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第92話 長蛇の陣と三連の輝き


「な、なんで倒れないんだッ!?」


 俺は戦慄していた。森の奥、薄暗い中でも分かる自分が放ったクロスボウの矢が描いた軌跡。それは間違いなく頭部に命中していた、二匹ともにだ。間違いなく頭を貫通している。


 即死のはずだ。頭を撃ち抜かれているのにッ!


 戸惑いがどうして、なんでと頭の中をぐるぐる回る。


「キノク、落ち着くのニャ!ホブゴブリンの後ろをよぉ〜く見るのニャ」


 五、六匹ほどのゴブリンをあしらいながらリーンがさけんだ。


「ホブゴブリンの後ろ?」


 俺はよく目をこらして森の奥を見た。ホブゴブリンの背後に鈍く黒光りする何かが見えた。そしてさらに言えば二匹のホブゴブリンの頭が何者かにガッシリと握られている。


「な、なんだ…あれ?」


「ゴブリンジェネラル(将軍)ニャ」


 俺の声にリーンが応じた。



「ゴブリン…ジェネラル?」


「ニャ!鎧兜に身を包んだゴブリンだニャ!」


 ゴブリンの小集団を空堀に蹴落としリーンが応じた。


「ジェネラルはキングに引けを取らない体格で武勇に優れた個体。スカウティング(斥候)……レベル61」


 いつの間にかエメラルドの単眼鏡(モノクル)を身につけたアンフルーが敵の強さを計っている。


「ジェネラルはゴブリンの中で武勇に()けた種です。斬り合いには滅法強いと言われていますわ」


「倒せない訳ではないと思うニャんけど…。反対に魔法が苦手と言われているニャ」


「な、なるほど」


「私が…」


 アンフルーが進み出る、ジェネラルが苦手とする魔法で仕止めようと考えたのだろう。だが、少し動きに精彩を欠いている。まだ先程使った大規模な魔法による魔力が回復しきっていないのだろう。


「いや、アンフルー…、ここは休んでいてくれ。戦いはまだ続きそうだ」


 俺はゴブリンジェネラルの後ろにまだ続いているゴブリン達を見てそう言った。逃げる事も頭が()ぎったが、撤退しながらの戦いは難しいと言うし…。


「でも…」


「何があるか分からない以上、アンフルーには余力を持っていて欲しいところ…」

「な、何をする気ニャ!?」


 俺がアンフルーに待機を求めようとした時、リーンがゴブリンジェネラルの方を指差して叫んだ。


「あ、あれは…」


 森の奥、なんとゴブリンジェネラルが二体のホブゴブリンの頭を掴んだまま吊るすように持ち上げていた、…そして!!


 ぶぉんっ!!

 ぶぉんっ!!


 ホブゴブリンの死体をなぎ払うように振り回す。たちまちあたりのゴブリン達が打ちのめされ宙に舞った。


「仲間割れ?…いや、違う!」


 よく見るとゴブリンジェネラルは無差別にホブゴブリンを振り回している訳ではなさそうだった。まるで鎌で邪魔な雑草をなぎ払うようにこちらに進んでくる。


「アイツ、来るぞ…闘志満々で。戦いたくて仕方がないみたいだ、だから手下を…ゴブリンをどかして自分が前に出てこようとしてるんだ」


「グゴォォォーッ!!!」


 一際大きな声を上げるとゴブリンジェネラルは二刀流のようにホブゴブリンの死体を大きく振り回した。今まで散々負荷がかかっていたのだろう。ぶつっと音を立てて二体のホブゴブリンの首から下がねじ切れて吹き飛ばされたゴブリンと共に森の中に飛んでいった。


「……………」


 胴体が千切れて無くなり手の中に頭部だけが残ったホブゴブリン、それをゴブリンジェネラルは声も出さずに無言で見ていた。まるで不思議な物を見ているかのように…、だがそれも数秒の事…。


 ぐしゃり…。


「あっ!!」


 俺は思わず声を上げた。なんとゴブリンジェネラルは両手のホブゴブリンの頭を握り潰したのだ。そして鎧に包まれていない太腿のあたり…、ズボンの布地で血塗れの手を無造作に拭くと背中に背負った大きな蛮刀とでも言うような形状の武器を抜いた。


 日本刀のように反りがある刀身だが細身ではなく幅広で肉厚。なんと言うか…中国武術で使う青竜刀のようだ。それを両手持ちにしたような感じ…。


 ゴブリンジェネラルはそのまま歩いてくる。そしてアンフルーが魔法によって作った空堀の手前まで来ると無造作に青竜刀を振るい茂みをなぎ払った。まだゴブリン達を焼いている火は燃え続けている。


 不意にゴブリンジェネラルはグッと身を沈ませると大地を蹴って高く跳ぶ、そして3メートルはある空堀のこちら側に着地した。


「わ、腕力だけじゃなく足腰もしっかりしているみたいだな」


「やるしかないニャ」

「ええ…」


 いつの間にかリーンとスフィアが俺の近くに戻ってきていた。ゴブリン達は…進軍の動きを止め空堀の向こうからこちらの様子を見守っているかのようだ。ゴブリンジェネラルとの距離、およそ30メートル。


「陣形を変える!長蛇(ちょうだ)の陣!山森での戦いに向いた布陣だ、特に一列になって動く時は機動性も上がる。その代わり攻撃力は元に戻るからな」


 俺は簡単に二人に長蛇の陣の簡単な説明をした。ゴブリンジェネラルが無造作に持っていた蛮刀を構えた。


「スフィアは先陣、気を引くように仕掛けてくれ。リーンは二番手、ヤツの注意がスフィアに向いたところを一撃。俺はクロスボウで援護をする。あとは流れでいこう」


「はい」

「ニャ!」


「いくぞ!!」


 その言葉にスフィアが駆け出し、リーンが続いた。戦いが始まった。



 たたたんっ!!

 

 俺は手にした三連式のクロスボウの引き金を三連射、ゴブリンジェネラルの胸元あたりを狙った。それをゴブリンジェネラルは武器を持っていない方の片腕で振り払うように防御した。


「ほとんど刺さりもしない、ロクにダメージを与えていないな」


 どうやら物理に強いというのは伊達ではないようだ。俺は撃ちきったクロスボウを捨て次のクロスボウに手を伸ばす。その間にスフィアがゴブリンジェネラルに接近。


「…ッ!!」


 槍の長さと特性を活かしゴブリンジェネラルの武器を持つ手を狙ってスフィアが突きを入れる、それを手首を返すようにしてかわすジェネラル。それにより蛮刀の切っ先が下を向いた。


 そこにリーンが飛びかかる。武器を持つ手は下を向き、反対の手は俺の矢を振り払ったばかり。完全にガラ空きだった。さらに言えばリーンは低い姿勢でスフィアのすぐ後ろを影のように進んでいた。ゴブリンジェネラルから見ればスフィアの背後の死角からリーンは迫っていた、不意打ちである。


 予想もしていなかった驚きか、ゴブリンジェネラルの目が大きく見開かれた。そこにリーンが思い切り振りかぶった腕を振るう。拳ではなくピンと指を伸ばした一撃、いわゆる貫手(ぬきて)である。


 それは狙い澄ました強烈な一撃。いかに強靭な生物でも眼球は鍛えられない。リーンの手首あたりまでがゴブリンジェネラルの頭部に突き刺さっていた。


「グォガアアッ!!


 苦悶と怒りの声を上げゴブリンジェネラルは矢を振り払った手でリーンをつかもうとする。しかし、リーンは素早く手を引き抜いてゴブリンジェネラルから離れていた。


 そこを俺の射撃が襲う、三連射。首元のあたりに命中、多少の傷を負わせる。さらにはスフィアが敵の膝の裏あたりを槍で刺すとたちまちゴブリンジェネラルはバランスを崩した。


「戦い慣れているな、リーンもスフィアも。鍛えられない場所を効果的に狙っている」


「ふニャあああッ!!」


 リーンはいつの間にか腰の後ろ側に差していた大型のククリナイフを抜いていた。それをジェネラルが武器を持つ手に叩きつける。その小指が千切れ飛び、薬指も大きく切り裂かれた。あれではもう大振りな蛮刀は満足に持つ事も出来まい。


 それからも俺達は油断する事なくゴブリンジェネラルに手傷を負わせていく。終わってみればこちらにダメージはない、時間はかかったが完勝であった。


「うーん、三人で連携して敵を討つ。ジェットス◯リームアタックもこんな感じなんだろうか」


「キノク、敵ニャ!親玉が来るニャ!」


 俺の呟きにリーンの注意を呼びかける声が響いた。

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