第104話 正義ヅラするつもりはない
「な、な、な、なんじゃとおっ!!」
アンドリューと呼ばれた男は再び激昂した。
「五月蝿い!お前が騒いでスフィアの病が治るのか!?そのせいでこの病への対応を誤って取り返しのつかない事になったらジジイ、テメーは責任取れんのか!?」
先程までの俺達への態度に怒りを覚えていた俺はついつい乱暴な口調で言い返した。
「だいたいスフィアが倒れたのはジジイ、お前のせいだ!何の咎も無い俺達を死罪にしようと捕えようと。さらには抵抗すれば殺しても構わんと兵士達に命じた。そのせいでスフィアは胸を痛めたんだ、あまりにも無体なその言い草にな」
「な、何をバカな…」
「彼女は神オルディリンに使えるヴァルキュリエ、信仰厚い騎士であると同時に民を慈しむ公国の姫でもある。俺はこの数日スフィアと旅をしてきたが、彼女の言動には常に人を思いやる態度があった。初めて会った日、ゴブリンジェネラルから身を呈して彼女を守った四人の兵士を埋葬した時の悲しみに震える姿には特にな…」
「ヤ、ヤシウユ達か…」
同僚だったたのだろう、兵士達の中から動揺する呟きが聞こえた。
「だからスフィアは誰よりもその胸を痛めたんだ。共に旅をし、助け合って戦い、過ごしてきた俺達を思って取り囲むお前達の中に割って入って槍を構えた、俺達の命を守る為にな。彼女はそういう女性だ、誰より己に対し峻厳(非常に厳しいという意味)で他者には分け隔てなく接する…そんな素晴らしい女性だ」
「キノク…さま…」
スフィアの声がした。俺はアンドリューのクソ爺や兵士達の方を見ているからその表情は分からない。だが俺の言に反論が起こらないところを見るに一定の納得はあったのだろう。そう解釈して話を続ける事にした。
「病の理由は分かってもらえたかな。…さて、いかなる名医でも打つ手無しのこの病だが治す方法が一つだけある」
「ッ!!?さすがキノクだニャ!!あの黄金の心臓に効く薬を錬金術で作ってスフィアの病気を治したのはダテじゃないのニャ!!」
「ほ、本当なのか!アブクソムの神殿においても姫様の御病状はすっかり癒えたのを確認したと伝えられたが…」
クソ爺が何か言っている。
「な、ならば、そこの男!その姫様を治すというたった一つの方法とやらをさっそく実行に移すのじゃ!ええい、早くせんか!!」
「おい」
「なんじゃ!?早く姫様をお治しせんか!!」
「断る!!」
「何いっ!!」
「断ると言ったんだ、聞こえなかったのか?」
「こ、この痴れ者めがっ!!」
ジジイは再び懐剣を抜くと俺に突きかかった。しかしその攻撃は俺に当たる事はなかった。攻撃は俺の近くまで来たが、粘液の多い魚の体表のヌメリに包丁の刃が立たず滑ってしまったかのようだ。体ごとぶつかってくるような攻撃だったのでジジイは勢い余ってバランスを崩し俺達の横を転がった。
「なんでお前に命令されなければならない。それと俺達の命を奪おうとした奴の言う事を聞く気はない。ふざけんな、馬鹿」
「ぐくっ!!」
地面に転がったクソ爺が呻いた。
「何がお治しせんか、だ。頼めよ、誠心誠意」
「な、なんじゃと!だ、誰がお前ごときに…!!」
「嫌なら良いぞ。スフィアがどうなっても良いのならな」
「キノク…。スフィアの意識が…」
アンフルーの声に振り返ると先程まで開いていたスフィアの瞳は閉じられていた。
「ひ、姫様!」
ジジイが慌てる。
「俺はお前の家来でもなんでもない。だから命令されるいわれは無い。そこらへんをよく考えろ…どうするのかをな…。だが、一つだけ教えてやる。もし、スフィアに何かあったら…」
俺は声を低くした。
「それはジジイ、全てお前のせいだ」
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次回予告。
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次回、第105話。
『等価交換』
お楽しみに。




