第98話 エンペラー(皇帝)の失言
大量の…、それこそ背負い袋を何個も要するような数の魔石が手に入った。俺以外の三人が魔石を集めている。
スーパーなどで販売しているお米の10キロパック、それをパンパンに膨らませたものがいくつも俺が休んでいる足元に置かれている。戦利品として集めた魔石やら、何かの役に立つかもとゴブリンエンペラーが使っていた金棒などを俺は拠点に持ち帰る。それを数回繰り返してやっと運び終わった。
部屋に戻ると俺達はホッと息を吐いた。誰がきっかけかは分からないが不意に笑い始めた、それをきっかけに四人全員が笑い始める。普段はあまり表情を変えないアンフルーも笑っていた。俺は体力的にキツかったので弱々しい笑いとなったのだが…。
手慣れたものでリーンが素早く布団を敷いていた。
「さあ、早く横になって休むニャ!」
「…ああ、ありがとう」
「お待ちになって。服も破れて血塗れですわ。お風呂に入って…は厳しそうですわね。なら、お湯で湿らせた布で体を拭いた方が良いのではなくて?」
「そう言えばそうだニャ。ボク、布を湿らせてくるニャ!」
てててて…、リーンがフットワークも軽く風呂場に駆けていく。そうして濡れタオルを手に戻ってきたリーン達が甲斐甲斐しく俺の体を拭き始めた。
「そう言えばキノク。武器も魔法もほとんど効かないゴブリンエンペラーをどうやって殺したのニャ?」
「ああ、窒息死だよ」
「どういう事ですの?」
「物を燃やす時、酸素という空気の中に含まれる成分を必要とするんだよ。たとえば蝋燭の炎を消すのに城の中では息を吹きかけて消したりはせず取手の付いた器のような物を火にかぶせて消すだろう?」
「はい、息をかけて火を吹き消すのは作法に反しますから…」
「その時に使う火を消すあの道具は蝋燭にピッタリとかぶさって密閉状態になる。それで密閉状態の中で酸素を使い切ると火は燃え続ける事が出来なくなり消えてしまうんだ」
「ニャ!だけどさ、キノク〜。それがどうしてゴブリンエンペラーを仕留める事につながるのニャ?煙に巻かれた訳でもないのニャ、火に包まれてもヤツは息をしていたみたいなのニャ」
「実はな、酸素というのは火が燃えるだけでなく生き物が生命を維持するのに必要不可欠なものなんだ。だからあれだけ激しい火の手が上がる中にヤツを放り込めば生物として必要な酸素が不足するのではないかと思ってな。何しろ炎はゴブリンエンペラーの体よりも外側や高いところまで到達していた」
「確かにそうだったニャ」
「これは炎と酸素が結びつくのにそこまでいかなければならないという事、炎の中は酸素が不足していたんだ。ましてやゴブリンエンペラーはあれだけの巨体だ。生きていくのに水や食い物も相当に必要だろう、…当然酸素もな」
「ゴブリンエンペラーは炎の中でも息は出来たけど、空気の中にある体に必要なものを絶つ事で実施的に息を出来ないのと同じ状況に…。そして殺した…って事?」
「EXACTLY!!」
「それは思いつかなかった」
「あのゴブリンエンペラーは『あらゆる攻撃にたいして無敵に近い防御』だった。だが、生命そのものが無敵だった訳じゃない。寿命がある、あるいは攻撃以外で死ぬ事があるんじゃないかと思ったんだよ。他の生き物と同じようにな」
「なぜ?」
「ヤツは言ってたよな、男は殺して女三人には子供を産ませると…」
「確かに言っておりましたわ」
「そこで思ったんだよ。生物が子孫を残すのは命の危機があるからだ。だからヤツも自分が命を失う可能性があるから子を産ませようとしてるんだと…。死なないなら子供を残す必要はないからな。それを裏付ける聞いた話もある。俺の田舎じゃ、木に果物が実をつけたら枯れさせない程度に水をやって肥料をやらなくしてたんだ」
「ニャ!?それはどうしてニャ?有るんなら常に水も肥料もいっばいあげて大きくした方が良いんじゃニャいの?」
リーンが吹き終わった俺の胸元あたりに自身の頬や頭をこすりつけるようにしながら尋ねてきた。
「そうするとな果物の木はこう思うらしい『水も栄養も豊富な土地だ、これなら枯れてる心配もないからどんどん大きくなるぞ。だから種が中に入った実には栄養を回さなくて良いや』…ってな。だからあまり良い実が採れなくなるんだ」
「ええっ!?そうなのかニャ!?」
「逆に枯れない程度の水だけにすると『なんとか枯れない程度にこの土地には水があるけど日照りが続いたりしたらそれもどうなるか…、栄養も無い土地だし…。よし、なら自分が枯れても子孫が生き延びられるように良い実をつけよう。鳥や動物が種を運んでくれるように周りには栄養ある美味しい果肉をつけておびき寄せるんだ…。そしてその実を食べた鳥が栄養ある土地に種を運んでくれたらな』ってな」
「ふニャ〜」
「死ぬかも知れない、だから子を残す。あれだけ強いゴブリンエンペラーも種の保存という本能をさらしていた。だから戦闘以外なら殺せる可能性がある、そう思ったのさ。まあ、窒息しなかったら持久戦だ。餓死でもさせるかと考えていたけどな」
「さすがキノク」
アンフルーがそう言いながら腰のあたりに手を伸ばしてくる。
「そこは自分で拭くし、自分で脱ぐだから良いぞ」
さりげなく下着を脱がせようとするアンフルーに対して俺は先手を打っておく。
「キ、キノクさま、いけませんわ!そんな、わたくしの目の前で下着を脱ぎ捨てそのまま…」
俺の下腹部を凝視しながらスフィアが手を伸ばそうとする。
「くんくん…、これは何ニャ?気になるからよく調べニャいと…」
リーンまでが股間のあたりに顔を近づけてきた。
「お前ら、風呂行ってこい…」
俺はトランクス一枚という魔界でも一撃で鎧が粉々になるような衝撃でも決して破れる事はない最強の防具を死守しながら三人を風呂場に送り出した。