペラーによって窮地にあったのを生還しこの城に送ってきた。褒められこそすれ殺される言われは無い!」


 ジジイの身勝手な言い分にだんだん腹が立ってくる。


「罪が無いから殺すな?だったら俺達はどうなるんだ!ふざけてるのはテメーだよ、クソ爺」


「こ、高貴な公爵家にお仕えする我々とお前達のような下賎な野良犬のような輩を一緒にするな!命の重さが違うのじゃ、重さが!」


「なんだ?その口の聞き方は。俺にそんな口を聞くのか?」


「あ…。ああ、いや…」


 反抗的な態度ではスフィアを助けてもらえないかもしれない…、そう考えたのだろう。ジジイは思い上がった口調から一気にトーンダウンした。


「それに今、高貴と言ったか?だったら喜んで孫娘に刃を突き立てるべきだろう?なんせそうするだけでスフィアを助けてやれるんだ。テメーは公爵家に仕えているだけで別に公爵家の血が流れている訳ではない、孫二人も同様にな。だったらありがたがれよ。公爵家の一員でもない下賎な孫の命二つで高貴なスフィアの命を救えるんだ。ホレ、喜べよ。嬉しくて仕方ないだろう?」


「う、うう…」


「お、不満か?公爵家御令嬢のお役に立てるってのに臣下がそれを喜ばないなんて忠誠心が足りないんじゃないのか?貴族の階級、その五爵(ごしゃく)の頂点たる公爵家の御方と召使いとじゃ命の重さが違うんだ、重さがな!ジジイ、テメーが自分で言った事だよな?命の重さが違うって、公爵家と比べたらテメーらなんで下賎の者だろうが!?」


「ま、孫なんじゃ…。ワ、ワシの…」


「ふーん、他人は容赦なく殺そうとしたのにな」


 そんな俺とジジイのやりとりに周りは若干引いている。


「ま、孫を殺せとか…」

「ヤツには血も涙も無いのか…」


 ヒソヒソ声がたまに聞こえる。


「何か言ったか?()()役人?」


 俺が視線を向けると気まずそうに目を逸らした。


「ふーん…。コイツら陰でコソコソ何か言うタイプか…」


 どうしようもねえヤツらだな、ホントに…。そう思った俺は話す相手をジジイからこの有象無象(うぞうむぞう)どもに変えた。


「それにしても可哀想になあ…、お前ら兵士達は…」


 俺は誰とも目を合わせないように斜め上を向いて独り言のように言った。


「ジジイが偽情報に踊らされて俺達を殺そうとした事に付き合わされ結果的にはスフィアにまで刃を向けた、一時的にとはいえなあ…。さらにはそのやりとりに心を痛めたスフィアは倒れ目を覚ます様子もない…。お前達、全員揃って死罪だな」


「「「「し、死罪…」」」」


「このジジイがちょっとだよ、ほんのちょっとサクサクッとやりゃあ…。俺がチョイチョイっとスフィアを目覚めさせるのになあ…。これでなあ…」


 俺は一本のペットボトルを取り出した。


「な、なんだアレ?黄金(きん)色の液体が…」

「ま、まさか…、エリクサーでは!?」

「そうだ、それに違いないっ!」

「あれを使えば姫様はすぐにご回復あそばされるッ!!」


 兵士達は俺が取り出したものを見て色めき立った。


「さあ、どうする?さっさとしないと俺は帰らせてもらう。商人なんでな時は金なり、無駄な時間を過ごす気はない。アンタ達の首がここに並んでも一銭の得にもならん」


「「「「……………」」」」


「スフィアを助けるのか!?助けないのか!?どうするんだッ、さっさと決めろッ!!さあさあさあ!」


 俺はたたみかけた。


「お、俺が言い出したんじゃねえッ!」


 一人の兵士が弾かれたように立ち上がった。すると(せき)を切ったように他の兵士達も立ち上がり口々に叫び始めた。


「ア、アンドリュー殿が…。い、いや、このジジイが命じたからッ!」

「そ、そうだ!コイツが、コイツが俺達を焚き付けなければこんな事にはッ!」

「スフィア様に逆らうつもりは毛頭無い、だから俺達はすぐに槍を置いた!」

「全部このジジイが悪いんだ!俺達は大人しくしてたのにアンタ達三人に偉そうな事を言い続けて姫様を困らせて…」

「それに姫様を治してくれるって言ってるのに従わないからッ!」


 兵士の怒りがジジイに向いていく。


「助かるんだよな、このガキ二人やりゃあ…」


 とある兵士が槍を手に取った。


「それなら早い方が良いッ!薬があっても間に合わなきゃ意味が無い!」


「待てっ!ワ、ワシの孫なんじゃぞッ!」


「それがどうしたっ!そのガキ二人で姫様は助かる!」

「そうすりゃ俺達全員死罪はなくなる!」


 その言に勢いを得たのか兵士達が槍を手に取りジジイと孫を取り囲む。


「ヒイッ、待てっ!待てっ!ワ、ワシの可愛い孫なんじゃ!何の罪がある?何の罪があるんじゃっ!?」


「奇遇だな、ジジイ。さっきまで俺も同じような気分だったよ」



「…どんな気分だ?」


 俺はジジイに向かって言った。


「兵士達に槍を向けられ絶対絶命。その孫二人、同じような立場だろうよ。幸せだろ?スフィアの為に死ねる孫を持って」


「こ、この人でなしがっ!」


「そりゃお前の事だろ?」


「わ、悪かった」


「今さら遅い!」


「ぐっ!な、ならばワシを殺せ!」


「良いぜ。だが足りないな」


「た、足りない?」


「そうだ、殺されかけたのは俺達三人だからな。そっちも三人でなければな。死んだら終わり、それはこの世の真理だ。皇帝だろうと奴隷だろうと決して覆せない(ことわり)だ。身分の差はあっても、失ったら終わりなのが命の等しさ。さあ、(つぐな)え」


「うぐぐぐ…」


 ジジイが歯ぎしりをする、そんなやりとりをしていた時だった。


「ぎゃっ!」


 小さな悲鳴が上がった。その方向を見ると…。


「ル、ルナ!」


 ジジイが叫ぶ。そこには背後から兵士によって槍で刺された孫娘の姿があった。






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