第83話 気づき始めた愚か者達
「あン?なンだぁ、こりゃあ?」
冒険者ギルドになんとか帰ってきた冒険者パーティ高貴なる血統の四人、その先頭にいたリーダーの魔法剣士のプルチンはギルド前での騒然とした雰囲気を一目見て戸惑いの声を上げた。
ギルドの中では蹇々諤々(けんけんがくがく)、互いを非難する声や誹謗中傷する声に満ち溢れている。その声は建物の中から聞こえてきた。
「おい、どうした!?何をそンなに騒いでやがるンだ?」
建物に一歩入るなりプルチンは大きな声で呼びかけた。
「あっ、プルチン」
受付嬢のパミチョが自分に不利な激論の輪から離れ帰還したプルチンに駆け寄った。
「おう、パミチョ。何の騒ぎだ?」
「き、来たんだよ!あの荷物持ち!」
「あン?何だと?へえ…あの役立たず、生きてやがったのか。何の能力も無えからどっかでのたれ死ンだモンだと思ってらたぜ。…つーか、そうなるとアレか?乞食同然のカッコして来たのを追い出したとかか?」
「あっ、マジウケる。ボロボロのカッコしてたとか?」
貴族の生まれと言ってはいるが、その言動のレベルが同程度の大魔導士のウナがプルチンに同調し馬鹿にするように口を開いた。
「それが身綺麗でさ、三人も女連れてさ…」
「はあ?女連れだと!?」
「そうそう。猫獣人とエルフと黒髪のと…」
「ぬうっ、面妖な…」
「あの無能について回る理由があるはずありませんわ!逆にその三人にくっついているのでは?」
至高修道士のハッサムと至聖女司祭のマリアントワがそんな事なんかある訳ないとばかりに口を開く。
「そうじゃないの!なんか仕切ってるていうか、三人を引き連れて…みたいな感じで…」
「まさか!あり得ねえだろ!?」
「しかもさ、換金機に売り物持って来てさ…」
「あ?薬草か?それとも食える草か実か?奴はパン買う金もなかったからな」
「そ、それが子供の頭くらいの大きさがある魔石とか蜂蜜、宝石もいっぱいあった」
「なンだとッ!?」
「そ、それいくらになったの?」
「き、金貨で…は、8千枚以上…」
「は、8千だあ!?」
「そ、それって8百…8千…、じゃない8億!?は、8億ゼニー以上って事?」
「う、うん」
頷くパミチョをプルチン達は信じられないものを見ているような気がして仕方なかった。高貴なる血統の四人はキノクを追放しておよそ二十日、その間には一度たりとも依頼は成功していない。つまり無収入だ。呪われた魔法の袋をつかまされ所持品も失い、さらには路銀も尽きようとしていた。
「し、信じられねえ…。だが、運が回ってきやがったぜえ…」
プルチンはニヤリと笑った。
「なに?どういう事?」
ウナの問いかけにプルチンは名案を閃いたとばかりに自信満々といった表情で応じる。
「ヤツをとっ捕まえるンだよォ!そうすりゃ荷物持ちは確保出来て、奴の金もこっちに入ってくる。使ってやンだよォォ、俺達が有効にヤツの金を…」
「それは名案ですわ」
「うむ、それがいい」
プルチンの発案にメンバーが頷く。そもそも自分の金ではないのだが…。
「あっ、この話を教えたのは私なんだから何か奢ってよねー。8億あるんだし少しくらい良いっしょ!?」
パミチョもプルチンにのちゃっかり話に乗ろうとする。
「ヘッ、まあ良いぜ。それにしても8億ゼニーか、そンだけありゃあ…わざわざ冒険になンて行かなくても良い暮らし出来ンじゃねえかよう。よし、前祝いだ、今日はパア〜ッと飲んで明日にでもヤツを捕まえに行くぞ。ヤツには家は無え、宿屋を探せば見つかンだろう」
…こうしてプルチン達はここ最近…およそ二十日近くの間に一つの依頼の成功も無いのに飲みに行ってしまった。あの無能…、奴さえ捕まえれば大金が転がり込んでくる…。そう思うと手持ちの金が四人合わせて20万ゼニーを切っていたのにも何の不安もなかった。
しかし、プルチンには誤算があった。その頃キノクは…。
……………。
………。
…。
「凄いな…、自由市が終わったその日だというのに…」
「そりゃそうや!なんたってあんさんが顔を出す可能性があるんや!ワイかてここを見張る事を考える。ここに来たっちゅう事は次の自由市に参加する日取りを決めたっちゅう事やろ?さ、いつなんや?勿体つけんと早う教えてくんなはれ」
商業ギルドに行くと最初に声をかけてきたのはあの関西弁風の言葉で話す商人、他にも宝石を売る時によく目にする面々がいた。
「いや、まだ日取りは決めてないんだよ」
「へ?じゃあ、あんさんは何をしに来たんや?」
「ああ、宝石以外も売れないかと思ってな。あと、いくつか他の宝石も新たに入ってはいるが…」
「な、なんやてッ!そ、それ早う見せてくんなはれ!買いまっせー、おあつらえ向きや。丁度なあ、いつあんさんが宝石売りをしても良いように店から金を取り寄せたトコや。さあさあ、見せてくんなはれ」
「おお、見せてくれ。我々も買いたいんだ!」
他の商人達からもそんな声が上がった。
「ちょ、ちょっと!物を売るのはもう少し待ってくれませんか?」
若い男…、いや成人前の子供といった感じの子が必死になって商人達をかき分けて話しかけてきた。俺はそれに応じる。
「どうした?」
「だ、旦那様を呼んで参ります。近くの宿に泊まっておりますので…。ぼ、僕はあなたがここに現れたら自由市の予約をした日を聞いてお知らせする役目を申しつかっていて…。でも、こうしてすぐに何かを売り始めるのならすぐに知らせて参ります。ですから…」
「分かった。…十五分だ、十五分後に売り始める」
「は、はいっ!」
そう言うと少年は外に駆けていった。他にも同様な子供がいた、おそらくは下働きとか見習いなんだろう。それぞれ主人達に知らせに行った。その間に俺達は商人達に商業ギルドのロビーのような場所に案内された。
「おい、俺達は商業ギルドに加入してる訳じゃないんだぜ?会員でもない奴がこんな風に座っていたら…」
「かまへん、かまへん。ワイらは会員や、そのワイらの大事な取引相手なんやからあんさんが使うても問題あらへん!」
「分かった。アンフルー、時間が来たら品物を取り寄せてくれ」
そして時間が来たので販売を開始した。売ったのは家に届いていた人工宝石とゴブリン達とレギオン、そしてミミックロックの魔石。これだけで四億を超えてしまった。
ここまでで良いか…、昼間との合計で十億超えたし…。そう考えた俺は販売をこれまでとして商業ギルドを後にした。
商人達はどこに行けば会えるかなどと聞いてきたが俺は応じなかった。旅暮らしだから寝泊りする所は点々としているとだけ答えた。
だから商人達は俺達の生活の拠点を知らない。
それは同時に高貴なる血統の四人にしても同様であった。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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10億ゼニーを稼いだキノク。現金化したらレベル13から50にパワーアップ!新たに得る天啓は….?




