第11話 ざまあ回 パーティ・高貴なる血統の分岐。
「クソッ!クソッ!」
岩に擬態したモンスターにやられた怒りに任せプルチンは地面の石を蹴り飛ばす。傍目に見ると地団駄を踏んでいるようにも見える。
「静かにして下さいまし!あなたは金属製の鎧を着てるからあまり怪我してないかも知れませんけど、私達は違いますのよ!」
最初に自分に回復魔法をかけてから至聖女司祭マリアントワはハッサムとウナの回復を開始する。
「ちょっとー、マリアントワ!アンタ、手ェ抜いてない?あんまり痛みも引かないし、怪我の治りも遅いんですけどー!」
治してもらう立場だがウナが早速文句を言い始めた。
「いつも通りですわよ!」
マリアントワが言い返す。
「ふむ…。いつもはマリアントワ殿に世話をかける程の怪我はしておらなんだ。慣れてないのは仕方あるまい」
全て理解しているぞと言わんばかりに悟ったような表情でハッサムが語る。そんな表情にマリアントワは自分の魔法の腕前を疑われているような気がして嫌な気分になってきた。
「至聖女司祭の回復魔法ですわよ!これ以上のものなんて司教様くらいのものですわ!あなたがた、もっとありがたがって然るべきですわ!本来ならどれだけのお布施を積む必要があるか…」
そうなのだ、豪商や貴族が回復を願い出てくる事がある。その時、多額のお布施が積まれる。…もっともその多額の金銭も正教会に取られてしまう。建前だけなら聖職者は清貧であるべし、だが実際は正教会の上層部に吸い上げられる集金システムに過ぎなかった。
「…で、どーするの?先に進むのー?」
ウナがやる気の無い口調で問いかけた。
「当然だ!!」
プルチンが吠えた。
「えー」
「当たり前だろうがッ!俺達は高貴なる血統だぞッ!」
プルチンが乾いた口の中にかろうじて残っていた白濁した唾を飛ばして三人に言い放つ。
「失敗できねえンだよッ!」
「「「ッ!!!」」」
「言ってみろ!今回の依頼主サマの名前をよォ!先代の皇帝陛下の御実弟リンスター・ニンル・ゴルヴィエル大公だぞ!!普通に考えたら雲の上…、いやそんなンじゃ足りねえくらいの大物じゃねえかよッ!そんな御方の依頼だぞッ、俺達みてえな木端貴族じゃねえ!本物のお貴族サマだ!」
血走った目でプルチンは語る。
「良いかッ!絶対に成功すンだよ!絶対になァァ!!そしたら俺達も大公サマのお近づきだ…。出世も褒美も思いのままだ、へへッ!やるだろ…?なあ…、やるって言えよ、コラァ!!」
時に議論を制するのは理でも情でもなく、声の大きさという事がある。今回はまさにそれであった。そうして四人は再び疲れた体に鞭を打ち先程の岩石に擬態するモンスターの群れの元に向かった。蒸し暑い中、渇いた喉を抱え三十分以上の時間をかけて…。
「思い出したんだけどよ、あの岩石野郎どもを蹴散らしたらそのまま進むぞ。確か川があンだよ、そこで水をいくらでも汲ンで飲むンだよ!」
「「「おー」」」
先程やられた時に大剣を取り落としてきてしまい、武器が無いのでプルチンはハッサムが背負うパーティの荷物の中から木の枝などを切り払う鉈を取り出した。両手に持って構えてみる、斧のようにして使う事にした。
例のモンスター達が見えてくる。再び岩に擬態している。あの時は不覚をとったが今度はそうはいかない。
大魔導士のウナが長い呪文を唱え始めた。大魔法だ、詠唱に時間はかかるが練り上げられた魔力は凄まじい破壊力となって敵を襲うだろう。
「ハッサム、お前も最大の力を振り絞れ!最初の一撃から飛ばすぞ」
「心得た、拙僧は全身全霊の力を発揮する全潜在能力解放の秘術でもって右手前方にいる大きい奴を持ち上げて最奥の一番巨大なやつに投げつける。敵は硬い、ならば敵同士をぶつけて二匹を同時に沈める。巨大な奴が倒れなければ…」
「ああ、分かってるぜ!俺は左手前にいるデカブツを鉈に魔力を込めて粉砕してやる!へへッ、魔法剣の威力、たっぷりと味あわせてやるぜ、岩石野郎め!その勢いに任せて一番奥の大将を殺るぞ!マリアントワは切り込む俺達に補助魔法と回復魔法の準備だ!出来るな!?」
「え、ええ。分かりましたわ」
マリアントワは自信が無さそうに応じた。プルチンはついさっき奴らにやられたばかりだから少し怖気づいてるだけだろうと思って大して気にも留めなかった。そうするうちに大魔導士ウナの詠唱が完了した、あとは放つだけである。
「覚悟は良い?」
「ああ!いつでも良いぜ!」
「うむ!」
二人の前衛がいつでも駆け出せるように姿勢を低くした。
「行くわよッ!!力場爆発ッッッッ!!!」
ウナの切り札とも言える大魔法の一つ、凄まじい爆発力を生み出す最大魔法が放たれた!それは一方的な蹂躙が始まる開戦の合図でもあった。
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