第90話 プルチン達はゴブリンも倒せず逃亡
ゴブリン…。
ファンタジーRPGではポピュラーな存在、成人男性より一回りか二回り小さな体軀のモンスターだ。一匹一匹の身体能力は大した事ないが徒党を組んで行動する事が多い。木を削った棍棒や拾ったりしたであろう小剣や手斧などで武装し、時には集落を襲う事もある。
非常に多くの個体で生息し住処を作る事も珍しくなく、上位種である強靭なホブゴブリンや特殊技能を持つゴブリンシャーマンやゴブリンプリーストなどが生まれる事もある。
また、力による支配により階級社会を形成する事があり、人間社会で言うところの将軍に当たるゴブリンジェネラルや王であるゴブリンキングなどバラエティに富む。
……………。
………。
…。
「な、なんでだッ!?なんで倒れねえンだよォォッ!」
最初の一匹…も倒せた訳ではなく、他のゴブリンと向かいあった状態でプルチンが半ば恐慌をきたしながら叫んだ。その間にも森の奥の方から新手のゴブリンが飛び出してくる。
「ファイアーバレット(火弾)ッ!!」
大魔道士のウナがお得意の火属性の攻撃魔法を唱えた。派手好きな性格と相まってウナは爆炎系の魔法を好む。…ただ、飛び出したのは人の拳ほどの小さな火の玉。それが一匹のゴブリンに向かって飛んでいき命中。ゴブリンは炎に包まれる…事はなかった。火力が弱過ぎてゴブリンの上半身を焼いているが絶命には至らない。地面を転がって体についた火を消して生き延びたゴブリンはなんとか立ち上がると恨みのこもった目でウナの姿を見つめた。
「ひっ!な、なんでっ!?なんで魔法をくらって生きてんのよっ!?」
「わ、分かりませんわよっ!は、早く倒して下さいませんこと?こ、このままじゃ…」
「あ、アンタがなんとかしなさいよっ!」
「わ、私は至聖女司祭ですわよッ!癒しや浄化ならともかく…」
後衛としてウナと共にいたマリアントワはそう叫ぶが、回復しかしないと言うのは戦闘自体には貢献しないと宣言しているようなものだ。
「言い争ってる場合かニャ!!」
ウナとマリアントワの目前に迫っていたゴブリンをリーンが飛び蹴りで倒した。
「な、なンでだ!ゴブリンが、ゴブリンがこンな強いなンて!」
「じょ、上位種ではないのか!?ゴブリンではなくホブゴブリンの集団では…」
「そ、それだ!だからてこずるンだッ!」
「どう見ても普通のゴブリンですわ!ホブゴブリンはもっと大きい個体ですわよっ!」
スフィアは槍でゴブリンを突き倒していく。多数と戦う事を想定し突き倒す度に同じ位置に引き倒す。ゴブリンの死体を壁にして囲まれる事を防ぐ為だろう。
「ホブゴブリンというのはああいうものを言うのではなくて!?」
スフィアが示した先…森の奥から人間の背丈より大きいゴブリンの個体がやってくる。ゴブリンとは一味違う存在感である。
「ヒ、ヒイイッ!む、無理だ、かないっこねえ!!」
そう叫ぶとプルチンは剣を捨てて逃げ始めた、ハッサムが慌てて後に続く。
「ちょ、ちょっとプルチン!」
「む、無理だ!死にたくねえ!それにゴブリンってのは女を優先して襲うモンだ。それも高貴な令嬢とかエルフを優先してって言うだろがッ!」
「あ、アンタ、まさか!?」
「どーせかないっこねえ!だから逃げるンだよォォッ!!囮に丁度良いのがいンじゃねえかッ!神殿にはゴブリンの大軍にやられたと言やあ良い!俺達は止めたが誇り高い姫さンが敵に後ろは見せられンからここは任せてお逃げなさいと言ったとかよう!」
それに同調しマリアントワが、ウナが、そしてハッサムが逃走した。
「余計な事をした挙句、逃げ出すとは…」
「まあ、ウザいのがいなくなったから良しとするニャ」
「スフィア、リーン、きっちり後で責任は取らせる。今は切り抜けるぞ」
……………。
………。
…。
「ピットフォール(落とし穴)!!」
アンフルーが大きい身振りで手を横に振った。たちまち前方に幅3メートル、深さ3メートル、長さ数十メートルの空堀が生まれた。茂みから足元も見ずに飛び出してきたゴブリン達が次々とその空堀に落ちていく。
「上手いぞ、アンフルー!茂みから出た所に落とし穴とは!ロクに前も見ないで飛び出してきたゴブリンがそのまま落ちていく」
「時間を稼いで、少しで良い」
そう言ってアンフルーが魔法の詠唱を始めた。
「リーン、スフィア、時間を稼ごう。アンフルーが魔法を使うみたいだ」
俺は新たに合成して作り上げた特殊なクロスボウを手に取った。引き金を引くと割り箸ほどの短い矢が一度に十本放射状に放たれる。それが穴を這い出ようとしたゴブリン達を一気に射殺した。
「分かったニャ!きっとアンフルーは独自魔法を使うのニャ!」
「分かりましたわ、しばらく戦線を維持しますわ」
二人から了解の言葉が返ってきた。
「押し出してくるのはゴブリン、ホブゴブリンはまだ前線には出て来ていない。弱い個体ばかりなら早い殲滅が良い、攻撃力を優先しよう。リーン、スフィア、攻撃優先の陣形を取る!」
「ニャ!」
「はい!」
「鶴翼!!」
俺は新たなスキルの名を叫んだ。
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次回予告。
押し寄せるゴブリンの大軍。
アンフルーは幅数十メートルに及ぶ強大な炎を生み出した。
まともに悲鳴を上げる間も無く絶命するゴブリン達。
しかし、中には運良くそれを避け近づいてくるものもいる。
数で押し寄せられると不利になる可能性がある。
迅速に処理する必要があった。
次回、第91話。
『新スキル!!鶴翼の陣』
お楽しみに。