第94話 実は良い奴!?ゴブリンの皇帝
「巨大………ピットフォール(落とし穴)じゃ」
詠唱の内容とは裏腹にまったくの平坦な口調で魔法を発動させるアンフルー。絶対、後でこの詠唱について突っ込んでやる。しかし、魔法の腕は確かなアンフルーだ。
先程まで空堀だった所は平らな地面になり、散らばっていた火葬にしたゴブリン達の魔石を踏み散らかしながら押し寄せる後続のゴブリン。その中心に巨大な真四角の穴が空いた。ゴブリン達は元々転がっていた魔石と共に突如開いた奈落に落ちる。
さらには後から続くゴブリン達も落ちていった。車は急に止まれない、そんなフレーズがあるがそれは突撃してくる者にも同様らしい。穴の存在に気付いて急停止しようとするゴブリンもいたが、後続はそんな事は知らない。
「ギィギャ!ギャッギィギ、ギィギャア!!」
押すなよ、絶対に押すなよとでも言っているかのような立ち止まったゴブリン。だが、後ろはお構い無しに押し寄せる。
どーんっ!!
真っ逆さまに落ちていくゴブリン、だが押した者は次に押される者になる。まるで海や川に次々に飛び込むと言われるレミングの集団自殺のようだ。もっとも最近では自殺する習性がある訳ではない事が分かってきているのだが…。
だが、さすがにゴブリンの落とし穴への集団落下もいつまでも続くものではない。押し寄せるゴブリンの波に歯止めがかかってくる、そしてついに完全に止まった。
また左右に分かれて来るんだろうな、そう思った時だった。
森の奥の奥…、そこから低く大きな咆哮が聞こえた。あれがリーンの言う親玉のものだろうか。…ついに来るか。
また一つ、大きな咆哮。目を凝らす、先程のゴブリンジェネラルより大きい何かが垣間見える。
ゴブリン達は戸惑っている。まるで穴があるから先に行けないのに行けと言われているかのようだ。例え自殺行為でも進軍せよと言われている現場の兵隊、そんな事を考えさせられる。
三度目の咆哮、軍団は動かない。落とし穴を迂回して攻めてこない、やはり『まっすぐ突撃、押し潰せ』とでも言われているのかも知れない。
そんな事を思った時だった。森の奥の何かが何かの動作をし始めた。
「気をつけろ、奥の親玉が何かするみたいだ!」
「ニャッ!キノク肩車ニャ!ボク、目が良いから何するか見るのニャ!」
ぴょんっ!
リーンが俺の肩に跳び乗る。
「デカい奴が…、棍棒みたいなのを大きく振りかぶって…」
「振りかぶって…?」
「ニャッ!ぶん回したニャ〜!」
「なにィ!?」
信じられない事が起こった。
ばたばたばたばたっ!!
穴の手前あたりのゴブリンが将棋倒しのように倒れて穴の底に落ちていく。運良くそれにまきこまれなかったゴブリンが数体だけ残りあとは全滅といった感じ。
「す、すごいパワーだニャ!アイツが周りをなぎ払ったらゴブリンがふっとばされて…。こ、ここまでパタパタと…ドミノを倒したようだニャ…」
ドミノってこの世界にもあるのか…。
「ま、また振りかぶったニャ!」
「ど、どうするつもりだ!!?」
俺にもなんとか見える距離、そこで敵はまた棍棒のような物を振りかぶっているらしい。そしてそいつがまた何かした。
「ご、ゴブリン達が!」
おそらくゴルフのショットのように振るったのだろう。ゴブリンの遺体が次々に飛んで来て穴に落ちていく。
「し、死体を吹き飛ばして…、それが周りを巻き込みながら飛んで来たのニャー!!」
「な、何のつもりだ!?み、味方なんだよな?手下なんだよな?」
「わ、分からないニャ!で、でも…」
「でも?」
「ヤバいヤツだって事は分かるニャ!グレートキングなんかより…」
「マジかよ…」
逃げようかな…、俺はそんな事を考えていた。
□
親玉が来た。
近づくにつれそのヤバさが分かる。デカい…。
ずしんっ…!ずしんっ!
奴が歩くたびに俺の足に振動が伝わる。
ヤツはここまで来るまでに何回か手にした物を振るった。そのたびにゴブリン達は吹き飛ばされ穴の底に落ちていった。何体落ちたか…それは分からない。きっとスーパーで買ったお米の袋に穴が空いていてそこからサーッとしばらく漏れていった米粒を数を数えるるようなものだろうか。
だが、あまりにたくさんの数のゴブリンが穴に落ちた事で穴はだいぶ埋まってきていた。敵が持っていたのは日本の昔話で鬼が持っているような金棒だった、それもとてつもなく巨大な…。それを敵はさらに振るう。今度森の木を何本もへし折った。それを穴に投げ入れる。
リーンとスフィア、そして俺はジリジリ後退、アンフルーと合流。その時にはゴブリンの死体や森の木が穴をほとんどふさいでいた。敵はそれを踏みつぶしながら穴を渡った。
「ゴ、ゴブリンエンペラー(皇帝)、レベル100」
「ひゃ、100!?俺は50。み、みんなは?」
「41だニャ!」
「37…」
「38ですわ…」
お、俺が一番高いのか…。だけど戦闘職ではないし…。
戦うか、逃げるか…?そう考えているとなんとゴブリンエンペラーがたどたどしい共通語で話しかけてきた。
「おめえたず、よっぐもオラの手下を…」
「しゃ、しゃべったニャ!」
「ええ、訛りがひどくてよく意味が分かりませんけど…」
「通訳、する?」
「あ、ああ、頼む。アンフルー」
「私が仲間に通訳するから、もう一回始めから話して」
なんとアンフルーはゴブリンエンペラーに向かって言い放った。こ、殺されるぞ!!
「おめえたず、よっぐもオラの手下を…」
あれ?エンペラー素直にリピートしてくれたよ、もしかすると良い奴なのかも知れない。
「あなたたち、よくも私の手下を…」
「い、いや。俺達よりお前の方がどう見ても殺しているだろう!」
「オラはええ、おめえたずは駄目。皇帝の道サ邪魔する穴ポコぉ埋める為にオラは手下サ押っ圧しただけだべ」
「私は良い、あなた達は駄目。皇帝の道を阻む穴を埋める為に私は手下を押しただけです」
「だからって部下…、いや手下をそんな風に扱うのは…」
「おめえ、なぁに馬鹿な事言ってンだ?手下サ、どう扱おうとオラの勝手だべ。それに押っ圧すな、絶対に押っ圧すなよと言った奴がいたっぺ?ああいう時は押っ圧してやんのがお約束ってモンだべ」
「あなた、何を馬鹿な事を言っているんですか?手下をどう扱おうと私の勝手でしょう。それに押すなよ、絶対に押すなよと言った奴がいたでしょう?ああいう時は押してやるのがお約束というものです」
「それはちょっと分かるけど…」
「だぁから、オラはおめえたず懲らしめてやるだ。おどこは殺す、おなごにはオラのセガレ産ませてやるだ」
「だから私はあなた達を懲らしめてやりましょう。男は殺す、女には私の男の子を産ませてあげましょう」
そう言うとゴブリンエンペラーは巨大な体軀に金棒を振りかざして襲いかかってきたのだった!!やっはり良い奴ではなかったようだ。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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襲いかかってきたゴブリンエンペラー。
リーンが、スフィアが、キノクが…、さらにはアンフルーも加わって絶え間なく攻めかかる。
しかし、ゴブリンエンペラーには秘められたスキルがあった。
それはあらゆる攻撃に対して強力な耐性があるというもの。
「だ、駄目ニャ!まったく効いていないニャ!」
「攻撃魔法が…通じない?」
ゴブリンエンペラーは元々が強靭な種族、それがさらにスキルによってさらに手強くなっていた。
打つ手無し、戦いはそんな言葉さえ浮かぶ状況になっていくのだった。
次回、第95話。
『倒せない!?強すぎるゴブリンエンペラー』
お楽しみに。