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第10話 ざまあ回 パーティ・高貴なる血統の渇き。


 森で一泊したキノクとリーンがのんびりと起き出し、さらには首都アブクソムへの帰路をのんびりと薬草を採取したりしながら進んでいる頃…。


 キノクを追放した冒険者パーティ『高貴なる血統』の四人は新たな依頼をギルドで受領し目的地へと向かっていた。とある難病に効果のある薬剤を作る為に不可欠な材料を取ってくる事、それが目的である。


「かったるいわねぇ〜、荷物を持って歩くなんて大魔導師(アークウィザード)サマのする事じゃないわよ」


「グチなんてこぼしてンじゃねーよ。荷物持って歩くくらいあの役立たずでも出来てた事じゃねーか。なんなら俺達四人分のを持たせてたんだぜ!出来ねー訳ねーだろ」


「そりゃあそーだけどさー」


 大魔導師(アークウィザード)のウナとリーダーの魔法剣士(ソーサリーソードマン)プルチンが苛立ち混じりのやりとりをしながら歩いている。


「だが、ウナの言葉にも一理ある。荷物持ちの従僕(じゅうぼく)を得てから出発しても良かったのではないか?」


 四人の中では最も大きな荷を背負う至高修道士(ハイモンク)のハッサムがプルチンに呼びかけた。重い板金鎧(プレートメイル)を着込んだプルチンは多めに荷物を持つと身動きに支障が出る。そこで重さがあまりない武道着を身に着け体格も良いハッサムが多くの荷物を運んでいた。


「あン?それじゃ金かかるだろーが、正式に雇うとなるとよォ!それに依頼主(スポンサー)サマは迅速な依頼の達成をお望みだ、チンタラ探してるヒマなんかねーよ!その点、あの役立たずならタダ同然で使えたのによ」


 ハッサムの問いかけにプルチンは不機嫌そうに応じた。


「とりあえず休憩にしませんこと?荷物を抱えて足下(あしもと)が悪い所を歩くのは疲れますわ。(わたくし)、喉が(かわ)いてしまって…」


 そう訴えるのは至聖女司祭(ハイプリエステス)のマリアントワ。


「そーだな。おっ!あそこに座るのに手頃な岩が転がってるのが見えるよな?」


 プルチンは少し前方を指差した。ここから始まる登り傾斜(けいしゃ)の道、その先に岩場の崩れたものが見える。


「とりあえず、あそこまで行って一息つこうぜ」


 プルチンの言葉に一同は頷いた。



「ぜーはー、ぜーはー」


 昨夜の雨とはうって変わって良い天気になった。そのせいで湿気が多く、この時期にしては珍しい強い日差しが降り注ぐ。蒸し暑さに慣れない荷物を抱えた行程は四人の体力を奪っていく。さらには崩れた岩の残骸(ざんがい)が長い年月をかけ傾斜を下ってきたのだろう。足下が悪いせいでさらなる疲労を招く。


 四人は軽口を叩く余裕もなく、汗で衣服が肌に張り付き不快感も増してくる。荒い荒い四人の呼吸、それが会話の代わりだと言わんばかりに互いの耳に届いた。


「ああ…、もー、サイテー!!」


 手頃な岩に腰掛けたウナがすぐに愚痴(ぐち)り出した。ようやく目指した岩場にたどり着いた。下から見た時は短い距離と思ったらゆうに三十分以上はかかっていた。しかも強くなる日差しを(さえぎ)るものがこれまでも、そして今も無くジリジリと体力を奪っていく。


「あんなに…、足下が悪いなンてな…」


 プルチンもいつもの威勢の良さが鳴りを潜める。背負っていた大剣を(さや)ごと外し体の前に回してグッタリとしている。身につけている金属製の鎧が恨めしかった。戦っていない時はこんな物、ただ重たいだけの役に立たない疲労を増加させるだけの物に過ぎない。


「ところで水筒は誰が持っていますの?(わたくし)、水が飲みたいですわ」


 軽装であり、少しは正教会での奉仕活動をした事があるマリアントワは体力的に四人の中では一番余裕がある。水を所望(しょもう)と普段はキノクにするように自らが欲しい物を言葉にした。


拙僧(せっそう)は持っておらぬぞ」


 ハッサムがマリアントワの言葉に応じた。四人の中では最も体力のある彼だが、慣れぬ大きな荷物を背負いその疲労は軽くはない。その返事にウナもプルチンも色めき立つ。


「はあ!?なんで持ってないのよ!意味分かんない!」

「ああ!なんで持ってねーンだよ!?」


「なら貴殿達は持っておるのか?」


「「「…………」」」


 ハッサムを責めようとした三人は一斉に押し黙る。


「拙僧は四人分の寝具や鍋釜(なべかま)といった雑貨までも持っておる。これ以上は背負袋(バックパック)には入らぬぞ。それこそ自分用の水筒も持てぬくらいにな。逆に問うがその負担をしていない貴殿らは水を持っておらぬのか?」


「い、嫌よ!水なんて持つの!だって重いじゃない!」

「そうですわ!淑女(レディ)に重い物を持たせる気ですの!?」

「俺は金属の鎧に大剣を背負ってンだ!これ以上持てる訳ねーだろ!…チッ、使えねーな!おい、役立たず!水だ、水!早く出せ!!さっさとしろ!」


 しーん。


 いつもそうしていたようにプルチンは大声でキノクに命じた。しかし、それに返事をする者はいない。


「「「「……………」」」」


 役立たずは昨日追放した、その事を四人は改めて思い出す。


「クソがッ!!」


 プルチンは思わずといった感じで腰掛けている岩に拳を落とした。


 もぞもぞっ!!


 するとプルチンが座っていた岩が…。それだけではない、他の三人の座っていた岩も続いて動き始めた。周りを見ると他の岩も動き始めている。丸い岩石の胴体に細い石で出来た手足が生えた。


「な、なんだコイツらッ!」


 岩に擬態していたモンスターに四人は慌てる。その間にもモンスターは四人の体を細い手で掴み、力任せに放り投げた。


「うっ、うわああああっ!!」


 下り傾斜も手伝って四人は勢いよく今来た道を転がり落ちた。登ってくるのにあれだけ長い時間かけたのに下る時には短い時間。投げ落とされた四人はあちこちに怪我をして泥だらけ。さらには悪い事にプルチンは愛用の大剣を先程のモンスターの群れの中に取り落としてしまっていた。


 冒険者パーティ『高貴なる血統』、初のつまずきであった。





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