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第87話 女子三人の入浴を音声と香りでお楽しみ下さい(ざまあ回)


「風呂を先にするか、食事を先にするか、どっちが良い?」


「うー、どちらも捨てがたいのニャ!!」

「意外と今日は蒸してたからお風呂が良い」

「確かに外歩きでしたから入浴を先にしたい気分ですわ」


「なら、風呂を先にするか。リーン、構わないか?」


「ニャー!」


 そんな訳で風呂場にやってきた。


 ぱちん!


 俺は換気扇のスイッチを押した。


「あれ?キノク〜、何したのニャ?」


「ああ、何でもない。ちょっとしたおすそ分けというやつだ」


「おすそ分け?」


 アンフルーが聞いてきた。


「これはな室内にこもった湿気やニオイを部屋の外に吐き出すものだ。さっきのおすそ分けだが、今回は嫌がらせとも言う。まあ、三人とも気にせず先に風呂入ってきて良いぞ」


 俺はニヤリと笑った。


「キノク、悪い顔してるニャ〜」


 リーンがそんな風に応じた。


……………。


………。


…。


《そう言えば御主人(マスター)


 ん、どうした?ナビシス。


《換気扇の機能なんですが…》


 ああ、湿気とかニオイを外に…っていうかあっちの世界に排出するんだろ?


《それについてもう一つ機能を追加しておきました》


 ほう、それは…?


《匂いだけでなく、音声も伝わるようにしておきました》



 その頃…。


 森を通る街道脇で野宿をする事になった四人は…。


「な、なンだったンだ?いきなり姿を消すなンて…」


「あれも荷物持ちのスキルだと言うのか?」


「あー、違うんじゃね?エルフいたしー」


「なるほど。あのエルフの魔法がそうさせたんですわね。…それにしてもやはり森の中は慣れませんわ。藪蚊(やぶか)もいますし、蒸しますし…」


 今日は妙に蒸し暑く、歩いているとじっとりと汗が出ていた。特に昨夜、酒量がついつい増えてしまった四人は体内に水分が多く溜まってしまったせいか汗の量も多かった。汗でベトついた肌が妙に気持ち悪い。


「水はあるンだ。焚き火して湯を沸かし布を湿らせて体を拭く事にしよう」


 即座に賛成の声が上がる。


「こうやって森の中でも湯で体を拭くなど貴族たる我らだからこそであるな」


 焚き火に水を貼った大鍋をかけながらハッサムが言った。


「ホントよねー。あの荷物持ちなんかそんな事なんて考えないでしょーね」


「まったく、スフィア様も可哀想ですわ。あんな貴族でもない男についていったばっかりに」


「まあ、しょうがねえンじゃねえか?だけどよ、しばらくしたら戻ってくンだろ。あんな無能に、しかも荷物なんか持ってなかったからロクに食うモンもねえ。逆に縋ってくンじゃねえか?」


 そんな事を高貴なる血統が言い合っている時だった。


 ぱしゃあんっ!!


 いきなり水音がした。何事だとプルチン達は辺りを見渡すが当然誰もおらず水なんかも無い。


「な、なンだ!?」


 ぱしゃあんっ!ぱしゃあんっ!!


 さらに水音が二つ続いた。


「ああ、やはり最高ですわ。こうして旅先でも湯で体を洗えるなど…」


「「「「ス、スフィア様ッ!?」」」」


 なんとこの場にいないスフィアの声がして四人は驚く。


「本当ニャね〜。旅先じゃせいぜい湿らせた布で体を拭くぐらいしか出来ニャいもんね」


「これもキノクのおかげ、感謝」


 おまけにあの猫の獣人とエルフの声までしてくるではないか。プルチン達は顔を見合わせた。


「さーて、体を洗うニャ!ボクね〜、今日は薔薇(ばら)のニオイのぼでぃそーぷを使いたいのニャ〜」


「良いですわね、わたくしも同じで…」


「同感」


「よーし、背中を流しっこニャ〜!」


 しばらくすると辺りには湯気と薔薇の香りが漂い始めた。


「な、なンだッ!?急に花のニオイがっ?」


「良いニオイじゃん、何コレ?」


「薔薇の香りですわね、まさかスフィア様達の使っている…」


「ぬうっ、何なのだ!?これはッ!」


 驚き戸惑う四人をよそにリーン達の楽しそうな声は続く。


「やっぱりキノクのこのポーションはスゴイのニャ!フワフワの泡で肌が包まれて気持ちが良いのニャ」


「香りも素晴らしいですわ」


「お肌ツルツル、これでキノクを誘惑。…じゅるり」


「背中を流しっこしようニャ〜」


「良いですわね」


「スフィア、良い腰回り」


 プルチン達四人はそんなスフィア達の楽しそうな声を聞いているしか出来ない。


「「「「………」」」」


 しばらくするとスフィア達は体を洗い終えた。泡を湯で流す音がする。手桶を使っているのだろうか、景気良く体の泡を流す湯の音が響く。


 プルチン達は鍋一つで湯を沸かそうとしている。しかし先程から響く体の泡を流す湯の音は、その一回でプルチン達が沸かしている湯の量と同じくらいだろうか。しかも自分達はその鍋の湯を四人で共同で使わなければならないのだ。


 旅先でも体を清潔に保つのは貴族の優雅な(たしな)みとでも思っていた四人だが、スフィア達ははるかに優雅な過ごし方をしている。しかも、それを用意しているのはどうやらあの荷物持ちの仕業(しわざ)らしい。


「よーし、お湯に浸かるニャ〜!!」


 ばっしゃーん!!


 大きく派手な水音が響いた。


「な、なンだッ!?」


 突然響いた音にプルチンが驚いた。


「まあまあ、リーンさん。そうやって派手にバスタブに飛び込んで…」


「スフィアもやるニャ〜」


「えっ、そんな…」


「気持ち良いのニャ!」


「そ、そうですか?では…」


 ばしゃあん。


 リーンの時よりは遠慮がちな水音が響く。


「アンフルーも来るニャ〜」


「ん、レピテーション(浮遊)……解除」


 ぱしゃあんっ!


「凄いのニャ!天井ギリギリから落下するニャんて」


「ん、これは気持ち良い。やはり大きなバスタブは手足が伸ばせて良い」


「三人で入ってもゆったり出来るこのバスタブの広さ、やはりこれは凄いものですわ」


「キノクのおかげニャ!それにしてもあったまるニャ!」


「ん、昼は蒸し暑かったけど夕方には風が冷たくなり始めていた。温かい、最高」


……………。


………。


…。


 スフィア達の楽しそうな入浴の様子はプルチン達を無口にさせていた。自分達の現状とあまりにも差がある、貴族の嗜みと言っていた体を清潔に保つ事…それが遥かに高い次元で行われている。


「ゆ、湯を張ったバスタブなンて…」


「一泊で金貨一枚飛んでいくような高級宿じゃないのよ…」


 ばらばらっ。


 プルチン達の頭上で葉を打ちつける雨粒の音がした。


「降り始めましたわね…」


 マリアントワが頭上を不安気に見た。


「ぬうっ、荷物持ち…彼奴(きゃつ)の言った通りになったか…」


 降り始めた雨はあっと言う間に本降りになってきた、しかも大粒の雨。たちまち鍋をかけていた焚き火の火が消えた。


「あ、雨宿り出来る場所はッ!?ど、どこかに洞窟でもなかったか?」


「な、無いわよ!あったとしてもここから離れられないわよッ!スフィア様を護衛してるんだから!」


「そこの大木の根本なら少しはマシですわ!」


「うむ。(みな)、手分けして荷物を急ぎ木の根本にッ!濡れてしまうッ!」


 プルチン達四人は体を拭く事もなく大慌てで大木の根本に避難した。風は強まり体は濡れ容赦なく体力を奪っていく。一方でスフィア達三人は長風呂が好みなのか楽しそうな声と水音が続いていた。


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