第99話 無理せず休もう。そしてその頃…。
翌朝、俺はいくらかは体力が回復していたが元通りの元気な状態とはならなかった。さすがに昨日脈が止まりかけるような状態…、つまりは死にかけたのだからいきなり全快とはならないらしい。
それと言うのも俺の個人的な感想だが血を流し過ぎたんだと思う。ポーションにより傷は癒えたが、なんと言っても体の中に血が足りないというのが正直な感想。
「ゲームなんかでは回復呪文というのは確かにあるけどさ、傷がふさがるのは分かる。しかし流した血はどうなるんだろうと気になってたんだよな」
結果として分かったのは傷は確かに塞がる、しかし血液とか元気とか色々なものが足りない感じがする。つまりは生命力とかいうパラメーター的には回復しているが、体力とか疲労とか栄養とかについては数値に現れてはこないんだな。そうなると今俺達に必要なのは…。
「今日は一日、休養に充てたいんだが…。それで良いか?」
「賛成ニャ〜」
「ん…。もう少し寝る…」
「は、はい。わたくしもこのままキノクさまと同じオフトゥンの中で…」
俺がリーン達三人に声をかけると、同じ布団の中にいる彼女達が返事をした。俺よりはるかに元気な三人だが、リーンにせよスフィアにせよ休みなく戦い続けたし、アンフルーも白兵戦こそなかったが魔法を多用していた。当然、疲労はあるだろう。
「んじゃ、まだのんびり寝るとしよう。…アンフルー、偶然を装って俺の体に手を這わせるんじゃない。…スフィアも、さりげなく体を押し当てつつ体をこすりつけるような動きはやめなさい。リーンは寝相が悪過ぎ、顔にお尻を押しつけるように寝るのは駄目だ。普通に寝なさい、普通に」
「これは仕方ない。血を失って体が冷えているキノクを温める為にしている…言わば人助け」
「そうですわ。ですからわたくし達が文字通り一肌脱いでおりますの!」
「ふニャァ…」
俺は一緒の布団の中にいる三人に呼びかけたが、コイツらまともに聞いちゃいない。ちなみに出血の多かった俺は体温が下がっていた。そこで昨夜は風呂上りで体が温まっている三人が寄り添って寝る事で体温を温めてくれる事になったまでは良かったのだが…。
「こ、これは裸で温め合うしかないというあのシチュエーション!わ、わたくし興奮してキマシタワー!!」
「ん、ヤるしかない。もう他に選択肢は無い。キノクにあるのは『はい』か『イエス』、そのどちらか」
「ボクも本来なら裸でオフトゥンの感触を味わいながら寝たいのニャ!」
全裸で風呂から戻ってきた三人が妙なやる気を見せていたが、とりあえず下着だけは着るように促し一緒に寝る事にした。俺にくっついて寝たがるリーンのまるで猫のような行動、アンフルーとスフィアは事あるごとに『肉弾戦』に持ち込もうとする。それを制しながらの就寝であった。
まあ、アンフルーにせよスフィアにせよ、そしてリーンもそれぞれ魅力のある存在だ。悪い気はしなかったがケジメだけはしっかりしとこうと考えていた…。
その後はのんびりと数時間寝て昼過ぎくらいに起き出し、ちょっとしたご馳走で生還と勝利を祝った。夕方には全員で入浴をした。一人で入れるのだが、この世界では誰かと常に入浴をしたいのだろうか、妙に距離感が近く人前で服を脱ぐ事にもあまり抵抗が無いように感じる。
日本も今はコンプライアンスがどうだこうだと言われているが、平成ヒトケタぐらいまでは割とお色気番組は多かったと言うし深夜番組ではむしろ競っていたくらいらしい。案外おおらかな世の中なのかも知れない。
アンフルーが体力や精力がつくと言っていた虫の抜け殻と渓流で捕まえたウナギのような生物エイトアイを干したもの…、それらを混ぜて作ったお手製のスタミナポーションにこれまた自作の十二倍強心薬を服用した。
「味も悪くないな…、正直意外だ」
風呂上りのスタミナポーションを飲んでみてその出来に驚いている自分がいる。
「んん!ボクも〜」
ぐいぐいと頭を押しつけながらリーンがじゃれつくようにペットボトルのスタミナポーションをねだる。一口やるとアンフルーもスフィアもリーンを真似るように求めてくる。
「精力絶倫」
「ああ、体がなにやら火照ってきましたわぁ!」
「お前達はすでに体力回復してたんだな。それでスタミナポーション飲んだからそれ以上に元気になって…。うーむ、スタミナ(意味深)…。と、とりあえず今は休む時だ!」
そう言って何やら怪しげな行動をしたがるアンフルーとスフィアをかわしながら一番危険が少なそうに思える無邪気なリーンを抱えて寝る事にした。
……………。
………。
…。
その頃…。
武器も荷物も捨てて逃げ出したプルチン達四人は…。
「ああっ、クソッ!」
街に戻れず逃避行を続けるプルチンが悪態をついた。
闇雲に逃げた為に街道から逸れたアブクソムからおよそ20キロほど離れた森の中を歩いていた。彼らがゴブリンに攻撃を仕掛けた場所は道から百メートルも離れてはいなかったが、方向も何も考えずに逃げ出した為に森の中を突っ切る形となった。すると当然周囲360度の全てが森の風景。目印も無く、たださまよう事となる。
「もしかしてコレ、迷いの森とかって思うんですケド」
ウナがうんざりとした様子で呟いた。
迷いの森…。
森に住む妖精や妖魔が森を歩く者にいたずらで魔法をかけて迷わせたり、あるいは森にかかる呪いやそこで力尽きた者の怨念が人を街に戻さないようにしていると伝わる伝承だ。
しかし、それは正解ではない。
中にはそういう事もあるが、これはただ単に四人が迷子というだけ。森の中という周りを見通せない状況が方向感覚を狂わせているだけである。
「あっ、チラッと川が見えましたわ!」
「でかした!マリアントワ!」
「うむ、これで水の心配がなくなった」
「とりあえず川辺で休むぞ。逃げ続けだからな、あの数のゴブリンだ。追手に見つかったらしつこくついてくンだろーし」
「あーね。でも荷物も捨てて逃げてきたから食料も無いんですケド」
「我慢すンだよォォ!!なあに、今だけ!今だけだ!オレ様達がオルディリン神殿に今回の一件を報告して…。そう、涙ながらに報告すンだよ。そうすりゃどうよ?姫の最後の言葉と様子を伝えたとして褒美にあずかれるかも知れねえ!」
「確かに!さらに言えば私達の身なりはあの大雨と逃げ続けて事でドロドロですわ。いかに過酷な脱出劇だったかも一目瞭然。その苦労の跡が見てとれますわ!」
「そういう事だからよ!報告に行けばメシにもありつけんだろ!考えてもみろよ。神殿の食事っていやあ質素ってのが通説だがパンだけは柔らかいってのがお約束だ。なンたってその時に必要な分だけしか焼かない。つまりよ、保存の必要がねえ!だから水気が飛びきるまで固く焼きしめなくても良いンだよ。それを楽しみに行こうぜぇ!」
プルチン達は知らない。
すでにキノクの一行がゴブリンエンペラーとその軍団を全滅させていた事に…。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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次回、第100話
世界樹の根
お楽しみに。